第13話 ギルドでの出来事


「こんなところなんですね……」


 ギルドに入るとステラがキョロキョロと辺りを見渡していた。やっぱり初めての場所だとそうなってしまうよな、と思っていると


「おいお前」


 ドスの効いた低い声でそう話しかけられた。


「うん?」


 声の方向を見てみるとここらでは見たこともない様な、大男が偉そうな態度で立っていた。


「誰だ?」

「俺はラミア・ルーギアだ! 隣町から最近この街にやってきた最強の攻略者だ!」


 名前を訊いただけのはずが、ペラペラと適当な事を話していた。

 まぁ、隣町から来たのなら見たことないのも納得だな。


「お前こそ何様だ? こんな所に女二人連れて来るなんて」

「はぁ……」


 思わずため息が出てしまう。最近ではこんなことも無かった為、うんざりしてしまう。


『ラミアさん。この人ははやめといた方が……』


 大男に近づいてそう助言の様なことを言う奴もいた。しかし


「うるせえ! このラミア様より強いやつなんて誰一人として居ねえんだからいいんだよ!」


 そう言って怒鳴り上げていた。

 こいつはゴブリンだな……。会話もまともにできないゴブリン。


「落ち着けって」

「ああん⁉︎ 俺に指図するんじゃねえよ!」


 そう言って拳を飛ばして来る。が、最強と自称していた割には遅すぎる拳だった。


「よっと」

「なっ……」


 俺は飛んでくる拳を掴み取りそのまま後ろに投げ捨てる。


「いてぇ……」

「それじゃあな」


 関わりたくもないのでささっと立ち去ることにする。


「ステラ、シェラ行こうか」

「は、はい」

「そうですね」


 ステラは驚いた様子で、シェラは当たり前といった様子で返事をした。


「おい! 待て!」

「まだ何か?」


 俺はできるだけ冷淡に低い声で問いかける。


「お前は何者だ?」

「普通の攻略者だ」


 最後に一言そう言って俺はラミアゴブリンの目の前から立ち去った。

 まだ何か言っている声が聞こえたが、めんどくさいので無視することにした。


 そして少し歩いて受付へと辿り着いた。


「アランさん。今日はどの様な御用で?」

「今日はこの子をギルドに登録したくて来たんだが」


 そう言って左に一歩寄り、ステラが見える様な位置に移動した。


「はい。登録ですね。ではこのカードを記入して下さい」


 そう言ってステラに渡されたのは一枚の小さい紙だった。

 簡単な情報を記入するだけで、攻略者になれるというのが攻略者の人数が多い由縁でもある。

 そのため記入するのは名前、年齢、得意な剣や魔法についての三つのみだ。


「書けました」


 ステラはものの数分で紙を書き上げる。


「……はい。これで大丈夫です。それではこのカードをどうぞ」

「ありがとうございます!」


 そうステラが受け取ったのは攻略者のカードである。ダンジョンにどれくらいの階層潜ったのかを測る目安にもなる。


「それじゃあ次は私ですね」

「えっ?」


 思いもよらなかった方向からそんな言葉が聞こえてきたので、思わず腑抜けた声を上げてしまう。


「シェラも攻略者になるのか?」

「なると言いますか、私も多少の戦闘はできるので自分で材料集めも少ししてみようかなと」

「もしかして今の分じゃ足りなかったか?」


 俺は少し気になって訊いてみる。もし足りないのだとしたら、契約をしているこちらの責任だ。

 しかしシェラは大きく否定する。


「そんな訳ないじゃないですか。十分すぎる程ですよ」

「それなら」

「それでも、アラン様には新しくステラさんと言う仲間が加わって、本格的に『獄炎のダンジョン』に挑まれるじゃ無いですか」


 シェラの言っている事は正しい。確かに『獄炎のダンジョン』の攻略は第一目標だ。

 だが


「それは一緒にしたらいけない」


 仕事と自分のことは分けるべきだ。ちゃんと両立するべき問題だ。シェラに心配されるのは嬉しいが、大丈夫だ。


「私はアラン様が最初に100階層に到達している姿を見たいのです」

「…………」


 それはシェラの自分自身の意思だろう。それは分かっているだが、そんなことを考えているとシェラは言葉を続けた。


「もちろん。今までの素材集めはやってもらいますよ。私だってそんな深い階層に潜れる訳じゃ無いですから」

「アランさん。シェラさんのご好意に甘えてもいいと思いますよ」


 今まで黙っていたステラもシェラの方を持つ様に口を入れた。


「分かった。だが契約解消という訳じゃ無いからな」

「もちろんです! 私はいつまでもアラン様に憧れていますから。そんな人を離しはしませんよ」


 そう言って少しステラの方は目を向けていた。どうしてステラの方を向いたのかは分からなかったが、その気持ちはとても嬉しい。


「ありがとうな。二人とも」


 俺は何度目かわからないお礼を二人に投げかける。


「こちらこそ。ありがとうございます。アランさん」

「お礼を言うのはこちらの方ですよ」


 その言葉を最後にシェラは受付のところに出向いて、カードを記入していた。


「お待たせしました」


 シェラは自慢げにカードを掲げてこちらに歩いてきた。


「それじゃあ行くか」


 シェラこちらにきたのを確認して、そう言葉を発した。


「早速ダンジョンですか?」

「いや、今日は親睦会みたいなのをやろうかなと。シェラとステラは初対面だし」

「なるほど」


 ステラが納得した様に頷く。

 ステラとシェラはいつの間にか随分と仲良くなっている。だが、やっておいて損はないだろう。


「ダンジョンは明日に三人揃って行こうと思ってる」

「三人ですか?」

「俺、ステラ、シェラで三人だ」

「私も一緒に行ってもいいんですか?」


 シェラが驚いた様に訊いてきた。


「ああ。最初は簡単なダンジョンに行くつもりだったし。シェラの能力も知っておきたいからな」


 ダンジョンについては俺の方が詳しいので、実力次第でどのダンジョンに行くべきかのアドバイスはできる。


「そうですね。人数が多い方が楽しいですよ」


 ステラが俺の言葉に続いて微笑みながらそう言った。


「それではお言葉に甘えて」


 シェラはコクリと頷いてそう発した。


「まぁ、今日は親睦会だ。時間はあるだろ?」

「はい」

「私も大丈夫です」


 俺の問いかけに元気に答える二人。


「それじゃあどこか良さそうな店でも見つけて行くか」

「楽しみです!」

「シェラさんのこと色々教えてもらいますね」


 その楽しそうな雰囲気のまま、歩いていった。



 ***



 その途中どこからか話し声が聞こえてきた。


『勇者パーティが獄炎のダンジョンに挑むらしいぞ』

『これから100階層に目指すのか』

『だろうな。新しく"剣聖"がチームに入ったとか言ってたし』


 勇者パーティが『獄炎のダンジョン』に挑むのか。

 あいつら個々は強いのに勝手に動くから深階層までいけるのか。剣聖の強さはよく知らないが……。

 まぁ俺にはもう関係ないよな。


「何してるんですか。行きますよ」

「ああ。今行く」


 そんな心配もすぐに無くなり、俺はそのまま親睦会に向かい気の済むまで楽しんだ。

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