第3話:闇夜の潜入




 遥か空の上から足元を見下ろせば、今も眠らない灯りが無数に輝き、人工の大地を極彩の色に染め上げている。静けさの中に入り混じった喧騒の音は殊更に深く夜を演じ、眠りと覚醒の境界をぼかしていく。



 高度1万メートル上空を飛行するブイトールの眼下に広がるは、ハルスマグナ公国首都、ヴェルエッジ。人口1430万人、現君主はジャン・クルーテオ・アレクサンドロス・ハルスマグナ大公。便宜上公国を名乗ってはいるが、その実態は軍閥が貴族の皮を被った政治体系を取っており、公的な軍は存在せず、大公を議長とするハルスマグナ会議によって選出された12家門が独自に所有する軍隊が実質的な公国軍として機能している。ヴェルエッジはその中でも大公が自ら統治する城下町であり、同時に外交の主翼を担う公国の玄関口でもある。



 各国の外交官が頻繁に出入りする都合上、常に外国諜報員への警戒を強いられており、そのため各国の領事館はどれも鉄壁のセキュリティを誇る。そんな要塞さながらのセキュリティを持つ中で、特に重厚な設備で守られているのが今回の潜入地となるエルズ共和国大使館である。エルズ共和国と公国は国際的な同盟関係にあり、特に軍事に関しては「第二の公国軍」と称されるほどの軍需品を公国に提供している。それもあってかエルズ共和国の大使館は設立に際して公国から多額の援助を受けており、異質なほどに堅牢な防御体制を整えていた。



 施設周囲に敷設された無数の監視式、配管、空調設備に設えられた圧力センサーと赤外線センサー。IDと生体認証で管理された最新鋭の各種セキュリティゲート。通常であれば侵入は不可能だが、それが任務において突破が必須であるならば、彼らはあらゆる手段を講じてそれを可能にする。それがミッションコード「ナイトフォッグ」が示す唯一の有用性であった。



「こちらスワローウィング。待機地点にて遊覧飛行中。各員状況を報告せよ」



 パラシュート降下用ハッチの扉の前に立ち、アーセムは各員に向けて連絡を飛ばす。高高度からの滑空になるため、飛行中は酸素マスクは欠かせない。もう3分もすれば降下用のハッチが開け放たれ、待機スペースの気圧は一気に下がる。冷凍室並みの極寒環境にアーセムはその間晒され続けることになるだろう。



『こちらエアサーキュレーター。感度良好、所定にて待機です』

『こちらトラックドライバー、所定にて待機。発進準備完了』



 無線越しからジャッキーとレイヴァンの応答がそれぞれ返ってくる。レイヴァンは大使館周囲の路肩でメンテナンス業者になりすまし、ジャッキーは大使館前通りの先、アレクサンドロスブリッジを望む運河に停泊させた船上で、本物のメンテナンス業者が橋を通過するのを待っている。時刻は23時38分。作戦開始まで10分を切っていた。



「オーライ、じゃあ全員時計を合わせろ。まずはアーセムが降下。その高度なら3分弱で地上に到達する。その間にレイヴァンが大使館に向けて出発。ゲートに到着するタイミングを間違えるなよ。アーセムが屋上に飛び移る前に着いちまうと検問所で職員と睨めっこする羽目になる」

「こんなコワモテのおじさんと睨めっこする職員が気の毒だ」



 アーセムが作戦前の景気付けにひとつ冗談を飛ばす。すると無線越しに一同の吹き出す声と「いやそこじゃねえだろ」と突っ込むレイヴァンの声が響く。



 『作戦開始まで残り3分。機内減圧開始。酸素マスク着用せよ』



 降下ハッチを操作するパイロットの業務的なアナウンスが無機質にこだまする。

 高度1万メートルに及ぶ高高度からの降下、そこから地上すれすれの300メートル付近で開傘して着地する降下法を高高度降下低高度開傘HALOという。パラシュートを開いたときに視認されるリスクを最小限に抑えたこの手法は隠密任務時に向いている反面、開傘中の空中機動時間が1分にも満たないほど短いため、狙ったポイントに向けての着地が難しい。



