第4話 時は黒船来航以前に遡(さか)のぼる

 時は黒船来航以前に遡(さか)のぼる。

幕府派と倒幕派との戦乱に乗じて、日本を手中に収めようと暗躍する国際秘密結社の上部組織に君臨するローランド家。

その国際秘密結社の意向を受け、この歴史の裏で暗躍する武器商人、英ローランド家と仏ローランド家が、幕府派、倒幕派それぞれの派閥の援助者になり、武器を売り裁き、膨大な利益を生み、さらに、どちらが勝っても、その後の日本に強力な支配権を持ち、ローランド家の利益のみを追求する傀儡政府を樹立しようと画策する。


ここ、中国の上海では、ローランド家の血筋に当たる、英ローランド家の当主ジェームス・ローランドと仏ローランド家の当主、サミュエル・ローランドが、広大な敷地にあるローランド商会の貴賓室で密談を重ねている。


「この中国も、我々の植民地となり、貿易と称して、アヘンを大量に売りつけ膨大な利益を挙げることに成功しましたな」

「まさに、その通り。アジアに住む猿どもには、アヘンをまき散らし、略奪、虐殺の限りをつくせばいいのです。

 さらに、中国の東には、ジパングという黄金の国が有ります。この国を次の狩場とすべきでしょう」

「しかし、この国は、強固に鎖国を貫き、われわれと会おうともせん」

「そうなら、アメリカの本家を動かし、その国の支配者に脅しをかければいかがでしょう」

「いやいや、そう簡単には行かん。ジパングとやらの支配者は二人おるのだ。一人は、天皇、もう一人は征夷大将軍というらしい。そいつらが、責任をなすり合って、結果、我々との話をはぐらかすのだ」

「なるほど、権力の二重構造ですか。ならば、面白い手を考えた。そのジパングという国、識字率が高く文化レベルも高いらしい。我々お得意の情報操作でかく乱し、我々の傀儡者を作り、そいつに、敵対権力を潰させ、我々は手を汚さずに、この国を手に入れるのはどうでしょう?」

「そうだな、ならば、ジパングに騒動を起こして権力者を仲たがいさせる必要があるな」

「そうだ、まずは、強行に開国を迫り、出方を伺うのがよろしいでしょう」

「しかし、中国であったようなそれなりの抵抗を受けることになるぞ」

「そこは、我々側に従えば、自分たちの利益に繋がるという幻想を、傀儡者に見せればいいのでは」

「なるほど、直ちに上海に滞在する日本人を探し出し、革命思想を植え付ければ面白いことになる。かのフランス革命のようにな。ふふふっ。

それに、我々の息が掛かる商会に、ジパングに協力者を作るよう要請しておこう」

「それでは、本家に連絡を取り、部下に指示を出しておきます」


 二人の紳士は、その野望を胸に、お互い握手をして別れるのだった。


 *******


そして、一八五三年、日本にアメリカから黒船が来航し、日本に開国を迫ってくる。開国とは何か。自由に貿易をさせろということである。

この自由貿易は、アメリカから見て自由にするということであって、日本から見て、決して最新の技術を輸入できるということではない。それでは、なにを日本に売りたかったのか?

 この時代、貿易と称して、国際秘密結社が、中国、インド、ビルマ、シンガポールにしてきたこと、それは、アヘンの撒き散らしであり、略奪であり、虐殺である。国土を荒廃させて、高い値段で食糧を輸入させ、各国家から、財を吸い上げる。

 まさに、日本にも植民地になれということを、突きつけて来ているのである。


 確かに、黒船の艦砲射撃による威嚇は脅威ではあった。しかし、時の幕府の選択は「攘夷」。脅迫により、植民地支配を要求してくるような礼儀知らずな輩に、弱腰で対応するなどありえない。

 

幕府はすぐさま、首席老中の阿部正弘が中心となって、広く一般に情報公開を行い、意見を募り、各藩主の代表による相談役を作り、挙国一致体制を築き上げた。しかし、阿部正弘の失脚により、その後、外国の圧力により日米和親条約をはじめとする不平等条約が相次いで締結されることになる。


 ********


 ここは、奥出雲の人里離れた神魂一族の里である。

この一族は「天孫降臨した神々にその神代の技術の教えを受け、その技術を代々受け継いでいるが、門外不出とし、その技術が表に出ることは決してなかった」と噂されている。

その里の中心にある立派な門構えの長の家がある。


「大和(やまと)、それから、巫矢(みや)お前たちをここに呼んだのは、ある任務についてもらうためだ。

これから、日本は激動の時代になる。黒船が来航し、一時は、打ち払うなどしたが、所詮、アメリカの軍事力に恐れを抱いて、開国することになった」

「おじいさま。外国が日本に攻めてくるのですか? 」


 歳の頃は一五歳ぐらい、簡素な作務衣に身を包みながら、背中まで伸びたつややかな青みがかった黒髪は、一つにまとめており、くっきりとした二重の瞼にやはり青みがかった大きな黒い瞳を持つ巫矢と呼ばれた美少女は、ここに自分を呼んだ神魂一族の長の神魂聖衛門(かもすせいえもん)に尋ねた。

「いや、戦争になれば、我らとて、この神の国を守るため立たねばならん。しかし、そうではない。奴らの狙いは、日本の権力中枢部に深く根を張り、何十年、何百年と気づかれずに日本の富を吸い取ることにある」

「おい、じじぃ。こんなくそ田舎にいて、何でそんなことがわかるんだ? こっちは、年寄の妄想に付き合っている暇はねえんだ」


 同じく、歳の頃は一五歳ぐらい。簡素な作務衣を着崩し、日本人らしく黒目黒髪にシャープな顔立ち、はだけた前合わせからは、鍛えられた筋肉が見て取れる、大和という名の少年が聖衛門の話に毒づくのだった。



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