第15話 マンティコアを呼ぶ謎の声

 終礼後、火魔ひま先生が私の元にやって来て、中国の思想家について聞いてきた。私は孔子こうし荀子じゅんし孟子もうし孫子そんしなどの思想の違いについて丁寧に説明した。



「いやー、ありがとうございます。満地まんち先生は、ホント詳しいですねー」


「いえいえ。私なんか、皮骨かわぼね先生の足元にも及ばないですよ」



 皮骨かわぼね先生は社会科の教科主任で、御年おんとし67歳の大ベテランだ。ややこしい観応かんのう擾乱じょうらんやフランス革命をわかりやすく説明されて、とてもためになる。



「そんなことないですって。僕の高校時代の社会科の先生はお経を唱えてるみたいで、とても眠たかったんですよ。そのせいで、全然覚えてないです。満地まんち先生の授業なら、もっとマジメに聞いてたのになぁ」



 火魔ひま先生は茶色いサングラス越しに、優しい瞳を私に向けている。セクハラ相須あいす先生と違って、私に対して純粋な興味を示されている。野球部監督とあって、少し筋肉質な体つきもステキだぜ。



「では、野球部の練習見てきますので、ここらで。お疲れ様です!」


「お疲れ様です!」



 さて、明日の教材プリント作ろうか。パソコンを立ち上げて、wordをダブルクリックすれば――。



<マンティコア、屋上に来い>



 頭の中に謎の甲高い声が響く。何で屋上に? しかもマンティコア?



<早く屋上に来い、屋上に来い、屋上、屋上、屋上!>



 うるさくて全く仕事にならない。頭が爆発しそうだ。もう、屋上に行ってやらぁ!



 屋上への階段を上がり、扉前でふと立ち止まる。頭の中でマンティコアと呼ばれてたから、マンティコア姿じゃないとダメかな。あの筋肉モリモリで臭い獣人になるのは嫌だけど、正体がバレたくないからね。



 私は衣服を全て脱いで、マンティコア化を始める。上腕二頭筋じょうわんにとうきん大胸筋だいきょうきんなどが盛り上がって、茶色い毛が生えていく。チクチクするタテガミやクソ硬いサソリの尾の感覚も慣れたもんだ。



「さて、どんな奴がいるんだぁ?」



 オレは鼻息をタバコの煙みたいに長く出して、ドアノブに手をかけた。



(続く)

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