スラム街

 都へ入ると、中心部である王宮を目指した。


 都の魔人は今までの魔人より、数段レベルが上なのが分かった。


 接触は避けて、裏通りから裏通りへと進む。


 ここはアデラの経験が役に立った。


 奴隷の人たちは、ここではそれなりに重宝されていて、あまりひどい目にはあっていないらしかった。


 ただ、ここは魔人のための都。


 立派な邸宅は魔人のためのものであり、人はスラムのような所へまとめて住んでいた。


 それでも、都で奴隷になれれば人は50歳程度までは生かしてもらえる。


 食肉用になった人たちが10歳から25歳までに殺されるのと比べればいい待遇と言えるだろう。


 中には魔人に好まれる女性もいて、亜人の母となることもある。アデラの母親のように。


 

 都は円形に広がっていて、一番外周に人の住むスラム街、真ん中の帯に魔人の住む住宅街、中心部に王宮があった。


 働いているのは奴隷ばかりで、魔人や亜人は運ばれてくる人肉を食べたり、格闘術を磨いたりしている。


 ナギ達はアデラの先導で、スラム街を歩いている。


 すると、奴隷のリーダー格の男が声をかけてくる。


 「誰だ、お前たち」


 ナギ達は相手にせず、歩いていく。


 「待てよ」そう言ってアデラの前を通せんぼする。


 「どけ」アデラが低い声で告げる。


 「かわいい姉ちゃんじゃないか」


 それを聞いた瞬間、アデラの拳が男のみぞおちに入っていた。


 何をされたかも分からないまま、男は失神する。


 それを見た奴隷たちは、関わり合いになるのを避けるように、目を伏せていた。



 9,000匹の魔人と5,000人の亜人、正面からぶつかって倒せる相手ではない。城の中層ですら、力押しはできなかった。都に住む魔人は城の上層部以上のレベルにあり、数も桁が違う。


 3人は夜間移動することにして、スラム街と住宅街の境目で息を殺した。


 まだ、魔人達には気づかれていないはずだ。


 日が完全に落ちるまで2時間。


 3人はじっと物陰から住宅街のほうを窺う。


 

 すると、住宅街の方から1人の亜人が近づいてきた。


 こちらの存在に気が付いたかとナギ達が身を固くする。


 しかし、ナギ達の潜伏している小屋の前を通り過ぎて行った。


 亜人の先を見ると、まだ10代と思われる女の子が待っていた。


 亜人と人の恋愛。


 それは、魔人のルールからすればあまりよくなかった。魔人と人の混血は亜人として、魔人と同等の権利が与えられるが、亜人と人の混血は人とみなされ、奴隷か食用にしかならない。


 だから、亜人は亜人同士か、亜人と魔人で結ばれることが多い。


 そこにいる亜人は瞳の色がモスグリーンで、髪の毛も青い。


 少女は黒髪を長く垂らしており、奴隷にしては精一杯のお洒落をしている。


 亜人の少年は、少女に手荒なことをするでもなく、紳士的に振る舞っている。


 都にはこういう恋愛もまた多く存在していた。


 亜人と少女は2時間程なにか話していたが、少女の父親が頭をぺこぺこさせながら近づいてきて、そこで、別れた。


 少女の父親は美しく育った娘を、魔人に嫁がせたいのかもしれない。魔人の妻になれば奴隷身分から解放されることもある。


 そんな、大人たちの思惑より、少女は亜人に恋をしているようではあった。

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