アガレスの御令嬢

【ハウンド:地域によって生態が異なる魔物の代表例。例を上げるなら、ガリア平原に生息するハウンドは耐寒性に強い毛皮を持ち、非常に狂暴な性質を持っている。また集団で狩りをするハウンド本来の習性をあまり持っていない。それに対してアガレス領付近に生息するハウンドは臆病な性質を持っていて狩りに失敗する確率も高く、逃げ出してしまうことも多い。】


冒険者ギルドを出て、俺は街中を散策していた。屋内に店がある場合の方が多いのだが、公園の様な広場は露店が並んでいることに気づいた。価格だけを見ると屋内の店の方が良いが、品物の自由度では屋外の方が高いかもしれないな。それから暫く露店を眺めて回り、街の中心部を目指して歩いて行く。すると……


「トモヤ!」


後ろから声をかけられた。振り向くとそこにはアリシアが立っていた。


「アリシアか。家にいるんじゃなかったのか?」

「お使いよ。トモヤは?」

「さっきまでギルドに行っててその帰りだ。」

「そうなんだ。なら一緒に帰りましょう?」


そう言って俺の手を引いて歩き出す。正直、この後は宿を探そうと思っていたんだけどな……それにこの以上、お世話になっても良いものなのだろうか?


「お父さんが知らない宿に泊まるより、家に泊まって欲しいって。その方が安全だって言ってたわ。」


どうやら考えていた事が顔に出ていた様だ。


「でもそれだと迷惑にならないか?」

「大丈夫。部屋も余っているもの。」

「じゃあお言葉に甘えてそうするよ。」


完全に押し切られてしまった。厚意に対して俺自身がどう返すべきなのか、俺は未だ答えを見つけられていないのに。ただこの恩を返さずに生きるのは人として間違っていると強く感じた。


「トモヤ?」

「ああ……考えごとしてた。行こうか。」


こうして俺は再び歩き出した。


「アリシア、最近起こったことで何か気になるようなことってないか?どんな些細な事でもいいんだが……。」


この世界の基本的な情報と情報伝達手段を知っておきたい。


「うーん……あ!この前、商人伝書で知ったんだけどね!!」


アリシアの言う商人伝書とは、現代における新聞のようなものらしい。商人が書いたものだけでなく神官が書いたものもあるそうだ。アリシアから聞いた話をまとめると、この世界には二つの大陸が存在し、隣の大陸で戦争が勃発したらしい。

戦争が起こった一連の流れをまとめると、まず革命により共和国が誕生した。周辺諸国は自国でも革命が起きるの恐れて戦争が始まったらしい。現在、共和国とは一つの国家が争っているらしい。周辺の国々はその国家と同盟を結んでいる。

まあ、どう考えても当て馬だな……二つの国々を争わせて、疲労したどちらかを滅ぼすつもりなんだろうな……俺としてはクラスの連中がそっちの大陸に行っていないことを祈るばかりだ。

また気づいたことだが、大陸には名前が無いらしい。その辺は文化の違いだろうな。この大陸の主要な都市は、ガリア帝国から分裂したとゼ、そして。これで予想は確信に変わった。この地の領主はヴィクターさんの関係者なんだろうな……

それと最近、プロイツ王国付近の森林にドラゴンが出現したらしい。ハウンドを倒すのも精一杯の俺からしたらドラゴンなんて雲の上の存在だ。だが、それを倒したのは下級冒険者らしい。もしかしたらクラスの誰かなのかもしれない。


≪熟練度が一定に達しました。スキル『考察(レベル7)』が『考察(レベル8)』に上昇しました。≫


久々に上がったな……ガリア平原では常にスキルがレベルアップしていたから、安全な場所に移動できたことを改めて実感した。


「……助けて……」


「……アリシア、いま喋ったか?」

「え?私は何も言ってないけど……」


確かに"助けて"って聞こえた。流石に幻聴では無いはずだ。俺は鑑定を発動する。


≪発見、右側の路地裏から先程の声と同一の声が感知されました。≫


「アリシア、ここで待っててくれ。」

「う、うん……」


木箱や鉄材が積まれた路地を駆けていく。今度はちゃんと聞こえる。


「助けて!!」


誰かは分からないが、急いで向かわなけば。無事でいてくれよ……


――――――――――――――――――――――――

「叫んでも無駄ですよ。アガレスのご令嬢。」


赤を基調としたローブを着た男が言う。男の薬指には赤い宝石が嵌め込まれた指輪が見える。赤い宝石は禍々しく光って見えた。

男の後ろには、金銭目的で従っていると思われる男達が数人いた。部下達は目の前の腕を縛られた少女に下卑た視線を送っていた。


「目的は何!!私に手を出したら只では済まないわ!!」


少女は強く言い放つ。少しでも、誰か気づいて貰えるようにという考えもあったが、少女自身の誇りと正義感からの言葉だった。


「グヘヘ……旦那、この嬢ちゃん状況が分かってないみたいだぜ?」

「そうだな……だが、私はお前に喋る許可を与えたか?」


部下の中でもリーダー格の荒くれの男が、ローブの男に話しかけるが、男は部下達に対して殺気を含んだ声色で男は答える。


「す、すまねぇ旦那。」

「正直、理解に苦しむ。これだから品の無い連中は嫌なんだが……」


少女はローブの男が部下に対して全く信頼を置いていないことに気づいた。信頼どころか、嫌悪感を抱いているのは明白であった。だが、ローブの男と荒くれの男には、ほぼ隙が無い。少女は抵抗しても無駄だと悟った。


