第17話 なんかー黙ってらんないってかー



「「「「かわいいぃい~~~~・・・・!!!」」」」



小一時間程掛かって集まったお嬢様方にメイクを施し、これにて可愛い魔法は終了!

なんか絶対最初から居なかっただろ…!って子もメイクしたような気が・・・。

まぁ、それは良いとして~、


こんな簡単なメイクでも喜んでくれるんだからこの世界来て良かったな。って思っちゃう。



「絶対買いますわ!!」

「私も・・・!」「私もっ…!!」


「そう言っていただけて私はとっても満足ですっ!一刻も早く皆様の手元に届けられるよう全力を尽くしますわっ! ねっ!美優!」

「うん! でも全力尽くすのあたしとレオじゃね!?」

「まーまーまー!」

「誤魔化されたっ!」



でも、キラキラしてみんな可愛い。

本当に可愛い。


可愛いくなるって、誰かの為じゃなくてやっぱり一番は自分の為だと思う。


だってさ、その日の髪型、メイク、服、全部キマったら「よしっ!」ってその日1日笑顔でいれる。

そんな魔法が、私には出来るんだ…。




「さぁさぁさぁ!メイクもビジネスもバッチリ決まった事ですし! あとはパーティーを楽しみましょう!」



ペリドットはパチン☆とウィンクをして私に手を差し出した。



「そだねっ!楽しむぞー!」

「その意気ですわっ!」



シャロンとマリン、そしてルビーは既にテーブルに美しく並んでいる肉や魚を吟味中。



「もう美優!ペリドットも、遅かったわね!」



気付いたルビーは、同い年とは思えない微笑みを向ける。



「後片付けとあとビジネスが上手くいったので御互いに労っておりましたの」

「あ、片付け、任せてしまってたわね…、私達気付かなくて・・・」

「いーのいーの! だってペリドットなんて上手く行きすぎて笑いを堪えるのに必死そうだったもん!てゆーか堪えられてなかったし!」

「もう美優ったら…!それは言わない約束ですよっ…!」

「えー?そうだっけーー??」



くすくす笑いながら、ルビーは「お二人の分も貰っておきましたわ」としゅわしゅわした飲み物が入ったグラスを渡された。

そう言えばここへ来てまだ飲み食いしていなかったので、途端に喉が乾いてきた。



「まぁ!ありがとう御座いますわ!では、乾杯、」



とペリドットは、こくりと一口。

なんの炭酸飲料かなー?と思い、「これなにー?」と聞きながらも口元へグラスを持っていく。



「もー、見て分からないなんて、さすが美優ですわね。シャンパンですわ!」

「ぶっ・・・!へっ・・・!!?」

「こらっ…!はしたないですっ…!」

「だ、だって、え、な、これ、しゃ、シャンパンっつった・・・!?」



危ない危ない…!

危うく飲むとこだった…!



「え…? あ、もしかしてお嫌いだったかしら…?」とルビー。

そんなルビーにハッとして、シャロンは「あ、あと…!ワインは白と赤、あと、オレンジのカクテル、何ならビールでも・・・!」



「いやいやいや・・・、ちょっと待って、え? 何でアルコールばっか・・・? え?それともノンアル…?」



くんくん、とグラスを嗅いでみるも、うーんこれが…、アルコールの匂いなのか…?

ちょっとよく分からない…。

父も母もお酒を家で飲む事は殆ど無かった。


チラッとルビー達を見ると「ぽかん」と口を開けている。

淑女どこ行った。



「え?」

「へ・・・?」

「・・・・・・え・・・?」



そんな困ったような顔で見られてもどうしたら良いのか・・・。



「え…? お酒は苦手でしたか…?」

「はっ…?つーか飲んじゃダメじゃね…?」

「え、いいえ・・・お酒は15歳から…」


「えっ・・・」

「え・・・?」



「・・・・・・・・・マジかっ!!!」

「あら、その反応・・・もしかして・・・」

「お酒はハタチになってからっ…!!」

「あら・・・、」



「異世界って、不思議・・・」とシャロンが呟く。

それはこっちのセリフなんですけどーーー…!!

アルコールって成長過程の時期はダメって習ったんだけど…!?

え!?それとも魔法でアルコール分解出来んの…!?はっ…!?



