第19話

凛は仕方なく俺の部屋で休むと言うと俺達はさっさと寝る支度をした。低反発のベッドが凛。敷布団が俺。と寝る場所をさっさと決めると突然やることがなくなり急に落ち着いた空間が生まれた。いつも自分が一人で過ごしている空間に美少女が一人。これが落ち着ける空間と言えるかは微妙ではあるが、少なからず俺は心地がいいと感じる空間だった。凛が突然「あなたの幼少期が知りたいの」と言い出したので、俺は部屋の埃が被った棚にあるアルバムを取り出し、彼女と見ることになった。うわぁ。黒歴史とか思い出しちゃったらどうしよう。今からでも遅くないか?と考えている内に凛はページをペラペラとめくる。そこには俺が生まれたばかりの写真から中学の卒業式までの写真が入ってあった。そういえばどうして中学時代までの写真しかないんだろうか。確かに高校での思い出なんて凛と出会ったこと以外ないが…と考えていると凛は急に「か、可愛い…。特に小学校の運動会の写真、見て!」と珍しく少し興奮気味にそう言って俺にアルバムを寄越した。あ、そうだ。俺、昔は足が早くって運動会ではいつも一位だったな。でも……。凛は俺の顔を見て「どうかした?」と首を傾げると俺は心配をかけてどうする!と自分に喝を入れ、「俺昔は友達いっぱいいたんだよ」と自慢げに笑った。彼女は「過去の栄光に縋るのはやめなさい…」と呆れたような、でもどこか楽しそうな返事をした。俺もそれが伝わってとても、そうとても心地がいいと感じた。その後も俺たちはアルバムを見て和気藹々と会話を弾ませた。中には黒歴史を連想させるようなものまであったがそれすらもこの時のための、この会話をするための素材であるような。そんな不思議な感情を抱いた。そうこうしていると時計の針は夜中の1時を指していた。凛は笑い疲れたのか「そろそろ休もうかしら」と言い出した。俺は「なぁ凛。ちょっと外に行かないか?」と彼女を見ると彼女はこちらを「どうしてだろう?」という様に見た後「分かったわ」と頷くと俺達は玄関の少し重い扉を開いた。

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