「(誰か、助けて!!)」


少女が心の中で叫んだ時だった……


――――――――――――――――――――――――

「火球!!」


俺は目的地である路地裏の中の広場に、火の玉を投げ込む。空気が乾燥しているからか、ドーンッと音を立てて燃え上がった。


「な、なんだ!?」

「あぶねえ!?」


突如として炎上が引き起こされ、慌てふためく荒くれ達。まさか乱入者が現れるとは思っていなかったのだろう。

即座に。加速は俺がここに来るまでの間にスキルポイントで獲得したものだ。その名の通り身体能力を強化し、走力を増加してくれるスキルらしい。俺は拘束された少女を見つけると……


≪少女の声帯から予測される声と先程の声がほぼ一致しています。≫


鑑定の情報により、この少女が助けを求めていた少女だと確信する。俺は少女を担ぎ上げ、その場を離れようとするが……


「逃がしませんよ。冒険者ですかね?まあ誰でもいいですが、我々の邪魔をするなら容赦しませんよ?」

「グヘヘ。そういうことだ。大人しく嬢ちゃんを返しな。」


ローブを着た男が、俺よりも速く動き、道を塞ぐように立っていた。それに合わせて、不愉快な笑い方をする荒くれの男も退路を塞いだ。それよりも、ローブの男の速さは異常だ。確かに俺の加速は獲得したばかりである。それに加えてレベル1ということもあるが、それを加味しても異常な速さであった。


「作戦としては悪くなかったですよ。火魔法で我々の注意を引き、その隙に加速を使い少女を救出する……ただ相手が悪かったですね。これでも感知には自信がありましてね。」


ローブの男は、この数秒間でこちらの動きを完璧に把握したのだった。


「まあ……この品の無い連中では思い付かないでしょうけどね。さて、どうしますか?無駄な殺しは私の主義ではありませんから、素直に従ってくれると助かりますよ?」


現状、俺のスキルではローブの男どころか目の前にいる荒くれの集団すら突破できないだろう。それに加えて俺は槍を持って来てない。つまり、完全に詰みの状況なのだ。そんな時だった。ローブの男の後ろから声が聞こえた。


「そこまでだ。」


ローブの男が振り返ると、ちょび髭が特徴的な男性と冒険者ギルドの受付嬢がいた。


「おやおや。して、ギルドマスターがこんな所に何用ですか?」

「あ?俺が来る理由なんて一つしか無いだろ?ぞろぞろ引き連れやがって……俺が気が付かないとでも思ったのか?」

「それもそうだ……こんな薄汚い路地裏も街の一部、この街のすべてを知るギルドマスターである貴方には筒抜けという訳だ。」


目の前で起こっている会話の内容自体には理解が全く追いつかない。だが、この場に現れたギルドマスターと呼ばれた男性の登場によって形勢が逆転した事だけは分かった。


「どうしましょう旦那……」

「退きましょう。ギルドマスター、それにのお嬢さんもいることです。」

「逃がすと思うか?」

「可能です。こんな風にね。」


ローブの男がそう言うと、指輪に嵌められた赤い宝石が輝き始め、パリンッと割れる音がした瞬間、その場が閃光に包まれる。光が消える頃には、ローブの男や部下達の姿は無かった。


「どういうことだ……」

「恐らく非合法で作られた魔法道具の類かと。」

「ウサ子……転移先は分かるか?」

「……分かりません。解析も不可能です。」

「そうか……」


助かったのか?


「坊主、大丈夫か?」

「助かりました……ありがとうございます。あのあなたは?」

「俺か?俺はこの街のギルドマスター、ルシエドだ。よろしくな坊主。」


――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:C

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:C

防御力:C

魔力攻:E

魔力防:E

走 力:C


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『考察(レベル8)』物事を予想し、記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『加速(レベル1)』身体の速度を上昇させるスキル。←new


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル3)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル3)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル1)』音のダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル1)』火を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。 ※本人は獲得したことに気づいていない(気づけない)。


現在の持ち物

銀の槍(無名)

冒険者カード

ヴィクター・アガレスの日記帳

毛布(ハウンドの皮をつなぎ合わせた物)




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