第16話 不幸中の幸い

 「あの、剣二様?」

 「なんだ?」


 防具屋に向かう途中にいきなり呼び止められた。

 このタイミングで一体何の用なのか?

 呼び止めた理由を彼女自身の口から告げられた。


 「あの・・・お腹空きました」

 「そういえば飯がまだだったな。先に飯にするか?」

 「はい!」


 そう言って頷くヒトリア。

 見た目が大人でも何も変わっていない。

 ただの子供だった。

 そんなことを思っていると、誰かのお腹が悲鳴を上げていた。


 「わ、わたしじゃないですよ?」

 「俺だ。どっか適当に入るか・・・」

 「そうですね。あそこなんてどうでしょう?」


 ヒトリアが指さす方向には、とても古びた店だった。


 「なんであそこがいいんだ?」

 「安そうですから?」

 「いやいや、見た目で判断するなよ。あの店に失礼だろ」


 ヒトリアに説教するも、確かに安そうな定食を売っているような店だった。

 陽も落ちてきている。

 この後に防具屋もよるとなると迷っている時間も惜しい。

 入るなら早めの方がいい。


 「ヒトリア行くぞ」

 「はい!」


 二人は一軒の店へ入っていった。

 入ってみると、中は想像以上に賑わっていた。

 やはり見た目では判断できないこともあるらしい。


 「二人ですか?」

 「ああ、大丈夫か?」

 「こちらへどうぞ」


 店員に案内され、右端のテーブル席に案内された。


 「ご注文が決まり次第、およびください」

 「ああ」


 店員は他の接客業務があるのでその場をすぐに離れた。

 そして、メニューを一通り目を通すとあることに気が付いた。


 「意外と高いな」

 「そうですね。まあ仕方ないですね」

 「ヒトリアは決まったか?」

 「はい!私はこれで!」


 ヒトリアはあるメニューを指さした。

 それはこの店で一番安い定食だった。


 「この安い定食でいいのか?」

 「はい!剣二様は何にしますか?」

 「俺も安い定食だが・・・いいのか?」

 「はい?何がですか?」

 「このお子様メニューじゃなくて」


 剣二の不用意な発言により、ヒトリアの顔は一気に紅潮する。

 そして、怒鳴るように彼女は言った。


 「もう子供じゃありません!!!!」

 「あ、ああ・・・」


 ヒトリアが怒鳴ったところを見たことがなかったので。少々驚いてしまった。

 まあ、ヒトリアがいいならいいか。

 注文メニューが決まり、ちょうど店員が通りかかったところで声をかけた。


 「注文良いか?」

 「はい、お伺いします」

 「この定食を二つで」

 「かしこまりました。銀貨四枚です」

 「ああ」


 ぴったりの銀貨を店員に渡す。

 店員は、「ありがとうございます。少々お待ちくださいませ」といい、去っていった。

 だが、三十分経ってもなかなか注文の品が届かない。


 「遅いですね。忘れられているのでしょうか?」

 「さあな、聞いてみるか」


 あまりの不自然さにもう一度店員を呼んだ。


 「何でしょうか?」

 「注文した料理が来ないんだが」

 「申し訳ございません。確認してきますので少々お待ちください」


 店員は確認を取るべく、厨房へと消えていった。

 そして戻ってきた店員は申し訳なさそうに言った。


 「申し訳ございません。注文を間違えて違うテーブルに持っていってしまったらしいです」

 「すぐ作れるのか?」

 「それが・・・」


 店員はさらに深刻そうな顔でこう言った。


 「お客様が頼まれた定食の食材を切らしてしまいまして・・・別の物ならご用意できるのですが・・・」

 「別の物?」


 すると、店員は一つのメニューを指さした。


 「こちらの料理ならご用意できるのですが・・・」

 「このメニューじゃ銀貨四枚を超えるぞ?」

 「こちらの連携ミスなので、こちらの料理は銀貨四枚でご提供させてもらいます」


 一度ヒトリアの方を見ると、目を輝かせていた。

 全く、最初から食べたいと言えばよかったのに。


 「じゃあ、それを二つ頼む」

 「かしこまりました、本当に申し訳ございませんでした」


 謝罪を入れると、すぐさま厨房へ行き、すぐに作るように指示を出していた。


 「全く、今日は散々だったな」

 「そうですね」

 「何がそんなにおかしいんだ?」

 「いえ、剣二様がこの料理を頼まれたのが、面白くて」

 「別に食べたくて頼んだわけじゃない」

 「ついにデビューですね!」

 「悪いが、小さい時に数えきれないほど食べたな」

 「そうなんですか!?いいですねー」

 「そんなにいいものなのか?」


 こんな会話をしている間にもメニューはテーブルの上に置かれた。

 その速さに驚きを隠せない。


 「大変お待たせいたしました。お子様メニューになります」

 「ああ、ありがとう」

 「それと・・・」


 店員はトレイに置かれていたある物二つを剣二達に差し出した。


 「これは・・・?」

 「お詫びの印です。パイナペルでできたゼリーになります」

 「別によかったのに・・・」

 「そんなわけにはいきません。お客様は神様なんですから」

 「神様ね・・・」


 お客様が神様ならなんであんな理不尽を受けたのだろうか。

 異世界召喚も招かれた客人だろう。

 国の価値観によって違うのか?

 少なくても剣二の中ではあんな国よりは全然マシだった。


 「親切にどうも、遠慮なく頂くよ」

 「はい、ごゆっくりどうぞ」


 店員は剣二達の元から離れていく。


 「良い店ですね」

 「そうだな・・・」


 そこで会話は切れ、二人は目の前に置かれたランチメニューを頂くことにした。


 「・・・意外とうまいな」

 「味が濃くておいしいです」


 久しぶりに美味しいものを食べた気がした。

 これも全て、人の本来の暖かさが影響したのだろうか。

 あまりの美味しさにスプーンが動く。

 そして、完食まであっという間だった。


 「さて、最後のゼリーを食べるとするか」

 「そうですね!今日はラッキーです!」

 「不幸中の幸いだったけどな」

 「どういう意味ですか?」

 「そのままの意味だ」


 ありがたく、ゼリーを頂く。

 スプーンで一掬いすると、ゼリーは輝きを見せながらプルンと震えた。

 それを口に運ぶと、それはもうとろけてしまうぐらい甘かった。


 「甘いな」

 「とっても甘いです!」


 幸せそうに食べるヒトリア。

 その姿を見ているだけでも満足だった。

 そして、ゼリーはあっという間になくなった。


 「おいしかったですね」

 「そうだな」

 「結構遅くなってしまいましたが、防具屋行けるでしょうか?」

 「分からないな。明日防具屋に行くか」

 「そうですね。今日はゆっくり休みましょう」


 今後の方針が決まり、席を立つ。

 すると、接客してくれた担当の店員が何やら持ってきてくれた。

 それは一枚の紙きれ。


 「これって・・・」

 「はい、クーポンになります。ご迷惑をおかけしましたが、またいらしてくださいね」


 その言葉を受け、剣二とヒトリアは顔を見合わせた。

 そして、考えていたことは一緒だった。


 「また来るよ」

 「また来ますね!」


 その言葉を聞けてホッとしたのか、店員は最高の笑顔で。


 「ありがとうございました。またお越しくださいませ」


 その言葉を背中で受け止め、二人は店を出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強クラス『六宝剣』に選ばれなかった異端者 陽巻 @namihikari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