「ここは美優の居た世界じゃないのですから…、別に気にせず飲めば宜しいのでは…?」



そうマリンが言うと、「うんうん」とシャロンも頷く。


え・・・

確かに・・・

そうだけど・・・



ゴクリ、生唾を飲む。


一体、シャンパンって、どんな味なんだろう…。



え・・・?

飲んじゃう・・・?

せっかくのパーティー・・・

まじでぱりぴしちゃう・・・?



じーっとグラスを見つめていると無限に湧いて出る泡にくらくらしてしまう。



「別にこの国では15歳からなのですから・・・、普通のことですわよ?」

「そう、だよね・・・」



郷に従えって・・・?

別に、普通のこと・・・、だもんね・・・?



「ん"~~~~~~~~・・・・・!!



   やっぱりダメッ・・・!!」



「飲まなくてよろしいのですか?」

「・・・うん、お酒は20歳ハタチになってから…!!それにっ、おばーちゃん悲しむっ…!」

「まぁ美優が決めることですから」



こんな遠い異世界まで来ちゃって、只でさえ心配してんのにお酒まで飲んじゃったらおばーちゃん超悲しむし…!

悲しみすぎて悲死ぬかもしんない・・・!

おばーちゃん死んだら私も生きてけないんですけどっ…!



「うん!お酒は飲まない! あたしおばーちゃんの為に模範囚になるしっ…!」

「「「も、模範…囚・・・?」」」



ははは…、と何故か苦笑いされながらも、シャロンは「では何をお飲みに?遠慮なさらず仰って下さい!」と ニコッとリスのような微笑み。

なにこの生き物。可愛すぎかよー!



「う~~ん、温かい、紅茶?」

「ふふっ、美優さんって私が思ったより面白い方ですのね! 分かりました!では今用意させます!」



いかにもメイドです!って感じの女に人に駆け寄るシャロン。

そのメイドっぽい人は少しビックリした顔をしたあと、「畏まりました。」と言う風にお辞儀をする。



「あたし、何か面白い事言った?」


「ふふふっ、だって温かい紅茶だなんて…! ね?」

「ティーパーティーじゃない…!ふふっ…!」

「全く美優らしいわ…!」


「あーーー、まー言われてみれば?」



だって飲めないんだもん!仕方ないよね~~。




─────────────────

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───────

────



あれから何れだけ時間が経ったか。

まーたぶん二時間とか位なんだろうけど?


今、とっても修羅場になってまーす…。




「どうしてそんなこと・・・! 私だって鏡を見ればそれぐらい分かってるのに・・・!!」



それは遡ることちょっと前。

えーっと、10分ぐらい前?



シャロンは元々、マリンと幼馴染で仲が良いので(学園ではクラス違うから知らなかった…!)私達とそのまま女子会。

メイクをしてあげた子も交ざったりで、とにかく女子できゃっきゃしてた。


でもシャロンはホスト?側だから皆に挨拶とかするのに輪から抜けたりしてたけど、それはフツーの事で特に皆気にしてない。


むしろ気にしてるのはちょっとウルサイ男子達。

シャロンが私達の輪から離れる度に「おいホラ行けよー!」「うるせーよ黙ってろ…!」みたいな。

絶対シャロンの事を好きな奴いるやーつね。

この女子メンバーはもう皆知っているようで「本当にうるさいのよっ…!」「意気地のない男ね…」なんてヒソヒソ言ってる。



詳しく聞くと、シャロンとその中心の男子もマリンと同じく幼馴染らしい。


ただマリンとシャロンは幼少の頃出会って、それからずっと友達。

一方その男子、ミゲルとシャロンは単に家柄同士の付き合いでの幼馴染らしく、ミゲルとマリンは全く関わりがないらしい。

そーゆーのは元の世界でもあるよね~。



そんな感じで私がちょっとトイレに行ってる間に事件は起こった!



