第10話 ステラ視点

「はあ……」


 アランが魔法剣士になると決めた後、ステラは悩んでいた。


(言えないよ。私をアランさんのパーティに入れて欲しいなんて)


 アランさんはとてもいい人だった。見ず知らずの私を助けてくれて、介抱してくれて、あんなに親身になって話を聞いてくれる。


(私がもっと強い支援魔法を使えたらよかったのかな)


 そう思って私は自分の能力を見る。


 剣技   100点中(0)


 攻撃魔法 100点中(0)


 支援魔法 100点中(100)


 アランさんは支援魔法を使えないけど私には使える。もっと支援魔法を練習したら良いのかな。


 そんな時ふと、楽しそうに遊んでいる妹の姿が目に映る。


 私が攻略者になったらあの顔を見れなくなるかも知れない。お母さんだってもっとしんどくなる筈だ。


(私にはやっぱりできないな)


 絶対に無理だと決めつけていた。


 そんなある日街中でアランさんと出会った。その日のアランさんは前とは様子が違っていた。

 何でも、『獄炎のダンジョン』に一人で挑むらしい。心配だったけど、大丈夫だとアランさんは笑いながら返してくれた。

 笑ったと言っても表情が薄いので少し口角が上がった程度だ。


 でも私はその返事を聞いて安心した。


「まぁでも、支援魔法があればもっと楽になるかもしれないな」


 付け足す様にそんな事も言っていた。

 そんな時一つの考えが浮かんできてしまった。


(私なら支援魔法が使える)


 しかしすぐにその考えを消し去る様に頭を振る。


「どうしたんだ?」

「いえ、何でもないです。ダンジョン頑張ってくださいね。私はそろそろ行きますので」

「ああ。分かった。ありがとな」


 私は声をかけた後、アランさんから離れる様にそそくさとこの場をさっていった。

 アランさんは真剣に考えているのに、自分の自己満足の様な考えを出した自分が嫌だったからだ。


 それから家に戻った後、あの考えがどうしても頭から離れない。

 アランさんと会うまでは無くなっていたのに。


「どうしたの? ステラ」

「お母さん」


 頭を抱えているとお母さんにそう訊かれた。やっぱり親には隠し通せないか。そんな事を思った。


「何か悩んでいるみたいだったけど」

「ちょっと考え事してただけだよ」

「ちょっと話してみなさい。私も一緒に考えてあげるから」


 お母さんの真剣な目に話を誤魔化すことができずに、そのまま話してしまった。


「ステラ。あなたはもう自由に生きてもいいのよ」

「でもお母さんやノエルが」


 私やノエルに食べさせてあげたいと、お母さんがご飯を食べない事もよくあった。そのせいでお母さんの体型は細すぎるほどにスラッとしている。


「あなたはまだまだ子供なの。そんな家の心配しなくても大丈夫なのよ」

「でも……」

「でも、じゃないの。たまには私に甘えてわがままを言ってもいいのよ。そのアランさんって言う人と一緒にいたいんでしょう」

「う、うん……」


 お母さんの言葉に妙に恥ずかしくなって、赤くなった顔を隠す様に俯きながら返事をする。


「それなら行ってきなさい。断られたらなんて考えたら駄目よ。そんなことは絶対にないから」

「何でそんな自信があるの?」

「親としての勘ね。それに、ステラは自慢の娘だもの。そんな娘が断られるとは思わないわ」


 お母さんは励ましのつもりでそんな言葉を言ったのだろう。でも、でまかせだったとしても私には十分すぎる言葉だった。


「ありがとうお母さん。私もお母さんは自慢の親だよ」

「もう。褒めたって何も出ないわよ。さぁ誰かに取られる前に行ってきなさい」

「うん!」


 私の背中を叩いてアランさんのところに行かせる様に促した。


 ステラが立ち去った後、ステラの母親であるイザベラはもう一人の娘であるノエルに話しかけられていた。


「お姉ちゃんどこに行ったの?」

「お姉ちゃんはね。人生で一番大事な決断をしに行ったのよ」

「何それ?」


 ノエルは何を言っているかわからないと言った様子で首を傾げる。


「ノエルにはまだ早かったわね。さ、今日はお姉ちゃんは帰ってこないと思うからご飯の準備でもしましょうかね」

「うん! 分かった」


 そう言ってイザベラはキッチンへと足を運んでいった。

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