 誤差がさして問題にならない平原への着地ならまだしも、今回の降下ポイントは夜間の都市部。さらに言えば地上10階建のビルの屋上である。許容されうる誤差はせいぜい10m程度。訓練を積んだ熟練のダイバーでも首をもたげる高難度降下である。



『機内減圧完了。降下ハッチ解放』



 瞬間、機外から入り込んできた外気がハッチ内を暴れまわり、周囲は荒れ狂う風のコントラストで満たされる。開け放たれたハッチの向こう側には視界いっぱいの雲海。闇に浮かぶ月の灯りが壮観たる空の世界を静かに照らしている。ハッチが完全に開き切る頃にはもう飛ぶ時間が迫っていた。



『時間だ。スワローウィング、降下開始。GodSpeed神の御加護を

「了解。これより任務を開始する」



 かくして翼なき鳥は数歩あまりの助走を経て鉄の巨鳥のはらわたを脱し、果てしない空に飛び込む。緊張と恐怖、その身に有り余る使命感と共に、遥か眼下の地上で待ち受ける要塞のさなかへ。一縷の希望を掴み取るために。



 そして地上ではアーセムが飛ぶのと同時にレイヴァンも行動に移った。設備メンテナンス業者とその配備車に偽装した四駆のエンジンを回し、いかにもといった風情でガムを噛みながら太々しく運転するその姿は果たして演技なのかどうか。とてもこれから難関セキュリティを突破するエージェントには見えなかったが、ナビに偽装したモニターでアーセムの位置を見据える目は明らかにプロのそれであった。



『高度3000、開傘まで残り45秒。トラックドライバー今どこにいる』

「こちらトラックドライバー、現在大使館前通りを通過中。まもなく目的地を目視にて確認」

『オーケー、ここまでは順調だ。速度はそのまま維持、まもなくスワローウィングが翼を開く』

「了解。ところでこのトラックドライバーって通信符牒、なんかダサくないか?」

『文句言うな、こっちが分かり易けりゃなんでもいいんだよ』

『聞こえてるぞお前ら、無駄口を叩くな』



 今のところ大した障害のない状況の暇つぶしに始まったカリヤとレイヴァンの与太話を、滑空中のアーセムが短く制した。地上の街明かりが夜空の写し鏡に見えるほどの距離からの降下も、いざ飛んでみると驚くほど短い時間で終わる。高速で地上に迫るアーセムの目には、遠かったビルの一つ一つの形がつぶさに見て取れるようになっていた。



『スワローウィング、高度1000、開傘まで残り15秒。開傘用意』



 アーセムは滑空状態から開傘状態へと移行。パラシュートを開く秒読みを待つ。同時にレイヴァンも大使館前のゲートへさしかかり、車の速度を落とした。



『カウントイン、5、4、3、2、1、開け!』



 アーセムがパラシュートを開くのに合わせ、レイヴァンはゲート前でやや強めにブレーキを踏んだ。開傘時にパラシュートが空を切る音が300メートル離れた地上で聞き取れるかは怪しいが、念には念を入れての措置である。それで多少こちらが怪しまれ得る分には問題はない。本命はあくまでもアーセムなのだ。それが功を奏したのか、ゲートの守衛がこれまた太々しくバンに向かって歩いてくる。



「こんばんわ〜、設備メンテナンスです〜」

「IDの提示を」



 おいおい挨拶もなしか、と笑顔の裏で舌打ちしながら、レイヴァンは偽装したIDを寄越した。守衛はそれをじっと睨みつけながら訝しげにレイヴァンを見遣る。



「シャムロック・ザイドリッツ……? いつもの業者じゃないのか?」

「先月から異動になりまして。一応そちらにも連絡はいってるはずですが……」

「はあ……」

「早く通して欲しいんだけどな」



 強面に任せた強めの口調でレイヴァンは守衛に迫る。その見た目から発せられた胴間声の迫力に守衛はやや気遅れはしていたものの、肝心のID検知器がようとしてレイヴァンの提示したIDを受け付けず、無機質なビープ音を返すのみだった。



