第4話



「グルゥゥ…」



正しく鬼の形相でこちらを見てくるのはレッドオーガであった。 口からはヨダレを垂らし、捕食者の目で蓮也を見据える。



「…ッ!」「グルゥアアア!!!」



蓮也が息を飲むと同時に襲いかかってくるレッドオーガ。余りの勢いと威圧感により、蓮也の足がすくみ、目を閉じた。



『煩いわね。』



グギャアッと断末魔が聞こえ目を開けると、リリアがいつの間にかレッドオーガを引き裂いて、足踏みにしていた。



「リ、リリア…?」


『さ、帰りましょうか、もう夜になってしまうわ。』


「えっと、リリアって、もしかして滅茶苦茶強い…?」


『まぁね、フェンリルって言えば、こっちの世界じゃ有名よ。渡り人の貴方にはいまいちピンと来ないかもしれないけど。』



(向こうの世界でも有名ですよ、リリアさん…)



暫く呆ける蓮也であったが、声を掛けられ半分飛んでた意識を取り戻し、リリアの住居へ向かう。



『さて、着いたわよ。』


「ここがリリアの住居か。」



連れてこられたのは、小さな洞窟だった。



『喉が渇いたら少し離れたところに泉があるから、そこで水は飲めるわ。 ご飯は明日の朝にでも狩るとしましょう。』


「…リリア、ひとつ聞きたい事があるんだが。」


『何かしら?』


「どうしてこんなにも親切にしてくれるんだ?」



ずっと気になっていた。出会ったばかりの狼が同族でもない人間の蓮也にここまでしてくれるのか。



「リリアが俺を食べようとしてない事くらいは分かる。けど、俺なんてただの話が出来る人間だろ?」


『…』



沈黙したまま、目を逸らす。そして、吐き捨てるように、或いは恥ずかしそうに口を開いた。



『…かったの』


「え?」


『だから、寂しかったの!』


「寂しかった?」


『私は今まで、ずっと独りで生きてきたの。私を見ると、皆逃げるか自棄になって襲いかかってくるかだもの。』



そう言って、外を眺めるリリア。蓮也はいつの間にか、その背中を撫でていた。



「俺は、これから暫くスキルの練習をして、人間の国を旅しようかと思ってるんだ」


『…そうよね、貴方は人間だもの。人間と一緒にいる方がいいわ。』


「それで、だ。その旅に着いてこないか?」



外を眺めていたリリアの顔が勢いよく此方へ振り向き、目をぱちぱちさせていた。



『いいの?私が着いて行ったら、迷惑になるんじゃない?』


「構いはしないよ、それに俺は世間知らずだからさ、リリアがいないと不安なんだ。ま、偶にモフらせてくれると嬉しいな」


『も、モフるのはしばらく禁止!』



そう言って笑いかける蓮也と、静かに涙を流す狼を、月明かりが優しく包んでいた。




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