第12話 ステラとシェラ

 ステラが仲間になった次の日。俺は一足早くに目が覚めた。


「うーん……」

「えっ?」


 寝言の様な声が聞こえたため思わず隣のベットに目を向けてしまう。そこには服がはだけているステラの姿があった。


 俺はすぐに目を逸らそうとするが、そのタイミングでステラ目を覚ましてしまった。


「ふぁ……。アランさんおはようございます」

「あ、ああ。おはよう」


 まだ寝ぼけているのだろうか、ステラは目を擦りながらそう挨拶をしてくる。


「どうかしました?」


 起きてすぐの状況では、自分の服装に気づいているはずもなく気兼ねなく俺に問いかけてくる。


「えっと、だな。服が……」

「服?」


 目を逸らしながらでもそこまで言うのが限界だった。

 ステラは俺の言葉に反応して目線を真下に下げる。


「…………」

「えっと……。なんかごめん……」

「見ないでください!」

「ご、ごめん!」


 ステラは布団で自分の体を隠して、そう叫んでいた。その声に促されるまま、部屋を後にする。


 それから少しして小さな声で「もう大丈夫です……」と囁く様な声が聞こえてきた。

 俺はゆっくりとした足取りで部屋の中に入った。

 そのステラはいつも通り、いやいつも以上に整えられており綺麗だなそう思った。


「さっきはごめんな? デリカシーも無くって……」

「いえ、私こそすみません。咄嗟の事で失礼な事を」


 さっきのこともあったせいか少し気まずい雰囲気になる。


「それほど嫌って訳じゃなかったですし……」

「うん? 何か言ったか?」

「何でもないですよ」


 おかしいな、何か言ってたのは確か何だけど……。まぁ知らない方がいいこともあるよな。


「そ、それより今日は早速ダンジョンに行くんですか?」


 ステラは話を逸らす様に今日の予定を訊いてきた。


「いや、今日は行かないよ。ある人物を紹介しようと思うんだ。それにギルドの登録もしないといけないし」

「そうなんですか」


 ステラは納得した様に頷く。


「それでは早速行きますか?」

「ああ。そうだな」


 俺たちは早々に宿を後にして、シェラの居る喫茶店へと向かった。


「お待たせ。シェラ」

「アラン様。少し遅いです……よ……」


 シェラは俺を見つけるなり立って口を開いたが、話している途中にもう一人の人影に気づいたのか、雰囲気が一気に変わる。

 まるで出会った時の様な気弱な様子を感じさせる。


「アラン様。このお方は……?」

「ど、どうも。ステラ・アルシオーネ。です」


 俺が答える前にステラが一歩前に出て、自己紹介をしていた。


「……シェラ・グローネス……です……」


 ステラに続いてシェラも拙い自己紹介をしていた。


「この子が会わせたい人物なのでしょうか?」


 首を傾げながらステラは訊いてくる。確かに見た目は子供っぽいもんな。


「先に言っておくがステラより年上だぞ」

「えっ……!」


 勘違いしない様に先に言っておく。その言葉にステラは驚きを隠せていない様だった。


「ああ。まぁ取り敢えず二人に説明するから座ろうか」

「……はい」


 驚いている二人を宥める様に席に座らせた。


 そしてここまでの経緯を話す。


「——と言う訳なんだ」

「事情は分かりました。と言う事はこれからこのステラさんと一緒にダンジョン攻略に向かわれるのですね」

「まぁ、そうなるな」


 少し不機嫌そうな様子でシェラは訊いてくる。対するステラは


「シェラさん……」

「な、何でしょうか……?」

「抱きしめてもいいでしょうか?」

「何でですか!」


 シェラを早くも可愛がっている様だった。


「ステラさんは変な人ですね」

「普通ですよ」


 ステラの最初の言葉である程度緊張がほぐれたのか、シェラはステラに話しかけていた。


「でも、悪い人ではなさそうです。——ですが」


 微笑んでいたシェラはこちらを見ると少し怒った様な表情になっていた。


「こんな重大な事はちゃんと相談してくださいね。ア、ラ、ン、様」

「は、はい……」


 何で俺が怒られているのだろうか。分からないが次からはきちんと相談しよう。


「ですよね。アランさんって私にもこんな可愛い子が居るなんて教えてくれてなかったんですから」

「そ、それは会ってから話した方が分かりやすいかなと」

「ふふっ……。冗談ですよ」


 シェラに便乗していたステラは耐えきれなくなったのか、そう笑っていた。


「ですね。これくらいにしておきましょうか」


 ステラに続いてシェラも言葉を発する。

 最初は心配だったが、もうこんなに打ち解けているなら大丈夫だろうと安心した。


「アラン様は表情が薄いですが、こんな風にからかったら面白いのですよね」

「そうですね!」

「微妙に貶されている気が……」

「どうでしょう」


 何だか俺の知らないところで結託されていて、安心から少し心配要素も出てきた。


「それじゃあ今日はこの話だけだったから」


 そう言って立ち上がる。


「これからどこに行くのですか?」

「ギルドに登録をしに行くんだ。ステラのカードは作っておかないと」

「なるほどです。なら私もついて行っても? ギルドに用があるので」

「ああ。構わないぞ」


 こうして俺とステラとシェラの三人でギルドに向かった。


「初めてギルドに入ります」


 ギルドの前まで着いてステラはそう呟く。その様子はまるで何かを心配して緊張している様だった。


「騒がしいけどそんな緊張するものでもないだろう」

「そうなのでしょうか?」

「そうですね。何かあってもアラン様がいれば安心です」


 俺とシェラはステラを元気付ける様な言葉をかける。


「そうですね。アランさんはとても強いですしね」

「まぁそんな緊張しないでも大丈夫って事だ」

「はい!」


 すっかりいつも通りに戻ったステラを連れて俺たちはギルドの中へと入った。

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