「ドレスでトイレとか難易度高すぎ~。」



決してうんちじゃないけど、うんちぐらい時間掛かっちゃって急いで皆の所に戻ろうとホールに出た瞬間、そこはもう既に修羅場・・・。




「つーか毎回思うけど学園の宝石である侯爵令嬢のマリン様の隣に並んでてお前恥ずかしくねーのかよ…!」

「ミゲル、声が大きいわよ…」




まー二時間も経てばお酒飲んでる人は所謂、出来上がっちゃった!みたいな状態で・・・それが更に悪かったっぽい。



「何事っ…!?」とルビー達の元へ駆け寄ったら、ちょうどマリンは二人の喧嘩を止めに入ろうとしてルビーに引き留められてた。

「いつもの事でしょう?」とルビーは言うけど、マリンが出ていったら家柄的にも、二人の関係的にも面倒なことになるからだと思う…。



「な、何があったの…?」


「いつもの事よ。 お酒が入るとね、ミゲルはシャロンにちょっかいを出すの。」

「全く、素直じゃないですわっ!」

「でも、私が見る限り・・・、今までと少し違うような感じがするのだけど・・・」




「は?なに?聞こえねー。」

「ウルサイって言ったんですっ…!」

「て言うか何でそんな化粧してんだよ。誰にも見せる相手居ねーだろ?」

「っ・・・、別にっ…!貴方に関係ないでしょう…!?」

「か、関係ねーこと無いだろッ・・・? お前が変なやつ選ぶとこっちの家まで迷惑掛かるしな…!」

「何なの!?何が言いたいのよッ・・・!」



もうミゲルはハッキリ言っちゃえよっ…!って感じは見たままなんだけど、今のとこミゲルのポジション、少女漫画でよくある素直に言えなくて結局最後横から来た主人公の男に幼馴染の大好きな子を奪われるサブキャラじゃね?



「てかそんな化粧したってな・・・!マリン様の横に並べる程綺麗じゃねーんだから…!無理に着飾んのやめたら…!?どう見ても道化ピエロだろ・・・!」

「どうしてそんなこと・・・! 私だって鏡を見ればそれぐらい分かってるのに・・・!!」

「な…、何だよ・・・!!」



シャロンは我慢してた涙をぼろぼろ…。

もー、見てるこっちは「あ"ーーーー」だよ…!

流石に素直じゃなさすぎ!


ほらほら~、どっかの主人公の男~~、出るならもうすぐだぞ~。



「何でミゲルはそんなに酷いことばかり言うのよっ・・・!」

「べ、別にありのままを言ってるだけだろ・・・!」

「そんなに私の事が嫌いなら話し掛けなければ良いでしょう…!?」

「なっ…、そ、それはッ…、し、親切心で・・・!」

「そんなの親切でも何でもないッ・・・!!もうほっといてよ…!!」

「家、同士の付き合いなんだから…、ほっとくも何も・・・」

「じゃあお父様に言って関わらないようにしていただくわよッ・・・!」

「なッ・・・!!」




走り出そうとしているシャロンを「待てって…!」と腕を掴み引き留めるミゲル。

当然のように「離してっ…!」と言われ、「悪かったよ…」と言えばそれで収まるんだけども…!もー!本当に馬鹿なの…!?



「ッ、お、俺の、名前まで傷が付くだろ…!?」

「・・・!ふざけないでよッ・・・!!」




「はぁ~、もう信じらんなぁーーい」


「ちょっと今回は・・・」

「はぁ、もう・・・拗らせてるわね。」

「え、と…私、今回ばかりは止めに入っても…?」

「え、えぇ・・・余計拗れなければ良いけれど・・・」



そして、マリンが行こうとする。

でも待って…!もう私が我慢できないから…!

