第19話 アランの決意

「……ここは」


 目が覚めると不思議な空間にポツリと一人で立っていた。どこを見ても汚れのない白色の空間でどこまでも続いてる、そう思わせる空間だった。


「そうか……俺は死んだのか……」


 どんどんと何があったのかを思い出してきた。ウェールズの体当たりをもろに喰らって……。


「しょうがないよな……。ウェールズは強すぎる……」

『諦めるのですか?』

「えっ?」


 この何もない空間からそんな声が聞こえた。


『諦めるのですか。アラン様』


 同じような言葉がもう一度繰り返される。この独特の敬称と幼い声は……。そう思って声のする方向へと顔を向ける。


「シェラなのか?」


 しかしその方向には誰もいなかった。

 そしてすぐに


『アランさん。諦めるのですか』


 また後ろから別の声でそう聞こえた。この大人っぽい声は


「ステラ!」


 振り向いてみてもさっきと同じように白い空間が広がっているだけだった。


 ステラ、シェラ……。この街に来てから初めて出来た信頼できる友人。

 助けたり助けられたり支え合って生きていける居なくちゃいけない存在だ。


 その瞬間、今までのことが鮮明に頭に浮かんでくる。


「これが走馬灯ってやつか……」


 そんな事を思いながらゆっくりとまぶたを落としていく。


『アランさん! 起きてください!』


 遠くの方から俺を名前を呼ぶ声が聞こえる。


「もう休ませてくれ……」


 俺は振り絞ってそんな言葉を発した。

 しかし俺を呼ぶ声は俺の声を無視するように言葉を続ける。


『アランさん! アランさんが居ないと私たちは死んでしまいます! 私はまだ死にたくありません! シェラさんともっと仲良くなりたい。妹とお母さんを守りたい! そして何よりもっとアランさんと一緒にいたいんです!」


 俺だって同じ気持ちだ。皆んなともっと仲良くなりたい。だがもう……。


「アランさん! 私たちを助けてください! そしてまた皆んなでダンジョンを攻略しましょう!」


 俺の体は暖かい光に包まれていく。


『アラン様。私は信じて待っています』


 もう一度そんな声が聞こえてくる。何度も聞いた。俺を信じて待っているという言葉。


『アランさん! アランさんが一番強いって信じてます! だから勝手かもしれないけど私たちを助けて!』


 何度も聞いた。俺を呼ぶそんな声。


 俺は色んな人から信用されて、信じられてここまで来たんだ。



「ウェールズを倒してまたみんなで楽しくダンジョンを攻略するんだ!」


 俺の頬にポトポトと何が落ちる感触が伝わってくる。


「……ス……テラ」

「アランさん!」


 俺が目を覚ますとぼろぼろと涙を流しているステラの姿が目に入った。

 目を開けたのを確認した途端、ステラは俺の体をぎゅっと体を抱きしめてきた。苦しいぐらいに。


「後はもう大丈夫だ。任せとけ」

「はい!」


 ステラは満面の笑みで返事をしてくる。


「アラン、やっと起きたか……」

「フライアにも迷惑をかけたな」

「大丈夫だ。私は私の仕事をやり遂げだ。後は……頼む……」


 最後にそう言うとフライアは緊張がほぐれたようにその場に倒れ込んだ。

 俺は倒れるフライアの体を受け止めて


「ありがとう」


 そうお礼を言ってステラにフライアを頼んだ。


「さあ、決着だウェールズ!」


 俺は剣を構えウェールズを睨み付けた。

 もう俺は諦めない。どんな事があってもステラとシェラがいる限り。

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