第29話 口の悪さは世界一だし?



「お前達は馬鹿だ。」



クロウが呟く。



「大馬鹿者だよ。」



未だ外では、雨風が吹き荒れていた。



「これ以上、恥を晒すでない。」



フロアには雷の轟だけが響いている。



ジェードと取り巻き男子達は、言葉を、ただ、失っていた・・・。





最初に気を取り直したのはクロウだった。



「全く、今日は帝国の皇帝も来賓されるというのに…、これを、どう片付けたものか・・・」



最初に訪れた時とは随分と様変わりしたフロアを眺めて、そう言う。


私的には、今の方が堅苦しくなくって好きなんだけど、クロウ達にとっては違うらしい。

まぁ、色々魔法繰り出したしね…?



「え、つーか聞いてい?」

「何ですか美優、」



私はマリンにひそひそと耳打ち。

重々しい雰囲気に、思わず小声で話してしまう。



「てーこくって、偉い人?」

「そ、そうですっ…! めちゃめちゃ偉い方ですよっ…! その国はこの世界で一番と言っても過言じゃないかもですっ…!」

「まじか。 それちょーやべーじゃん」

「ちょーやべーですっ…! だからこんな日にこんな事されるジェード殿下は、まじで馬鹿なんですっ…!」

「いや、マリンめっちゃ言葉遣い移ってるよっ…!」

「ま、まじですかっ…!?」



んー、いいと思うけどなぁ。

あ、マリンの言葉遣いじゃなくって、このフロアね?


ムードたっぷり?っつーの??

やっちゃったもんは仕方ねーっしょ。



「え、別に良くねー? もー今更隠す必要なくねー?? てか、直すのとか無理じゃん? むしろ良いー、みたいなー?」



『んなワケだから諦めろってー』と、クロウの肩を、ポーンって叩いた。


「お前なぁ…」と、呆れたように笑って、私に青い瞳を向けるクロウ。



そんな普通なら、私らにロマンスが始まんじゃねーのってタイミングで、口を挟んできたのは…、




「いやいや、今夜は随分と楽しい舞踏会だね。 わりと最初から見てたけど?」




なんて笑ってるけど、オーラがやべぇのはご存知、帝王様。



いや、知らねぇけど。


みんなが、「まさか…!」とか、「ウソ…!」とか、「あ、あぁ…!」とか言ってるから、なんか帝王じゃね?って感じ。


ま、大体そうっしょ。

こーゆー時大体みんな帝王だし。



「帝王様…! 来ていらっしゃったのですか・・・。」



なー?



雪のように白い肌と、白銀の長い髪はクラウスとは比べ物にならないぐらい輝いて、その蛇のような瞳はイエローゴールドにギラついている。

うわ、まつ毛も輝いてんじゃん。

神かよ。




「お見苦しいところを・・・、申し訳御座いません」



第一王子に謝らせて、めっちゃバツの悪い顔をする、ジェードと取り巻き男子。

そんな顔すんなら最初っからすんじゃねーし。



「いや、楽しませてもらってるよ。  それに、今回は珍しい異世界人を連れてきたみたいだね。」



そう言って見つめるのはミカちゃん…、じゃなくて私。



「え? あたし?」

「あ、あぁ…。 そのようです…。」



「ははは…」とクロウは苦笑い。


何だし!

珍獣で悪かったな!

『おい…!』とクロウを睨みつけてるとコチラに近付く、てーおー。


え、

な、ななな、

え、近くね、

え、え、近くね…!?


イケメンが、近い!

イケメン近い!近い!



ぐぅーっと、帝王は顔を私に近付けて、思わずぐぅーっと、仰け反った。

そしたら、スンスン…、って匂いを嗅いだ。



・・・・・・



「はぁッ…!!?」



「おいっ…!」なんてクロウは焦るし、周りの皆も顔面蒼白だし…!

いやいや、でも、ねーし…!

それは、ねーし…!



「いや…! なるでしょ…!? コイツあたしの匂い嗅いだんだけど…!!? はぁ!?ってなるでしょ…!!?」


「み、美優…!」



マリンなんてブクブク泡吹いて倒れやがって、水属性めっ…!

土属性は化石にでもなんの…!?


うわ。

ペリドットつよ。

普通に酒呑んでるし。



「つーか!つーか!まじで何で匂い嗅いだ!?」



「あっはっはっは・・・!」と腹を抱えて大笑いする帝王。

笑い事じゃないんですけどー!?



「あははっ、いや、君から、とても良い・・・、自由の香りがしてね。」

「・・・・・はぁ? まじで何言ってんの、超意味分かんないんですけど、恐いんですけど。」



『み"ゆ"う"〜〜・・・!!』と言う顔が何十個。


皆揃って、黙りながら鬼おこ。

こわ。

うわ。

クロウこわ。


クロウ怒らせたらまじ怖いっつーの、目の前で見ちゃったかんなー。

いやでも匂い嗅ぐとか、まじ無いし。



「この大空を羽ばたいている時のような、そんな香りだよ。」

「え? だから、は? つーか匂い嗅ぐ理由になってねぇし! しかも、そんな香りとか言われても分かんないし! てゆーーか近いし・・・!!」



未だに近い帝王に、手で壁を作りながら二歩三歩下がれば、ぶつかったルビー。


ルビーは物凄く小声で、「美優ったら…! 貴女ってばもう、帝王様に向かってなんて口の聞き方…!んもうっ…!」と、電気の消えたフロアでほのか見える顔は、珍しく焦っていた。


まぁ、口の悪さは否めないけど、急に匂い嗅ぐとかは勘弁っしょ。


「いや、だってさ…!」と、コチラもまた小声で喋ろうとすれば、私を支えていたルビーの手は、何者かに奪われた。



「あぁ、君だよ…」



ルビーの両手を愛おしそうに包み込むのは、帝王の両手だった。



てか急に間に割込まれて、危うく私転げるとこなんですけど…!

おい、帝王!

尽くお前というヤツは!



ん…、まぁ、

でも、


許すし。


クロウが、私を、支えてくれたから、許してやるし。


クロウってば、分かったから、そんな優しい顔で微笑んでくんなっつーの。

女子なんだから、勘違いすんだろー?



ほんの少しだけ、チークを重ねて塗るみたいに、頬を染めた。




一方、

帝王に突然手を握られたルビーは、「あ、の…、帝王さま・・・?」と、キリリとした眉を下げていたのだった。


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ギャル、異世界転移する。 ぱっつんぱつお @patsu0

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