「おかしいな……壊れてんのかこれ」

「おいおい勘弁してくれよ。こっちはオタクの流儀に則ってしちめんどくさい手続き踏んでちゃんと引き継ぎしてるんだぜ? 次のアポ遅れちまうよ」



 提示されたIDではなく検知器の方を疑う守衛の間抜けさには些か安堵はしたが、それでもこんな三文芝居を続けられるほど状況は甘くない。対処しかねた守衛がセキュリティ担当者でも呼ぼうものなら、ゲート突破の難易度は飛躍的に上昇してしまう。



 急いでくれ、アーセム。レイヴァンは内心祈るような想いでアーセムの滑空する空を見上げた。



『こちらスワローウィング。もうじき着地だ』

『10秒遅いぞ、急げ』



 分かってるよと、アーセムは屋上付近に差し掛かるや否や、まだ十分な高度まで下がっていない状態からやや強引にパラシュートを切り離して屋上への着地を試みた。その過程で付近に敷設された監視カメラに対してワイヤーを撒きつけて電流を流し込み、監視網に穴を空ける。



 が、速度を抑えきっていなかったが故に落下の衝撃を殺しきれず、受け身をしてなお勢いを止められなかったアーセムは屋上の柵を突き破って空中に投げ出されてしまった。



「うおっ……」



 あわや大惨事。アーセムは片手で屋上の柵を、もう片方の腕で破損した柵の残骸を掴んでなんとか落下を免れる。さっきまで高高度を飛んでいたが、パラシュートありきの滑空とパラシュートなしの自由落下では全く別種の恐怖がこみあげて来る。地上はありありとすぐ真下にあるが、それ故にこの高さからの落下は致命的だ。アーセムは手を滑らせないうちに一呼吸置いてから勢いをつけて再び屋上へと上がると同時に、停止させた監視カメラを経由してカリヤが用意していた偽のID情報をシステムに潜り込ませた。



「入った」

『重畳重畳、思った通りここの監視網は施設のメインシステムによる一括管理だぜ』



 アーセムの報告と、今まで頑なにレイヴァンの通過を拒んでいたゲートのセキュリティが開かれるのはほとんど同時だった。監視カメラに繋がれたコンピューターから潜り込んだカリヤのウイルスが施設のメインシステムの一部に潜り込み、そこに保管されている外注業者の名簿リストにレイヴァンの偽装IDを上書きしたのだ。



 まさしくそれは緊迫の一瞬だったのだろう。アーセムの連絡を待っていたカリヤとレイヴァンが息を飲む音声が無線越しに生々しく響いていた。



『全くヒヤヒヤさせるぜ……。オーライ、ここからは俺と姉さんの支度だ。蜘蛛の子スパイダーを放ってくれ』

「了解」



 言って、アーセムは懐から取り出したケースの蓋を開け、中に入っていたものをばらまいた。薄青く発光する蜘蛛のような形状をしたそれは、カリヤが独自に組み上げた自律行動型の魔道式。エーテルで構成された半実体の体にはシンシアの持つ千里眼の中継術式とカリヤの仕込んだあらゆる術式が組み込まれ、実地にて行動するエージェントの行動をサポートする優れものである。



