第9話 カラオケでマンティコアという曲が歌える

 相須あいす先生の誘いを断るため、大学時代の友人とカラオケに行くという嘘をついた。実際は、自分1人でカラオケだ。



「うーん。何歌おう」



 とりあえず、最近のヒットソングを歌おうか。曲の検索欄に文字を入力する。



 まんてぃこあっと。えっ? 勝手にマンティコアを入れちゃってる。



 LOST OLD RAIL DRAGON《ロスト・オールド・レール・ドラゴン》の「マンティコアー幻影ー」って、あるんかーい! どんな曲か聴いてみよう。



 流れてきたのは、いかにもパンクな音楽だ。この毒で君を堕としたい、逢魔おうまが時の飛翔に憧れるなど、中二病ちゅうにびょう全開の歌詞でげんなりする。このバンドには悪いけど、二度と聴きたくないかな。


 



 2時間ほど歌った後、店を出たら、あの人と出会ってしまう。



「おや、満地まんち先生じゃないですか? こんなところで会うとは、奇遇ですね」



 車の窓から相須あいす先生が顔をのぞかせる。彼の唇にはパンの切れ端がついている。おおかた、この近くのハンバーガー店で時間を潰してたんだろう。私の鼻がそう告げている。



「あっ、お疲れ様です」


「どうです? 私の車で自宅まで送りましょうか?」


「えっと、結構です」


「まぁまぁ、そう言わずに」



 彼は強引に私の腕を引っ張って、車の中へ入れる。ちょっ、ちょっと、これはマズいんじゃ。



「さぁ、先生の家はどこですかー?」



 彼は鼻の下を伸ばして、私をいやらしい目で見ていた。



(続く)

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