Ep.2
僕はバッグの中の荷物を確認した。
休みの課題に、体育館シューズ、上履き、水筒。今日は始業式とホームルームだけだから荷物は少なめだ。
かばんのファスナーを閉めながら、ふとさっきの父さんの表情が頭に浮かんだ、相変わらず不器用な父親だ。
家を出るまでにはまだ10分ほど余裕がある、風はいつもその時間を狙って僕の部屋に来る。僕がベッドに座ると風はすかさず僕の膝の上に仰向けに寝転がった。ずる賢いヤツだ。でも今日の風はいつもと様子が違った。
いつもなら、家を出るギリギリの時間まで膝の上から降りようとしない風だが、今日は2,3分であっさり膝の上を降りてしまった。
そしてあたりをキョロキョロ見回したあと、器用に家具を乗り移りながら窓ぎわから外を眺め始めた。
「どうしたんだ風?」
僕の問いに風は「ニィィン…」といういつもとは少し違った透明感のある声で答えた。
少し不思議ではあったが、きっと猫にも気分というものがあるんだろう。人間と同じように。
することもなくなった僕は、少し早かったが家を出ることにした。
「ほら、いくよ。」
僕が部屋の外から言うと、風は窓に貼り付けられた身体をゆっくり剥がすように振り向いて部屋を出た。
二人で階段を降りていると、キッチンの方から春香さんの声が聞こえた、少し丁寧な喋り方と敬語で話しているようだ。こういうときはたいてい父さんが叱られている。
「お仕事もわかりますけどちゃんと休んでくださ…」
やっぱりそうだった。
僕はすこし気まずさを感じながらも、
「行ってきます。」
と、春香さんの声を遮って二人に挨拶をした。その途端春香さんの表情はパッと変わり、二人は「行ってらっしゃい」をいった。
もっとも、父さんの声はほとんど聞こえなかったけど。
僕は家を出て歩き始めた、学校へは15分も歩けばたどり着く。風はいつもその途中まで僕についてくる。
10分ほど歩くと、同じ制服を着た人たちがちらほらと見えだす、そうなると風はまるで最初から他人(この場合は他猫…?)のようにフイっと猫しか通れないような細い道に消えていく。つれないヤツだ。
あとの5分の道のりは僕一人で歩くことになる、同じ方向からくる友達がいればいいんだけど。
まぁ一人も悪くは無い。景色が毎日ほぼ同じだから飽きも感じるけど、今日は久々の学校だから変わっている景色もチラホラあった。
3月半ばには咲いていなかった桜の花が開き出していた。そんな春の訪れを感じるのもつかの間、校門が見えてきた。
3週間ぶりに見る学校は来た道と同じように桜が色づき始めていた。僕は「よし。」と、小さな覚悟のような何かを決めて、校門をくぐった。途端にどこか家や街とは一風変わった空気が僕を包む、ほこりっぽいくて、灰色のような雰囲気と、懐かしさに似た安心感もある。
その時ふと背後から聞き慣れた猫の声が聞こえた。聞き間違いかと思いながら振り向くと、さっき僕がくぐった校門上に風がちょこんと佇んでいた。
「なんできてるの!?」
僕は慌てて駆け寄った。風が学校まで来るのは始めてだった。
「ニィィン…」
戸惑っている僕をよそに風は今朝部屋で鳴いたような透明感のある声で鳴いた。
その声で不思議とハッとさせられた僕は、風を見つめた。
風も金色の目で見つめ返す。
3秒ほど目を合わせたあと、風は何かを思い出したように振り返って、細い道に姿を消した。
「なんだったんだろ…」
ボソッと呟いたあと、周りの視線に気付いた僕は、そそくさと靴箱に向かった。
クラス替えの名簿にため息をついて教室に向かうい、1年生のときとガラリと変わった雰囲気と、新学年でざわつくクラスメイトを横目に、僕は黒板の指示どおり席についた。
花月の「は」は、男子では後ろの方で、クラスの廊下側の端の列だった。
10分ほどしてチャイムがなった、それと同時に教室のドアから先生が入ってきた、去年の隣のクラスの先生だった。元気で明るい女の先生。
先生は教卓に立って喋り始めた、それでも静かにならない二人の生徒を先生が軽く注意した。
それでも二人は黙らなかった。
僕が軽い呆れを感じていると、先生もしびれを切らしたのだろう、少し強めの口調で
「いい加減にしなさい小野寺、菊池。」
と、注意した。
ようやく静かになった二人は面白くなさそうにほうづえをついて前を向いた。
隣の席の女子は「やれやれ…」と胸を撫でおろしていた。
先生が再び喋りだした。僕は先生の話に意識の半分程をおきながら廊下の外を眺めていた。
その後、僕たちは始業式のために体育館に向かった。生徒が集まるとやっぱり体育館も僕の教室と同じように、普段とは違うざわつきに包まれた。
僕はぼーっと始業式が始まるのをまった。
一分ほどして、司会の先生が話し始めた、恒例の「静かにしてください。」を第一声に。
このときはいつもの集会のような、なんの変哲もない始業式だと思っていたが、今日は少し違っていた。
どうやら僕のクラスに転校生が来るらしい。
遠目で顔はよく見えなかったが、少しだけ興味を惹かれた。風鳥 鈴さんと言うらしい。
何か新しい変化があるのはやっぱり嫌いじゃない。今日のクラス替え以外。
と、思っていたのだが、それだけでは済まなかった。新しい担任があまり好きではない先生だったのだ。どうやら今日はついていないみたいだ。
その先生は、冷たいというか、時々人を人と思ってないんじゃないかっていうくらいの態度をとる。少なくとも好きにはなれないタイプ。
担任の発表が終わると部活動の表彰があり、始業式は終わった。
流れ星が落ちる夜と いよ @iyo_CoCoNuts
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。流れ星が落ちる夜との最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます