第37話


翌朝、スッキリした気持ちで目が覚める。

クーチはまだぐっすりと眠っているようで起きる気配が無い。

上半身を起こしてグッと身体を伸ばす。そのままベッドから降りてシャワールームへと向かう。


温めのお湯で汗やら何やらを流していると背中に柔らかい感触があった。


「おはようございます。」


少し恥ずかしそうなクーチがシャワールームへと入ってきたので、そのまま2人でスッキリとする。

着替えて一階へ降りるとマルとキクリがモグモグと朝食を食べていた。


「おはよう。」

「おはようございます。」

「…ん。」


2人と挨拶を交わしてから席へと座る。


「アイス珈琲と果実水、朝食を2つ頼む。」

「あいよ!ちょっと待ってな!」


女将さんの威勢の良い返事を聞きながら煙草に火を付ける。

「ふぅ~。」と煙を吐いてゆったりとした時間を楽しむ。


「お待たせ!」

「ありがとう。」


女将さんに礼を言って朝食に手を付ける。


「とりあえず、俺はギルドに行って新しい情報が無いか確認してくる。3人はどうする?」

「私はついて行きます!」

「僕とキクリは街を見て回ろうかな。」

「分かった。それじゃあ、何かあったらギルドに来てくれ。何も無ければ夕飯は一緒に食べよう。」

「分かりました。」


朝食を食べながら簡単にそれぞれの行動を共有しておく。


「それじゃあ、クーチ行くか。」


クーチも朝食を食べ終えたようなので二階へと上がって用意する。

いつも通りの恰好で宿を出てギルドへと向かう。


「昨日よりも騒がしいな。」

「傭兵の数がいつもより増えているせいでしょうか。」

「そうかもしれんな。」


何事も無くギルドについたので受付カウンターへと向かおうとするが、かなり混雑している。どうやらここに居る傭兵達は情報の確認に来ているようだ。


「少し待とうか。」


クーチを促して、ギルドの食堂のカウンターに座る。


「アイス珈琲と果実水を頼む。」


カウンターの中に居る職員に注文して煙草に火を付ける。


「しばらくは落ち着かなそうですね~。」


クーチのそんな呟きもしょうがない。

カウンターの前で好き勝手に質問をぶつけ続ける傭兵も多く、なかなか列が消化できていない。それに、同じ説明を何度も繰り返しているのも時間の無駄が大きい。


「手伝いたいとも思うが、逆に迷惑を掛けるかもしれんし、とりあえずは待とうか。」

「そうですね。」


しばらく口からプカプカと煙を吐き出しながら一向に減る様子のない傭兵達を眺めていると、バタバタと入口から慌てた様子の傭兵が入ってきた。


「ん?あれはタイホールと一緒に居た斥候じゃないか?」

「どれですか?」

「ほら、今2階に上がって行った。」


その傭兵を手で示す。


「あ、そうみたいですね。何かあったんでしょうか?」

「かもしれんな。まあ待つしかないが。」


ふ~と煙を吐いて珈琲を飲む。

あの慌てようだと新しい情報が入ったようだな。

変な事にならなければいいが。


少しすると2階からクマズンとブルクス、件の斥候が降りてきた。


「すまない!バンデットレイヴンとの戦いに参加する傭兵はこっちに来てくれ!」


クマズンが大きな声で呼びかけると、受付カウンターに並んでいる列から多くの傭兵が外れ出した。

脇のちょっと空いているスペースにゴチャゴチャと傭兵が集まる。


「今、斥候からの知らせが入った!奴らの進行速度が予定よりも早い!明日の昼過ぎには西の廃墟の手前まで来てしまいそうだ!それで急で悪いんだが、明日の朝、迎撃部隊として出発する事にした!ここに居ない傭兵にも伝えてやってくれ!明朝、西門に集合だ!」


