第11話 セクハラ教師はマンティコアに成敗される

 相須あいす栗夢くりむは車を運転しながら、ひとり言をつぶやいている。



「ハァー。少し警戒されちゃったかなー。前の学校ではボディタッチし過ぎてクビになっちゃったから、石橋に石橋を叩いたんだけどな」



 彼は満地まんち先生の顔を思い浮かべながら、あらゆるシチュエーションを想像し始める。一緒にカフェ、カラオケ、映画館、遊園地、動物園を巡っている。



「彼女が好きそうなアーティストを調べて、ライブに誘ってみようかな。あー、でも、非常勤ひじょうきんだと1年かもしれないから、もっと近い時期――」



 ドンッ!



 車の上に何かが乗ったようだ。彼は車を止めて、サイドミラーを開けて顔を出して、車上をのぞいてみた。



 そこには低くうなり続けるマンティコアが乗っていた。



「ヒッ、ヒイイイ、バ、バケモノー!?」


「てめぇ、オレにちょっ、じゃなくって、オレの妹を誘惑すんじゃねぇ!?」


「い、妹? 満地まんち先生の兄ですか?」


「姉だ! 性別を間違うんじゃねぇ!」


「い、いや、どう見ても男、オス?」



 そのマンティコアはボディビルダーもビックリの筋肉の鎧をまとっているので、胸のふくらみも鍛え上げた成果に見間違えるのも無理はない。



「いいか? 今後一切、妹に近づくな! 無理に誘ってきたら、八つ裂きにするからな」


「は、はいい、わかりましたぁ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」



 相須あいすは目をつむって、壊れたCDのように何度も謝り続ける。いつの間にか、車上のへこみと悪臭を残して、マンティコアは消え去った。



「うわぁ、くっせぇ!」



 彼の顔にはマンティコアのつばが付着して、河原の簡易トイレ級の悪臭が車内に満ちてしまった。



(続く)

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