アルコール

 未だフリーズしたままの妻の背に腕を回し、店の出口へとエスコートする。その際、バーカウンターに残されたカクテルグラスに目を止め、リオンは美しい眉を僅かに顰めた。黒猫が飲んでいたカクテル。脚の長いグラスに満たされた不透明の琥珀色それを彼女が自ら頼むとも思えない。大方、誰かさんが彼女のために作らせたのだろう。

 真犯人だれかさんは、妻の友人達の中にいる。彼女の狂おしい恋情を、自分達に暗い妬心ジェラシーをダークブルーの瞳に浮かべる男。

 自分の力量もしらないで動いていいのは、若者の特権だ。そんな若造が好みそうな、捻っているのかストレートなのか、独りよがりの微妙な手管。


(あの子が知るはずもないのに、よくやるものだ)


 そのカクテルの名は、『オーガズム』。それをこの乙女の心に望むのは、浅はかな事。顰めた眉はすぐに嘲笑の形に変わる。リオンは空回している恋心アピールを嘲笑い、全員分の支払いよりも更に多い額をカウンターに置いて、店を出た。

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黒狼夫婦の食事情2(2/7更新) 狂言巡 @k-meguri

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