第8話 マンティコア化が抑えられない

 里佐土りさどがトイレの中でスマホをいじっていることを、匂いで察知した私は屋上へ上がって、マンティコアになっていた。



「学校で変身するなんて、バレたらどうすんのよ、バカバカ」



 自分の頭を叩きながら、人に戻っていく。アームレスリング優勝者も驚きの太い腕から、元のきゃしゃな腕に戻る。素早く仕事の服を着て、人間として何食わぬ顔で職場へ戻る。次も空き時間がある。紅茶でも飲んで落ち着こう。



 私が紅茶を飲みながら超かわいい子猫の動画を見ていると、先輩の相須あいす先生が声をかけてくる。



「いやぁ、満地まんち先生、驚きましたよ。あの里佐土が、スマホいじってた

ことを火魔ひま先生に告白して、怒られてますよ」



 火魔ひま先生は野球部の監督で、常にサングラスをつけている。授業中はけわしい顔で暴力団のオーラを出しているので、生徒の誰も彼に逆らおうとしない。職員室では、結構気さくな人なんだけどね。



「この前の授業で、生徒からスマホさわってると指摘ありましたよ。その時もさわってたんでしょうね」


「ええ。これで1ヶ月スマホ没収ですよ。今の子は、スマホ無しだと気が狂うんじゃないですか」



 気が狂えばいい、あんな奴。少しはおとなしくなるだろう。



「そうですね。まぁ、自業自得じごうじとくですけどね」


「たしかに。そうだ、満地まんち先生、今夜は空いてますか?」



 相須あいす先生が薄気味悪い笑みを浮かべて、私に尋ねてくる。最近、この中年オヤジ先生は、私を誘惑してきてうっとうしい。



「すみません。今夜は大学時代の親友とカラオケに行く予定が入ってるんですよ」


「そうですか。では、仕方ないですね」



 相須あいす先生はハンカチで額の汗をぬぐいながら、自分の席へ戻る。彼の細い目は、確実に私の胸元を見ていた。うわぁ、嫌らしい。絶対にあの人と飲みに行きたくないわ。



(続く)

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