ビシッとマリンを制して「私が行く」と二人の元へ歩き出した。




「貴方の名前が傷付くって…!? じゃあ今まで私の心に傷を付けた事には何も咎められないの…!?」

「そ、れは・・・」

「私、貴方に会う度にどれだけ怯えたか…!また酷いことを言われるんじゃないかといつも怖かった・・・! でももう良い…!今日で最後よッ・・・!!」

「ちょッ・・・!!」



「あー、はいはいはいはい。もーやめ~~~。」



「美優さん…、申し訳ありませんわ・・・、こんなパーティーで・・・、折角、来ていただいたのに。」

「それは良いの~、皆と仲良くなれたし! でも、超イラつくの。テメーがハッキリしねーから。」



行儀悪いけどミゲルをビシッと指差した。



「は…!?何だよ…、つかお前誰だよ」

「聞いてて超イラつく。まじで。ハッキリ言えば?シャロンが好きだ!って。」


「はッ・・・!?」「え・・・?」


「シャロン、言われてる本人はね、分かんないけどね。コイツ、シャロンの事超好きだから。」

「は、い…?」

「な…!な…!な…! 誰がッ・・・!」



ミゲルは、アルコールのせいなのか何なのか顔と耳まで真っ赤っか。



「アイツの言ったこと全部訳してあげるね!」

「へ…?」



「えーと、


マリンと並んでて恥ずかしくねーのかよ! は、

侯爵令嬢のマリンと付き合ってたら、同じく侯爵家の男にシャロンを獲られてしまうじゃないか!?って嫉妬だね。


あと、化粧なんかして見せる相手居ねーだろ! は、

もーそのまんま。好きな男でも出来たのか!?って嫉妬ね。


えーと、あと、着飾るのやめたら!? は、

それ以上可愛くなって他の男の目についたら困る!って嫉妬。


ね。全体的に素直じゃなさすぎてまじクソみたいな変換だわ。」



「そう…なの…?」

と言われた当の本人、ミゲルは頭沸騰しすぎて何かテディベアみたいな座り方してる。

何してんのコイツ。テディベアになるって魔法でも掛かってんのかよ。



「おいっ、」とちょっと足でゲシゲシと小突いてみる。



「へ・・・?」

「へ…?じゃねーよこのクソ変換テディベア男! 好きな女傷付けてどーすんだよ!馬鹿じゃねーのマジで。誰にも獲られたくないぐらい好きなら誰よりも優しくしろよ!つーか素直に言えないやつに魅力なんてねーから!お前も16歳だろ!?もっとしっかりしろよ!」

「・・・・は、はい…スミマセンでした…」

「はっ、謝んのあたしじゃねーっしょ、なぁ?」


「・・・・・シャロン・・・、」

「は、はい・・・」



ミゲルはテディベアから正座に座り直し、ちゃんとシャロンを見つめた。

でも顔赤いし、頭から蒸気出てっし、全然締まんねーわ。



「い、今まで、本当にごめん・・・。傷付けて、嫌な思い、させて・・・本当に、御免なさい…。」



異世界でも土下座はあるらしい…!

指の揃え方とか綺麗すぎて逆に怖っ…!さすが異世界の貴族男子・・・。



「うん、分かりました・・・。今までの事は、許します・・・。」

「・・・・ありがとう・・・」



「・・・・・・・」

「・・・・・・・」



何だこの沈黙。


ゲシっと、もう一蹴り。

あ、淑女は真似しちゃダメなやつね?



「まだ言うことあんだろ?」

「ッ・・・・・!」



「ッ・・・はぁ~~~~~~ッ、しゃ、しゃろん・・・・!」

「は、はい・・・」



「しゃろん・・の・・事が・・・・ッ大好きだァーーーーーーーーーー!!!!」



やっと言えたか~。と、

「「「おぉおおお~~~!」」」と今まで傍観していた他の貴族達はパチパチと手を叩く。

つーか今までよく黙って見れてたな!



「・・・ミゲル、声が大きいわよ・・・」

「なッ・・・!!」

「い、いぃいい今はお答え出来ませんッ・・・!!」

「えぇえっ…!」

「だ、だって…!そんな急に言われてもっ…!」



二人とも頭から蒸気出しすぎ。

どっちも水属性の家系らしいから魔力漏れ出てんでしょ?

もう慣れたし!



「じゃ、あとは二人で時間かけて育んでもらってー…」

「ッ!」「・・・!」



「パーティーの続き、しよっ?」

「そう、ですねっ…!」



勝手にマリンを制して割り込んじゃったけど…、

振り返ればルビーは呆れた笑顔でお決まりの腕組みポーズ、マリンは手を組んでキラキラ瞳、ペリドットは・・・あー、めっちゃ酒飲んでる…。

酒豪しゅご~~~~…。



「あ…!そうだ、ミゲルとか言うやつ!」

「へっ…?」

「ひとつこれだけは言いたい。」

「何でしょう…?」



まだ正座したままのミゲルのとこに戻って、私もしゃがんで目線を合わせた。



「女の子が、可愛い服着たり、綺麗にメイクしたりすんのは!男の為って訳じゃないから! そりゃそうじゃない目的の子だって居るし、好きな人に振り向いてもらう為に可愛くなりたい!って子も居るけど! ただ、単に、女の子は!可愛いものが好きなのっ!可愛いもの着て、綺麗なもの着けて!自分が満足するために可愛くなるの!そもそもそーゆー生き物なの!」

「はいッ・・・!」

「テメーは!シャロンに、ミゲルの為に可愛くなりたいって言ってもらえるような男になれ! それだけ!」

「は、はぃいッ・・・! あざっしたァ・・・!!」



そして夜会は日付が変わるまで行われたのだった!



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