「ふぅ、後は大使館のメインシステムに穴を開けて情報を抜くだけだ。レイヴァンは無事に通れたかな?」

『キモを冷やしたよ。守衛がマヌケで助かったようなもんだ』

「デカい図体して相変わらず小心者だなあ、ダンナは」

『アーセムの遅刻癖はお咎めなしかよ』

「そういうのはアドリブでカバーするのが良いチームプレイってやつだろ」

『──ご歓談中申し訳ないけれど、仕事の話して良いかしら』



 ──と、早速スパイダーからシンシア・スノウフィールドの声で状況が報告される。



『屋上に向かって警備がひとり、そっちに向かってるわ。監視カメラの異常を察知して様子を見に来たみたいね。到着まで後30秒』

「通気口のセキュリティはまだか?」

『たった今スパイダーが向かったばかりだ、解析まであと一分はかかる』

「他に逃げ道は?」

『ない、屋上への出入りは生体認証式のゲートが一ヶ所あるだけだ』

「仕方ない。シンシア、警備の接近をカウントしてくれ。プランBだ」

『なにそれ、聞いてないわよ?』

「アドリブだよ」



 果たして本当にどうするつもりなのか……。アーセムはそう言うと、すぐさまゲートの入り口まで走りより、その死角に身を屈めた。



『ちょっと、アーセム?』

「いつものやつさ、少しの間便所に行ってもらう。いいから状況を知らせろ』

『ちょっと待って、えっと……いま最上階階段の踊り場。入り口まで16歩。重心は右、右手に懐中電灯。左利きよ』

「何? 左利きだって?」



 アーセムは慌てた様子で待ち伏せの位置を今いる場所の反対側へ入れ替えた。その行為に意味があるのか一瞬判断にシンシアは一瞬戸惑ったが、少し考えれば納得がいく。

 左利きの相手に対して左側から仕掛ける──この場合、懐中電灯を持つ手と利き手の両方が塞がる形になるが、得物が銃であるにしろ棒であるにしろ、使い慣れた利き手を死角から抑えられれば必ず対処が一瞬遅れ、仮に機転を利かせて懐中電灯を投げ捨てたとしても、その分アクションにタイムラグが生じる。いずれにしても拘束する側にとっては都合がいい。そしてアーセムが操る魔導式は電気である。握りざまに電撃を浴びせれば叫び声一つ上げさせずに対象を無力化できる。



『ゲート前まで到着。生体センサー作動。ゲートの開放まで残り5秒……3、2、1』



 カウント終了とともにゲートが開き、懐中電灯の明かりが真っ暗な屋上の闇を照らす。間もなくして現れた警備員がいぶかしげな足取りで異常を起こしたカメラに近寄る。アーセムはその無防備な背中を捉えると、一気に距離をつめて襲い掛かった。



「……ッッ!!」



 するりと懐に飛び込んだアーセムがまず一撃、左手を掴んで電流を流す。叫び出すことがないように口元も思い切り塞いでの電撃だ。一瞬の襲撃に訳もわからないまま、ぶるぶると小刻みに震える警備員はたちまち自我を喪失し、手にしていた懐中電灯を落とした。アーセムはそれを踏み潰して破壊すると同時に警備員の左腕を極めつつ膝を崩して重心を前に傾ける。成す術のない警備員は地面に組み伏せられくぐもったうめき声を挙げるばかりで、もはやそこには最低限の抵抗力すら残されていない。間髪入れずにアーセムは倒れた警備員の背中に馬乗りになると、髪の毛を引っ張り上げて顔を上げさせ、空いた手でタブレットのディスプレイを見せた。



「腕を折られたくなければこれを読み上げろ。ゆっくり、はっきりと」

「え……あ……?」



 まだ状況が理解できてないのか、警備員は間抜けな声を出した。しからばとアーセムはタブレットを一回置いてから警備員の口をふさぎ、極めていた左腕の関節をさらに捻じ上げて目覚まし代わりの激痛をお見舞いした。



「んんん―――ッッ!! ん―――ッ!」

「もう一度言うぞ、こいつを読み上げるんだ。ゆっくり、はっきりと。次は本気でやる」



 これだけの激痛がまだ本調子ではないという事を言外に悟った警備員にもはや抵抗の意思はなく、目に涙を浮かべながら言われた通りタブレットに表示された文章をわなわなと読み上げた。



