第5話 ふふっ、こんな田舎に住んでいても

「ふふっ、こんな田舎に住んでいても、天孫降臨で、神がこの地にやってきた時、神々の供をした一族。空船を駆り、世界を統一した神に従い、各地を転戦した結果、世界各国に伝手ができた。

 その子孫たちとは、いまだに連絡を取り合っておるでな。

 最近、その子孫たちが、わしに神の国である日本が危ないとしきりに訴えてくるのじゃ」

「なるほど、そこで俺の出番か。誰をぶっ殺して来れば、日本が救われるんだ?」

「そう逸(はや)るな。わし等は本来歴史の表には出るわけにはいかん。神に禁止されておるでな。秘密裏にことを運ぶのは、短絡的なお前では、ちと心配でな。そういう訳で、大和の手綱を巫矢に頼もうと思うて、二人を呼んだのじゃ」

「なんだよ、それ? まあいいや、それで俺たちはどうすればいい?」

「伊賀の里に、服部一族とは違って、わしら神魂一族と同じく歴史の表舞台には出てこない一族がいる。これを影の一族というのだが、最近この一族に稀代の千里眼を持つ者が現れたらしい。この一族と接触し、その者に協力を仰げ」

「影の一族? どうすれば会える?」

「わしも、どこにその里があるのかは知らん。しかし、この一族は日本の諜報を一手に受けておる。外国の金の亡者どもの所業も知っておるであろう。

 わしは、お前なら里を見つけ出し、協力を仰げるのではないかと考えておる」

「なら、さっそく伊賀に向けて出発するぞ。巫矢! 」

「まあ、待て、お前たちに与えるものがある。我が一族の先祖が、神宝の鋼(はがね)、闇鋼(やみはがね)を打ち、仕上げた闇切丸(やみきりまる)を持って行くことを許可する。

銘の通り、この日本にかかる暗雲、みごと切り裂いてみよ。  巫矢、お前にはこの小型連発銃 神魂(かもす)0式を与える」


 大和に与えられた闇切丸は、神代の時代に、神が刀剣を打つために錬成したと言われる闇鋼を、初代神魂聖衛門が打った漆黒の刀身を持ち、鋼さえ切り裂き、脂を弾き、刃こぼれ一つしない名大の業物である。

また、巫矢が与えられた、小型連発銃 神魂0式は、金属薬莢を用いた流線型の弾丸を使用し、口径九ミリ、自動小銃で八プラス一の装弾数で、その姿形は、後年、ドイツ陸軍が採用したワルサーP38に似ておりダブルアクション機能の大型のオートマッチク式の拳銃であった。

 のちに、玲愛の居た歴史では暗殺される坂本竜馬が、持っていたペストルがリボルバー式で口径が六ミリ弱、まるで、BB弾のような弾しか打てないこの時代にいかなる技術を持って作成されたのかナゾであるが、その小銃二丁を巫矢に与えた。

「すぐに、旅の支度を整え、まずは、伊賀を訪ねよ」

「「はっ」」

声がしたかと思うと、もうすでに、二人は、聖衛門の前から消えている。この二人の身体能力は、人間の持つ限界を大きく凌駕しているのだった。


その夜、暗くなってから、一族の里を出発した大和と巫矢。その歩みは、暗闇の中、関所をはずれ、獣道を行きながらも、常人の速度を遥かに凌駕し、出雲から三日目の朝には京都に辿り着いていた。


 門前町で開かれている市を覗きながら、大和と巫矢は、市の盛況ぶりに驚いている。

「巫矢、がいな(すげえ)もんだな? まったく、受給自足の俺たちにはこげーなもん、見たこともないものばかりだ」

「大和、勝手に手に取らないの。すみません。これ、二つください」

 巫矢は、大和が手に取ったみたらし団子を売っている茶屋の娘に、お金を払う。

「だんだん(ありがとう)」

「巫矢、お前も食ってるじゃねえか」

「仕方ないでしょ。でも、これおいしい」


 そんな会話をしながら、門前町を抜け、更に人影のない道を進む。

「巫矢、俺たち付けられているぞ」

「ええ、わかってる。でも、殺気は無いみたい」

「どうする。捲くか? それとも、ぶっ殺すか?」

「待って、私たちにどんな用か聞いてみたら? それからでも、どうとでもなるでしょ」

「それもそうか。じゃあ、聞いてみるよ」


 その場で、立ち止まる大和と巫矢。そして、林の中の、何も無い一点を睨みつける。

すると、両手を上げ、商人の丁稚風の男が木の影から現れた。

「もう、感づかれちまった。お前らどこでその技、身に着けたんだ? 」

「奥出雲じゃ」

「あっ、バカ、言っちゃだめでしょ。大和」

「その男は大和というのか。その女、名前を出すのはこういう場面ではよくないな。出雲というのは、お前らの話す言葉で大体検討がついていた。今度からは、今いる場所の地方の言葉で話すべきだな」

「巫矢、素性がばれたのは、全部お前のせいじゃないか」

「めんたし(ごめんね)……」

「ほら、ほら、また、方言が出ている。でも、かわいいから許す」

 この怪しげな男は、二人の放つ殺気も軽く受け流しているようだ。


「こら、誰が許すって! お前の所業を捌くのは俺だ」

「まあ待て、お前ら神魂一族だろう」

「なに、なんでわかった? 」

 大和は警戒を強め、闇切丸の柄に手を掛ける。


「お前らの出雲地方の方言、なにより、その刀の鞘に刻まれた㋹家紋、その家紋は神魂一族の証だろう。俺はほれ、この一族のものだ」

 丁稚風の男が指し示すその先、絣かすりの着物の袖口に、黒い布が当てられている。

「なんだ、おっさん。いい年して、つぎはぎの着物を着てるのか? 」

「なんだと、まあ、知らないのも仕方ないか。俺は、伊賀の国の影の一族、名前は借りの名だが平次という。これは、着物の裏地、一部を見せることで一族であることを仲間に知らせている。いつでも黒装束に変われる証だ」

「影の一族だって。俺たちが向かっている里の住人か?」

「ああ、そうだ。俺たち間者は、影の一族のお互いの顔を知らない。この裏地と合言葉でお互いが仲間だと初めてわかるのだ」

「その影の一族とこんなに早く会えるとはな。確かにこちらには、お前たちに用があるが……。 お前らは、俺たちになんの用があるんだ?」

 闇切丸に手を掛ける大和、例え、相手が影の一族だろうと、大和たちの目的は、千里眼を持つ者に逢うことである。

 もし、大和たちの行く手を阻むというのであれば、切ることに躊躇しない。


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