住宅街

 2時間が経ち、日が落ちたのを境に、またナギたちは行動を開始した。


 住宅街へ入る。


 あちこちの家から夕ご飯の匂いがする。ただ、作っているのは奴隷で、出されている料理は人肉だ。


 魔人も亜人もそれを美味しそうに食べている。


 カースは、家に飛び込んで行って魔人達を皆殺しにしてやりたい衝動に駆られる。


 ただ、無謀な挑戦は悲劇しか生まないことは城の攻略でもう分かっていた。


 もう、250年も続く魔人支配。


 人々は自ら置かれた立場に疑問を抱くこともない。


 食肉用に生まれれば、食肉として殺され、奴隷として生まれれば一生魔人のために尽くす。


 ごく稀に、魔人に見初められて、妻や夫になる人もいる。


 亜人の母や父として奴隷から解放されることもある。


 それくらいが、人の望みであった。


 ただ、都にはスパイも送りこまれており、城が落ちたということは人々の口に上がっていた。


 何か大きな変化が起きているのか、それともただのさざ波なのか、判断がつきかねていた。


 奴隷達の長老は、何事も魔人様の言うとおりにとだけ、人々に伝えた。


 


 ナギ達は住宅街を、アデラの先導で静かに歩いていく。


 住宅街の中央部まで差し掛かったところで行く手を止められた。


 魔人が10匹、亜人が10人。どうやら警察のような役割をしている者らしい。


 亜人が話しかけてくる。


 「どこの奴隷区の者だ?」


 ナギ達は反応できない。


 「マントを脱げ」


 ナギがゆっくりマントを脱ぎ、カースとアデラもそれに続く。


 亜人達から声がもれた。


 「アデラ様?」


 「そうだ」


 「よくご無事で、私を覚えていますか?5年間王宮で過ごしたハヌルです」


 「ハヌルか、分かるぞ」


 「ラファール様から、王宮へ連れてくるようにと命令が出ています」


 「この2人は私の護衛だ、一緒に王宮まで連れて行ってもらおう」


 「はい、承知いたしました」


 魔人10匹とハヌルを含めた亜人10人が3人を取り囲み、王宮へと連行した。

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