脱出を目指して

【蛇毒:主に神経毒、出血毒、筋肉毒に大別される。タイタンの場合は出血毒の一種。】


……知ってる洞窟だ。解毒されて毒が体内から無くなったとはいえ、やはり身体がだるい。今までの戦いで一番ギリギリだったのは確かだ。

大蛇やハウンドとの戦いを経て、考え出した結論はただ一つ。ガリア平原に囚われている今の状況はとても危険だ。大蛇との戦いで攻撃力と防御力もCに上昇したようだし、出るなら今しかないだろう。俺は日記帳などを毛布で風呂敷のように包み、移動を開始した。


「制服もボロボロだな……」


いや、むしろよく保った方だろう。ハウンドの牙の跡が残ったズボンに、シャツも至る所に穴が空いている。今はコートで誤魔化してはいるが、この状態では新しい服すら買えないかもしれない。

洞窟を出て、湖に隣り合わせながら南を目指した。鑑定で調べると方角が視界に表示されるので、本当に鑑定様様だ。湖は途中で川になっていて南東に流れているらしい。それから歩き始めて一時間半、ようやく吹雪が弱く吹いている付近に到着した。上を見ると薄っすらとだが、青空と白い雲が見える……全く、何日ぶりだろうな。


「……またな、ガリア平原。」


俺の発言に合わせて何となくだが、吹雪が弱まった気がする。吹雪の吹く音が寂しそうに聞こえたからだろうか?俺としては何回も死にかけたのであまり良い思い出は無いけどな。そして俺はまた歩き始める。更に南下していくと、雪解け水が作り出した草原が広がっていた。この辺りから雪は殆ど降らなくなり、代わりに草木が増え始めたのだ。俺はその景色を見ながらゆっくりと歩いていく。


「温度差は……あんまり無いみたいだな。」


寒冷耐性のおかげか急激な体温変化による悪影響は無いようだ。それにしてもこの草原は涼しくて過ごしやすいし、一旦休憩にしようと思う。何時間も歩いているから流石に疲労感が出てきた。近くの川岸に荷物を置いて、腰を下ろした。

川には小さな魚の魔物がいるようで、たまに跳ねる姿が見える。それにしても道中は魔物に襲われなかったな……心当たりとしては、ガリア平原がこの辺で一番大きな魔物の発生地帯だからかもしれない。まぁ、襲われないのならそれに越したことは無い。


≪熟練度が一定に達しました。スキル『考察(レベル6)』が『考察(レベル7)』に上昇しました。≫


そういえば帝国は滅んだ、と鑑定で調べると書いてあったな。俺としてはできれば今日中に野宿から卒業したい。鑑定で周辺地域に人がいるか調べてみるとしよう。


≪この付近には、かつてガリア帝国の首都であった"ガルディアの跡地"、五年前に村が集まってできた"貴族の領地である街"が存在します。≫


なるほど……とりあえず日記のこともあるので、帝国跡地に行ってみることにした。暫く歩いていると、前方に年季の入った石橋が架かってるのが見える。苔が生えていたり、つたが絡まっているのを見るに、長期間放置されて、誰も整備しなかったのだろう。

道は残っていたが、道標になる石柱が壊されていたりと穏やかではない。道にそって森の中を進むと、かつて帝国の守りの要であっただろう門が見えてきた。鍵はかかっていない。

門を超えると想像した通り瓦礫の山だった。周りを探索してみるが、特に珍しいものは無かった。冷静に考えれば、門以外は家屋の跡すら無いのだから、徹底的に破壊されたということは間違いない。帝国は滅んでから少なくとも二十年以上は経っているようだが、これは流石に違和感を感じる。というかこの廃墟、立ち入り禁止にはなっていないようだが、。門の外は森が広がっているというのにだ。


