第20話

外に出るとふと冷たい空気が鼻を通った。この時俺は初めて秋が訪れていることに気がついた。色んなことが重なりすぎて季節なんてどうでもよかったのかいつの間にか時が過ぎていたことに少し複雑な気持ちを抱いた。俺は凛に「近くの公園まで行こう、遊具なんて一つもないから公園って言えるのかはわからないけど」と言うと彼女はただ首を縦に振った。


俺は羨ましかった。昔は友達が今では考えられない程いたが、それでもいつも一人だった。昔から何も変わっちゃいない。幼稚園。俺はスポーツが得意で大概のものは殆ど人並み以上に出来た。相手の話に合わせるのが昔から得意で俺の周りにはいつも人がいた。小学校に上がったら更に人が増えた。歳なんて関係なく俺の周りにはいつも人がいて、常に賑やかだった。中学生になってもそれは変わらず色んな部活から入ってくれと頼まれた。俺を好きだと言ってくれる人まで現れ俺は周りから見れば何もかも持っている間違いなく羨ましい存在だった。でも何もかも違う。違うのだ。俺は昔から親が共働きで忙しく幼稚園のお迎えなんて一度として来てはくれなかった。迷惑がかかると分かってはいたが親が迎えに来るまで幼稚園で待ち続けることにした。不安だった。俺の周りにいた友達はみんな一人一人、消えていった。大好きな人に「帰ろうか」と言われるととても嬉しそうに手を繋いで帰っていった。きっと来てくれる。そう願いただ待ち続けたが気が付けば窓か入る夕焼けの日光は消え、真っ暗な教室に俺と一人の少女、園長先生の3人だけが残っていた。園長先生は「パパとママは忙しいみたいね。私がお家まで送っていってあげる」とそう言い出した。俺は俺の他に同じ様な状況の子がいるのだと安心すると考えるよりも先にその少女に声をかけた。「君もお母さんとお父さん来ないの?」と聞くとその少女は困ったように「えっと、お母さんここにいるよ」と言い放った。その時は深く考えはしなかったが、ガラスで出来た俺の心臓に薔薇の棘がガリガリとヒビを入れると少女たちの車は俺の家へと向かったのだ。

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