「き、き、兄弟たちよ。私はこの事を言っておく。肉と血とは神の国を継ぐことが出来ないし……朽ちるものは朽ちないものを継ぐことはない……」

「オペレーター、解析しろ」

『え? ああ、ちょっと待て。今の続けさせてくれ』



 唐突に声紋解析を要求されたカリヤは一瞬慌てる。アーセムは普段の甘い表情とは打って変わった氷山の如き冷酷な面持ちで、警備員に続けるよう無言の圧をもって要求した。



「ここで、あなたがたに奥義を告げよう。わたしたちすべては、眠り続けるのではない。終わりのラッパの響きと共に、またたく間に、一瞬にして変えられる。

というのは、ラッパが響いて、死人は朽ちないものに蘇らされ、わたしたちは変えられるのである。

 な……なぜなら、この朽ちるものは必ず朽ちないものを着、この死ぬものは必ず死なないものを着ることになるからである。

この朽ちるものが朽ちないものを着、この死ぬものが死なないものを着るとき、聖書に書いてある言葉が成就するのである」



 死は勝利にのまれてしまった。

 死よ、おまえの勝利は、どこにあるのか。

 死よ、おまえのとげは、どこにあるのか。



 おそらくはなんらかの聖句の写しであろう。今まさに絶体絶命の窮地に立たされていた哀れな警備員は、天上におわす神に祈る敬虔な信徒のように、必死かつ淀みのない語調で、突きつけられた文章を読み上げていく。



「死のとげは罪である。罪の力は律法である。しかし感謝すべきことには、神はわたしたちの主によって、私たちに勝利を賜ったのである」



『オーケー解析完了。なかなかいい声してるじゃんそいつ』

「了解」



 カリヤからデータが飛ばされてくるのを確認するや否や、アーセムは警備員に一瞥もくれることなくとどめの電流を流し込んだ。その一撃で警備員はかろうじて残していた自我を完全に喪失して失神する。対象を傷つけることなく無力化するその手際は、アーセムが熟練した対人格闘術のプロであることを言葉よりも雄弁に物語っていた。



『異常は見つかったか?』



 と、連絡がないことを不審がった他の警備員の無線が鳴る。アーセムはタブレットから印刷されたシートを舌の奥に貼り、一つ咳払いをする。厚さ0.01ミリ以下、伸縮性の極薄マイクロフィルムではあるが、舌を覆うような強烈な違和感はいつになっても難儀する。それを押してアーセムは気絶した警備員から無線機をかっぱらって応答した。



「先日の落雷による故障のようだ。周囲に異常はない」



 アーセムの声は先ほどカリヤに解析させた警備員のそれに変化していた。普段は声紋認証を突破する際に使う小道具だが、無力化、もしくはやむなく殺してしまって口がきけない人物に一時的に成り済ますためにも使うことが出来る。まさかとは思ったが案の定。その際、任務遂行中に対象を退席させる口実として用いられるのが、



「ついでにちょっとトイレ行ってくる」



 であった。オペレーター達の間でため息が漏れた。



「障害を排除。設備屋の進捗は」

『ちょうど点検解析が終わったところさ。すぐに空調のメンテに入る』

「オーライ、こちらはいつでも行ける」



 アーセムはそう返しつつ、屋上からビル内部に伸びる排気ダクトの格子を外した。館内の汚れた空気をしこたまかき集めた排気風は埃っぽい上に生暖かく、なおかつ不愉快な臭気を漂わせている。これからこの中に潜り込まなければならないのかと思うと、流石のアーセムもやや鬱蒼とした気分になる。

 無論、任務のために必要であればたとえ肥溜の中にも躊躇なく飛び込むのがこの男なのだが。



『メンテナンス開始。スワローウィング、巣作りを始めろ』

「了解……」



 やっとと言うべきか、とうとうと言うべきか。いずれにしてもダクトのセキュリティが解除された以上、アーセムはその中に潜り込まなければならない。

 できるだけ匂いを感じないように口で呼吸をしながら、アーセムは深淵にも似た孔の中へと滑り込んだ。

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