「何かあるな……」


ここまで思考したが、俺の目的はこの謎を解明することではない。確実に人がいるであろう、貴族の領地を目指して進んでいるのだ。野宿だけは免れたい。そう思いながら先へ進む……正直余所者異世界人の俺が入れるのか不安は有るが。

それから暫く歩いていると……

「きゃぁ!!」


……悲鳴!?数日ぶりに人の声を聞けた喜びよりも、先に助けに行かなくてはという思いが先行する。


「ハウンドの群れ……離れろ!!」

「お父さん!」

「近づくな!!」


鉄剣を持った男性と恐らく男性の娘であろう少女がハウンドの群れに襲われていた。ガリア平原の戦いでも分かるが、ハウンドは群れだと非常に戦いにくい魔物だ。この場合は一体ずつ仕留めるしかない。俺は駆け出すと右手を突き出して……


「火球!!」

「ギィヤァァ!!」


火魔法を発動した。ハウンド目掛けて飛んでいく。燃えている仲間の姿を見て、他のハウンドは近くの森林に逃げてしまった。ガリア平原のハウンドは群れが全滅するまで襲ってきたけど、この地域のハウンドは随分と大人しいんだな。そんなことを考えながらも襲われていた親子の元へ向かう。


「大丈夫ですか?ケガとかありませんか?」

「助けていただいてありがとうございます……貴方は冒険者の方ですか?」


男性は深々と頭を下げてきた。俺も軽く会釈をする。久々に人と会話をしたということもあるが、いきなり「俺は異世界人です!!」なんて言えるはずも無く……


「あっ……えっと、その……」


言葉に詰まってしまった。

「何やら訳ありのようですね……とりあえずお礼がしたいので、良かったら我々と街まで行きませんか?」

「……ではお言葉に甘えて。」


男性は優しく微笑みながら提案してくれた。この状況は願ってもない機会だけど……本当に大丈夫なのか?もし街入るには戸籍の様なものが必要で、それが無いと入れないとかだったら……いや、今はこの人に付いていくしか無いな。すると……


「あの……」

先ほどまで黙っていた少女が話しかけてきた。よく見ると同い年くらいなのかな?茶髪が風でなびいているのが印象的だ。


「助けてくれてありがとう……貴方の名前は?」

「倫矢です。トモヤ・ハガヤ。」

「私はアリシア・ワグナー。で、こっちがお父さんのアベル・ワグナー。よろしくね!!」


和やか雰囲気を醸し出しながら、アリシアさんに手を握られる。明らかに戦闘とは正反対の細い腕だが、それでもしっかりとした強さを感じた。


「トモヤは魔法が使えるの?」

「生活魔法と火魔法が少し使える。あと槍も多少なら振れますよ。」


先程、火球を発動する瞬間も見られていたし、その質問は当然だろう。嘘をつく必要も無いと思い正直に答える。


「凄い!トモヤは何歳なの?私は19歳だよ!」

「俺は18です。」


年齢も嘘をつかなくていいだろう。


「へぇぇ!私の方が1つ上なんだ!!それと敬語使わなくても大丈夫だよ!!」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」


俺としてはこの世界に来て初めて会った人達なので、会話ができて素直に嬉しい。そして、街に着くまでの間アリシアと色々な話をした。

街が見えてくると、流石に不安になってきた。俺は軽く深呼吸をすると、門の中にゆっくりと足を踏み入れるのだった。


――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:C

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:C

防御力:C

魔力攻:E

魔力防:E

走 力:C


現在使用可能なスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『火魔法(レベル1)』火を操る魔法。

『寒冷耐性(レベル3)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『考察(レベル7)』物事を予想し、記憶力や思考力を高める。

『苦痛耐性(レベル3)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『爆音耐性(レベル1)』音のダメージを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護 。※本人は獲得したことに気づいていない(気づけない)。


現在の持ち物

銀の槍(無名)

ハウンドの肉、ハウンドの皮

ヴィクター・アガレスの日記帳

毛布(ハウンドの皮をつなぎ合わせた物)

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