第24話 怪奇研には手を出すな!

 マンティコアら元人間のモンスター達がバトルをしていた頃、真物しんもち高校の怪奇研究会、略して怪奇研が部会を開いていた。ホラー映画のポスターが壁中に貼られ、週刊ムーンや新・耳袋などのオカルト本が所狭しに並べられた部室で、5人の男女がパイプ椅子に座って話し合っている。



「今月の怪奇研の研究テーマは何にするか? さぁ、どんどん言いたまえ」



 部長の泊田はくたひろしが挙手をつのる。彼は丸メガネときっちり整えられた髪で、いかにも厳格な印象だ。実は重度のゲーマーで、モンスターキャッチのオンラインゲームで全国3位になったことがある。



「はーい! 可愛い妖怪特集がいいと思いまーす! アマビエとかすねこすりとかー」



 頭にリボンをつけた2年の華鎌はなかま斬子きりこがいの一番に手を挙げる。彼女はコスプレ大好き人間で、怪奇研のオフ会でゴスロリや巫女みこ姿を披露したことがある。



「可愛い妖怪もいいけど、カッコいいモンスターはどうだい? ユニコーンやフェンリルなどを取り上げてみたらいいと思うよ」



 2年の丸子まるこ蒼光しあんが尖った前髪をかき上げて、綺麗な青い右目を見せる。彼は女子人気が高く、あごが尖っていることもあり、実写版学園ハンサムと呼ばれている。



「浮ついとるなぁ、お前ら。ここは怪奇研の原点に戻って、都市伝説の真偽を調べるべきじゃないか? どうよ?」



 下駄みたいに四角い面長の富良長ふらなが理亜王りあお(2年)が腕組みしたまま、西郷さいごう隆盛たかもりのような太眉をつり上げて言う。彼は男人気が高く、美獣先輩と呼ばれている。



「可愛い妖怪、カッコいいモンスター、都市伝説の真偽か。なるほど、なるほど。紀米良きめらさんは何か意見ありますか?」



 副部長の紀米良きめら伊和いわはもじもじしながら、蚊の鳴く声で言う。



「えっと、山月記やカフカの変身のような変身譚へんしんたんはどうでしょうか?」


「山月記ね。李徴りちょうはマッチョな虎になるから、カッコいいモンスター特集に使えるじゃないか。いいね!」


「山月記にマッチョ描写はない!」



 泊田はくたは瞬時に丸子まるこの発言を否定する。



「カフカの虫は可愛いからー、可愛い妖怪に入るよねー」


「モンスターならまだしも、妖怪じゃないだろ!」


「人面犬や口裂け女は元人間だから、変身譚へんしんたんに使えるな」


「えっ? 人面犬って、そうなのか? こわっ!!」



 泊田はくたは部員の発言に次々とツッコミを入れる。


 

 その様子を見ていた紀米良きめらは、この人もキャラが立っていると思った。彼女はそばかす顔と引っ込み思案な性格で、地味な自分が嫌いだった。そんな自分を変えたくて怪奇研に入ったが、キャラの濃い人達に囲まれて、ますます小さくなっていった。気づけばもう3年生になっていた。



「うーん、とりあえず、変身譚へんしんたんの研究にするか。紀米良きめらさん、顧問の芭尻ばじり先生に伝えてくれるかい?」


「はい」



 彼女は部室を出て、カウンセラー室へ向かう。道中で、何か違うものに変わりたいと、妄想を膨らませる。カッコいいモンスターでも、可愛い妖怪でも、都市伝説の怪異でも、何でもいい。とにかく、今の人間の姿は捨て去りたかった。



 彼女がカウンセラー室の扉を開けば、テディベアと目が合う。テディベアが口を開いた。



「オマエモモンスターニナラナイカ?」



(続く)

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