第36話


トボトボと西門の方に向かって歩くヴァンスの跡をついて行ってみる事にした。

少し歩くと一件の建物に入って行った。

看板を見ると飯屋のようだ。何も気にせずにそのまま店へと入る。


「いらっしゃいませー!」

「1人なんだが煙草は吸えるか?」

「大丈夫ですよ!こちらへどうぞー!」


店員に案内される途中でテーブルに一人で座っているヴァンスと目が合った。


「お、ヴァンスじゃないか?」

「ああ、ハントさんさっきぶりっす。昼飯っすか?」

「ああ。一緒に食べていいか?」

「…ああ、いいっすよ。」


周りを少し気にするように見渡してからヴァンスの了承を貰う。


「店員さん、ここで一緒に食べる。」

「分かりましたー!今日のランチは焼肉セットです!」

「じゃあそれと、アイス珈琲を頼む。」


注文をして、ポーチから煙草を取り出して火を付け「ふぅ~。」と煙を吐き出す。


「ヴァンスは本隊のほうか?」

「そうっす。ハントさんもっすか?」

「いいや、俺は遠距離攻撃の方だな。こう見えて弓には自信があるんだ。」

「へえ~、そうなんすね。」


会話が途切れて、プカプカと煙草の煙が漂う。


「…それで何でついてきたんすか?」

「気付いてたのか?」

「狼の鼻を舐めないで欲しいっす。とは言っても、その煙草の香りが分かりやすいからなんすけどね。」

「そうか。なんで腰抜けって呼ばれてるのか気になってな。」

「…それっすか。」

「いや、言いたくない事ならいいんだ。だが、使い込んだ剣にガントレット、軽そうな身のこなしを見たら少し気になってな。」

「そうっすね…。バンデットレイヴン退治が上手くいって2人とも生き残ってたら話すっす。」

「そうか。それじゃあ頑張らないとな。」

「…。」

「お待たせしましたー!焼肉セットですー!飲み物も置いときますね!」


ちょうど会話が途切れたタイミングで料理が届いた。


「美味そうだな。冷めないうちに食おう。」

「そうっすね。」


ホカホカと湯気を立てる生姜焼きのような肉にサラダとスープにパンだ。

ちょうどお腹が空いていたこともあってガツガツと食べるとあっという間になくなった。


「この店も美味いな。」

「そうっすよね!俺はグロースの中だとここが一番だと思ってるっす!」

「そうか。俺が泊っている鷲の止まり木の飯も美味いぞ。」

「むむ。そこは結構いい宿っす。さてはハントさん結構稼いでますね?」

「いや、この街でたまたま入ったのがその宿だっただけだぞ。傭兵ランクもまだ2だしな。」

「あんれー?まだ2なんすか?俺は4っす。こう見えてレベルも30手前なんすよ。」

「すごいな。俺なんてまだ20にも届いてないぞ。」

「依頼を沢山こなしましたからね…。」


そう言ってヴァンスは少しだけ遠くを見るような、過去を思い出すような目をした。


「ほら!やっぱりハントさんですよ!私の目に間違いは無かったです!」


そんな声に店の入口に振り向くと、クーチとマルとキクリが揃って立っていた。


「おお、早かったな。終わったのか?」

「はい。あの辺りを散歩しただけですからね。そちらの方は?」

「ああ、ヴァンスっていう。さっきギルドで知り合ったんだ。」

「俺はヴァンスっす。ハントさんとはさっきからの付き合いっす!」

「そうなんですね。私はクーチです。」

「僕はマル。」

「…キクリ。」

「皆さんはハントさんの仲間なんすか?」


少し寂しそうな懐かしそうな声でヴァンスが聞いてくる。


「ああ、大切な仲間だ。」

「…そうっすよね。あ、自分依頼があるんで先に出るっす!また!」


慌てたように立ち上がったヴァンスはそのまま会計をして店を出て行った。


「あわただしい方ですね?」

「そうだな。みんな飯は食ったのか?」

「はい、外でお弁当を食べてきました。」

「そうか、それじゃあ宿に戻って、情報を共有しようか。」

「「分かりました。」」


ごちそうさんと店員に礼を言って店を出る。


鷲の止まり木に戻って俺とクーチの部屋に身軽な恰好で集合する。

煙草に火を付けて窓から煙を吐きだす。


「さて、ギルドで共有した事なんだが。」


俺はギルドで、クマズンから言われた事を全員に伝える。


「マルは俺と先制攻撃部隊に行くことになる。キクリは本隊だな。さっき一緒に居たヴァンスも本隊に居るから、見掛けたら気にかけてやってくれ。クーチはブルクスと一緒に後方支援部隊だ。気になることはあるか?」

「僕は特にないですね。」

「私も大丈夫です。」

「…ヴァンスはなんで気にかける?」

「あいつは、ソロの傭兵らしいんだが他の傭兵から腰抜けと呼ばれていたのが気になってな。腕は立つようだし、話した感じは弱気でも無さそうなんだが。」

「ふふっ。ハントさんらしいですね。」

「そうか?」

「はい。マルさんとキクリさんの時もそんな感じでしたよ。」

「先に怒ったのはクーチだろう?」

「そうですけど、その前から見てたじゃないですか?」

「そうだな。」

「…分かった。仲間候補をちゃんと見ておく…。」

「あはは。そうですね。キクリ、気にかけてあげて下さい。」


マルは笑いながらキクリに声を掛ける。

そうか、仲間候補か。


「きっと、腰抜けって呼ばれる事情をハントさんが聞いたら仲間になっちゃいますね。」


にっこりと笑うクーチにそんなもんかと煙を吐き出しながらポリポリと頭をかく。


「まあ、なるようになるさ。さあ、飯を食ってさっさと休もう。いつでも戦えるように用意をしておこう。」

「「はい!」」


俺達は夕食を食べてそれぞれの部屋へと戻り、明日へ影響の無いように軽くイチャイチャしてから眠りに着いた。

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