第9話 一つの問題点

 30階層の休憩スペースにある転移門の下に着いた。


「ここで転移したいんだが」

「転移ですね。分かりました。それではカードを提出してください」


 転移門の横に立っているギルド役員に話しかける。

 ここで少しの手続きをすると次からは30階層から始める事もできる。


「はい……。これで大丈夫です」


 水晶の様な魔道具にカードが入れられる。その数秒後にすぐに出てくる。

 これで記録完了になるのだ。


「それにしても一人でここまで来るなんて凄いですね」

「まぁ少ししんどかったけど」


 役員の人に少し褒められたので素直に返事をする。


「これからどれくらいいけるか楽しみです」

「期待に添えれるかはわからないけど頑張るよ」


 謎に期待をされているみたいだったので、その期待を裏切らない様に頑張りたい。


 その言葉を最後に俺は30階層を後にした。


 30階層から戻ってきた俺はとりあえずギルドに向かった。魔石を売らないといけないし、ギルドにも直接連絡しといた方がいいだろう。


「魔石の買取ですね」

「ああ。とりあえずこれだけ頼む」


 受付で魔石を半分ほど渡した。


「約2日でこんなにもですか……」

「ダンジョンに本気で潜っていたし、それのせいだろうな」


 いつもより比べ物にならないほどの魔石の量はあった。そりゃあ30回層まで行ったのだ。できんだけ温存しながら行ってもいつの間にか倒している。


「どこまで行かれたのでしょうか?」


 魔石の理由を答えるとそんなことを訊かれた。ギルドでは聞けと言う指示はないのでこの受付嬢の興味心からだろう。


「30階層だ」


 出来るだけ淡々とした様子で答えた。が、


「30階層⁉︎」


 予想もしていなかった回そうなのだろう。大きな声で俺の言葉を繰り返していた。


「ああ」

「お一人で?」

「ああ」

「約二日で?」

「ああ」


 目を丸くした受付嬢に質問攻めをくらった。特段隠す必要はないので素直に答える。


 その間にいつの間にかギルドがいつも以上に騒がしくなっていた。


『一人で30だとよ』

『あり得るのか。あのオークキングを一人で倒したのか……』

『私なんて五人パーティでも勝てなかったのに……』


 ギルドは俺の話題で持ちきりになっていた。そしてどんどんその話が広がっていった。


『雑魚だから勇者パーティを追い出されたんだよな』

『ああ。でもアイギスでも一人でオークキング討伐は無理だろう』

『だよな。何を考えているんだか』

『はっきり言って馬鹿だよな』


 俺の話が広がり勇者パーティの話になっていた。俺を追い出した事が馬鹿という事になっている。

 そんな会話が聞こえてないふりをしながら、受付嬢に話を戻す。


「それで魔石を」

「ああ。すみません。今すぐに準備します」


 忘れていたという様な様子で裏口に走っていった。


 魔石を売った後、シェラの所へと向かった。ギルドに出るまでに何人かに話しかけられたが軽くあしらいながらギルドを後にした。


 そしてシェラと出会い魔石を渡した後、今日のギルドの出来事について話した。


「やっぱりアラン様は強いのですね」


 少し呆れた様な様子で言ってくる。前と比べてシェラとは話しやすくなった。前まではシェラに緊張が見えていたが、今はほとんどなさそうなのが要因だろう。


「普通だよ。上には上がいるし」


 アイギスは特にそうだ。剣技だけでは及ばないだろう。魔法を使って追いつけるくらいだと思う。


「あ、後これ相当使いやすかったぞ」


 俺は魔石を入れていた袋を指差しながら言う。


「それは良かったです。これで採取も捗りますね」

「そうだな」

「それじゃあ私はそろそろ行きますね。魔石ももらいましたし」

「早いな」


 身支度をしながら言葉を発したシェラにそんな言葉をかけた。


「もっとアラン様とお話ししたいのですが……今いいところなんですよね」


 少し残念がった様子でシェラはそう答える。


「植物の研究か……」

「そうです。何かが掴めそうな予感がしますので」

「まぁ頑張れよ。応援してる」

「はい。ありがとうございます」


 ニコッと笑顔でシェラはお礼を言ってくる。これも前までにはなかった表情だ。

 お礼を言った後、シェラはくるりと短い髪を靡かせる様に後ろを向きテクテクと歩き出した。


「シェラも忙しいんだよな。シェラに負けない様に俺も頑張らないと」


 シェラに少し元気付けられた俺も、取り敢えずは宿に帰る事にした。


  宿に戻ってからはこれからの事を考えていた。


「30階層は着いたものの、問題点があるよな……」


 これからもっと先の回層に進むのは仲間がいた方がいい。俺は攻撃に専念できるので、支援魔法を使える人材が欲しい。

 今は風魔法を駆使して無理矢理早くしているが、支援魔法で上げてもらえばやらなくて済む。


「どこかに良い人はいないかな……」


 少しの間頭を悩ませていると、すぐに一人支援魔法を使える知り合いを思いついた。


「ステラ……は無理だろうな……」


 できれば知り合いがいいと思ったのだが、ステラには守らなければいけない家族がいる。

 自分勝手な理由で誘うわけにはいかない。


 グゥー


 考えているとお腹から情けない音が鳴った。

 そういえばダンジョンから帰ってきてからは何も口にしていない。


「何か食べに行くか」


 悩むのはご飯を食べながらでも出来るだろうし、腹が減っていては何もできないからな。そう思って俺はご飯を食べに向かった。

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