第7話 マンティコアには逆らえない

 マンティコアの前では、トイレの簡易な鍵は無意味だ。ドアの蝶番ちょうつがいが外れ、鍵がひしゃげて、狂暴な獅子しし顔が里佐土りさどの目の前に現れる。



「何やってんだ、てめー!?」



 獣臭い息が里佐土りさどにかかる。彼は顔をしかめて、トイレットペーパーで鼻を押さえる。



「何だよ、その着ぐるみは? け、警察に通報してやる!」


「これが着ぐるみに見えるか?」



 マンティコアは彼の後ろの壁を拳で一突きする。すると、壁に穴が開いて、コンクリートの破片がポロポロと床に散らばる。



「なっ、なっ、何なんだよー?」



 里佐土りさどはマンティコアの怪力を目の当たりにして、おしっこをちびっている。



「授業中に携帯を使用する人間よ。今すぐ教師に正直に話しなさい。さもなければ、死が待つであろう」



 マンティコアはそう言うと、牙をむき出して笑い顔を作る。だが、その顔はどう見ても、獲物を見て興奮する猛獣にしか見えない。



「わ、わ、わかったよー。言えばいいんだろ、言えば!」


「それでよろしい」



 マンティコアは窓から飛んでいった。後に残された里佐土りさどは壊れたドアや壁を見ながら、ほっぺたをつねる。



「これ、現実?」



 彼の顔はロウソクのように白くなっていった。



(続く)

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