第5話 マンティコアとオスマン帝国とクソガキ

 ネットで調べたら、ライオンの体、コウモリの翼、サソリの尻尾を持つモンスターはマンティコアと言うらしい。



 なぜ、私はそんなモンスターになってしまったのか。そして、再び変身してしまうのか。



 不安を抱えながら、いつも通り授業を行う。今日は、問題児が多い3年D組の授業がある。大きなため息が出てくる。



※※※



「えー。これにより、オスマン帝国が参戦し――」



 オスマン帝国を黒板に書くと、“オスマンていこく”と“マンティコア”の響きが似ていることに気づく。同時に、昨夜のことを思い出す。生徒に暴力はダメ、戦争は絶対ダメと言ってる私が、争いごとを暴力で解決したなんて、誰にもバレたくない。



「先生! 里佐土りさどがスマホいじってまーす!」



 生徒の告発で、私の視線は黒板から里佐土りさどに移る。彼は顔をバッと上げて、軽く舌打ちする。



 里佐土りさど万太郎まんたろうは野球部で、プロ注目のピッチャーだ。彼は先生によって態度を変えるそうで、私の授業では寝るか内職(他の授業の課題をこなす)をしてるかの二択だ。



里佐土りさど君、ちょっと荷物検査するわよ」


「どーぞ、どーぞ、満地まんち先生」



 彼は飄々ひょうひょうとした態度で、反り返る。



 教科書の下、机の中、制服のポケットの中、カバンの中、どこを探してもスマホは出てこない。



「せんせー、早く授業やって下さいよー。紀米良きめらの見間違いですってー」



 彼はヘラヘラしながら、私の腰をソフトタッチしてくる。悔しいが、ここは引き下がるしかない。



「紛らわしい行為はしないようにね」


「はーい」



 彼は左手で鼻をほじりながら、右手を挙げる。どこまで舐め腐った奴だろう。



 昨夜の私なら彼をぶん殴ってたかもしれない。



(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る