03 プリンセス、コンビニで運命の相手と出会う

 外に出た。


 夕陽。綺麗。


「うわっ」


 走る箱。とても速い。あれに当たったら、馬に蹴られるよりもいたいかもしれない。注意しよう。


「あら」


 箱が走るところと、人が歩くところが、分けられている。


「すごい。すごいわ」


 箱と人が交錯するところには、光る何かが配置されている。おそらくあれは、灯台。


「人と箱が、あの灯台を見て渡るのね」


 とても分かりやすい。これは、素晴らしい。灯台には、歩く戯画と、止まる戯画が書いてある。


 歩く戯画。点滅している。


「あら。あらら」


 はやく渡らないと、いけないのかしら。


 渡ろうとして。後ろに引っ張られる。


「あぶないですよ。もう赤です」


 男性。整った顔。


「あ、ありがとうございます」


 スカートを上げようとして、虚空を掴んだ。


「あら。そうだった」


 男性。何か掌に乗った箱を使い、動かしている。


「その、よろしければ、それを、見せていただいてもよろしいかしら?」


「あ、これですか。どうぞ」


 箱。中で何かが、うごめいている。


「すごい。これは、どういう仕組みなのかしら」


 出っ張ったところを押したら、消えた。


「あら」


 壊したかしら。


「そこはサイドボタンです。もしかして、触るのは初めてですか?」


「ええ。ここにきたのも初めてで」


「奇遇ですね。私も最近ここへ来たのです。よければ、あなたとご一緒しましょう」


「ありがたいわ。お供させていただきます」


 やはり、スカートはない。そろそろ、慣れなければ。


「どこへ、参りましょうか?」


「ええと」


 どこへ行くか。全く決めていなかった。


「あなたは、どちらへ?」


 貴殿、と使いそうになって、やめた。たしかこのお相手は、あなた、と言った。ならば、あなた、で返さなければ。


「私ですか。そこのコンビニまで」


「コンビニ」


「コンビニも、初めてですか?」


「いや、あの」


「青信号です。渡りましょう」


「はい」


 言葉を濁した。


「あ、ちょっと待って」


 また優しく、後ろに引き戻される。


「右と左を、確認してからにしてください。信号が全てではありませんから」


「信号」


 あの灯台は、信号というのか。

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