どうやら予想外の事態が起きたらしい。


「これから、俺達も街に居る傭兵に声を掛けながら用意をする!ここに居る者達もしっかり用意を整えてから参加してくれ!以上だ!」


ふぅ~と煙草の煙を吐き出して、頭を切り替える。

荷物は大丈夫、傷薬類もあるし、何かあれば後方支援部隊で治癒をしてもらえる。死んでしまっては元も子もないから、傷薬類はキクリに集めよう。という事は雑貨屋で買い物をしてから宿に戻ったほうがいいな。俺とマルは万が一を考えて傷薬と非常食系か。俺は大量に持てるからいいがマルは持てないからな。マルが常に見える位置に陣取っておこう。何かあったら俺のバックパックから物資を提供すればいい。

つらつらと頭の中でやることを整理する。


「よし、クーチ、俺達も行くぞ。」


傭兵達がギルドから出ていくのを見ながら、カウンターの椅子から立ち上がる。


「はい。」

「まずは雑貨屋だな。」


ギルドから出て以前にも立ち寄った雑貨屋で飲むタイプの傷薬と塗るタイプ、包帯を買う。

次に食料品を調達していく。食料品店で干し肉とパンを買う。ついでに野菜や調味料も買う。途中の屋台で串焼きを纏めて包んでもらいバックパックに仕舞う。これでしばらくは大丈夫だろう。


「さて、宿へ戻るぞ。女将さんに弁当も作ってもらおう。」

「そうですね!女将さんのお弁当は美味しいですから。」


買物を終えて、宿へと戻る。街の中をバタバタと走り回る傭兵が増えていて、住民も心なしか不安そうな顔をしている。

これが戦争前の雰囲気なのだろうなと思う。


宿に戻るとマルとキクリが食堂に座っていた。


「戻っていたのか?」

「ええ。街で小耳に挟んだのできっとハントさんも戻ってくるだろうなと。」

「そうか。とりあえず昼でも食うか。」

「そうですね。食べながら話しましょう。」

「女将さん、昼食を4人分頼む。あと珈琲と果実水を3つ頼む。」

「あいよ!」


煙草に火を付ける。


「ふぅ~。それで、明日の朝に西門に集合することになった。マルは俺と、キクリは本隊、クーチは後方支援だな。マルとはできるだけ近くにいるつもりだが、念のためいくつか傷薬を持って行ってくれ。残りはキクリが持っていて欲しい。」


そう言って、バックパックの中から雑貨屋で買っておいた傷薬類をテーブルの上に載せる。


「分かりました。」

「…分かった。」


2人がそれぞれの荷物に仕舞うのを確認する。


「それから非常食は俺が持っておく。俺のバックパックは特別製だからな。」


そう言ってポンポンとバックパックを叩く。


「これぐらいか。あとは、全員絶対に無事で戻ることだな。」

「「分かりました。」」

「…分かった。」


全員が神妙な顔つきで頷く。


「はいよ!ご飯だよ!」


それを壊すように女将さんの威勢の良い声が響く。


「さ!それを食べてしっかり休んでおくれ!夕飯はサービスするからあんた達、勝っておくれよ!」


バンバンと俺の背中を叩きながらそんな声を掛けてくる。

きっと不安もあるだろうに強い人だなと思う。


「ああ。もちろんだ。それじゃあいただこう!あとは夕飯までは自由時間だ!」

「「「いただきます。」」」


昼食を食べ終えてそれぞれの部屋へと戻る。


俺は椅子に座って煙草に火をつける。


「いよいよなんですね…。」

「ああ。いよいよだな。不安か?」

「はい。でも守ってくれるんですよね…?」

「ああ。勿論だ。クーチも、マルも、キクリも。全員で生きてここに戻って来よう。」

「分かりました。」


クーチはそう言って、椅子に座る俺の前から抱き着いてくる。


「…死なないで下さいね。…危ない事もダメですよ…。」


俺の方に顔を埋めて、ぼそぼそと呟く。


「…一人にしないで下さいね。」

「ああ。」


ポンポンと、あやすように軽く背中を叩きながら返事をする。


「約束ですよ。」

「ああ。」


強く頷いて口づけをする。


「全員で無事に帰って来よう。必ずだ。」

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