第 2回  消された理由 

 アバカムは、ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々~及び、次作ドラゴンクエストⅢ~そして伝説へ~の2作品のみに登場した呪文である。


 そう、前項で扱ったヒャダイン同様、たった二作で降板させらた不遇の呪文なのだ。

 最も、ヒャダインがⅢで初登場しⅣでお役御免だったのに対し、こちらはⅡが初出なのだから、あるの意味では解雇リストラの先輩とも言える。

 

 さて、このアバカム先輩、一体どんな呪文だったかというと、その効果は

『施錠された扉を開く(暴く)』というもの。

 しかも世界中のどんな扉でも開くことができるという優れモノなのだ。

 

  つまり、これが在れば鍵要らずなのだ。そんな便利な呪文が何故、いとも簡単に抹消されることとなったのか

 

 色んな考え方ができるが、まず常識的に言って、すべての扉を鍵なくして開錠できる=それは、窃盗スキルに繋がるわけで、このようなゲームで盗人稼業を正当化するようにも捉えかねられえない呪文を放置しておくのは倫理上宜しくないからでは?という事が浮かぶのではないだろうか。

 

 たしかに、これは最もな理由に成り得そうなものだが、もしそうであれば、この後のシリーズ(Ⅳより)において、他人の家のタンスを勝手に開けて調べたり、ツボの中もを漁ったり、さらには投げ飛ばして割ったりできるなど、むしろ、後発のシリーズのほうが、それって犯罪だろ?と思わずつっこみたくなるような要素を平然と盛り込んでいるくらいなので、そのことを考えるならば、上述したような倫理的問題がアバカム追放の因であるとは到底考えられない。


では、他には何が考えられるかといえば、Ⅱ以降では鍵が消耗品ではないわけなのだから、仮にすべての鍵を所持していればこんな呪文は不要だろうという恐ろしくストレートな見方だってできる。

 これなら、一見するとどうもしっくりくるような気もしないではない。


 しかし、これに満足して終わっているようでは、今回わざわざ取り上げた意味はない。

 

 それでは、今度は逆にこの呪文の存在理由について考えてみよう。

 上述したように、基本的には鍵さえあれば、要らないはずのこの呪文。

 ということは、裏を返せば『鍵がない』状態ならば、この呪文に頼らざるを得ないということではないか。

 

 1作目では、消耗品であり、リムルダールの町に鍵屋があるという情報は序盤から入るので、例えそれが町の入り口から外周をぐるりと回れねば辿りつけない辺鄙な場所にあったとて、まず迷う事はないはずである。

  

 では、アバカムの登場したⅡではどうかというと、まず銀の鍵については、これも序盤から情報を得る機会はある上、ご丁寧にサマルトリアの王子を仲間にしてから探索すべしとの助言までくれる老人もいる。そんなサマルトリアの遥か西方の洞窟の宝箱に眠っている。

 従って、前作の消耗品、魔法の鍵と同等かそれ以上に、入手難易度は低い。

 最も、実はこの銀の鍵で開錠できる扉というのは、その存在自体がかなり少ない上、クリアするという目的だけでいえば、必須ではないという代物なのだ。

 

 その意味で、銀の鍵の存在ははどちらかといえば『本作から導入された扉の種類ごとに壊れない鍵を使い分けるシステム』の導入編チュートリアル的な位置づけであり、またそれを探索するために訪れるダンジョン自体も、先述した老人からの助言からも察せられるように、ドラクエ初のパーティープレイの醍醐味を味合わせるために用意されたイベントにすら感じられる。

 実際、この洞窟を主人公であるローレシアの王子だけで攻略しようとすれば、それなりの難易度となるのは必須。何故なら彼は呪文を一切行使できない、シリーズ主人公では異例の脳筋キャラなのだから 

 よほどレベルをあげて鍛えていれば話は別だが、攻撃についてはともかく、回復手段は薬草しか持たない彼が、両手いっぱ薬草を持ったとしても、本作の道具所持欄は1人につき8枠。これに装備品も含むため、この貴重な枠を、武器防具で最低2枠、盾や兜まで完備すれば4枠、つまり半分は装備枠と化すのである。

 詳細を語るならば、Ⅱにおいて、盾と兜の種類は極僅かであり、この洞口探索時点では兜は入手できない。

 盾も唯一この時点で入手可能な皮の盾をリリザの町で購入装備したとしても、3枠は埋まるわけだ。

 では、残り5枠を薬草で埋め尽くせばいいかといばそうでもない。

 

 この洞窟および周辺には、バブルスライム、キングコブラといった毒をもつモンスターが生息しているからだ。

 説明不要だろうが、『毒』は、今作から登場したステータス異常の1つであり、

 掛かっていると歩いているだけでダメージを受けるというもの。

 後のシリーズ(といってもオンラインのⅩまで待たねばならないのだが)では、自然回復するようにもなったが、本作の毒は歩数や時間では治らない。

 治すには、教会で寄付をして解毒してもらうか、毒消し草を使用する、もしくは一度死亡するという荒業(復活させた後解毒されている)もあるが、このうち最もポピュラーで実用的なのは毒消し草の携帯だろう。

 教会での解毒は5Gと安価だが、教会まで足を運ばなくてはならない。これが非常に面倒くさいので、たかが数Gのために町に帰還する手間を考えれば実質毒消し草一択である。実際、ドラクエ歴30余年になる筆者さえ教会で解毒のお世話になったことは数えるほどである。おそらく殆どのプレイヤーがまず利用しないサービスではないだろうか? それでも、この『どくのちりょう』だが、いまだにシリーズ現役だったりする。逆によくお払い箱にならないものである。それとも、それは筆者の偏見であり、意外と利用者は多いということなのだろうか


 また、余談だが、死亡して復活させてステータス異常を同時に解除させるというのも、たしかに荒療治であるが、これに関してはライバルであったスクエアのファイナルファンタジーでは、同じ2作目(つまりFFⅡ)の時点ではこの仕様が無い。

 あちらは、死亡状態を(レイズの魔法などで)治癒しても、ステータス異常は解除されないのだ。無論、後のシリーズでは改善されてはいるのだが、この時点では、確実本作のこの仕様は優れていた(ユーザーフレンドリーという意味で)と言えそうだ。

 

 ただし、意地悪な筆者なので、敢えて邪推するならば、単にプログラムの設定上、蘇生後にステータス異常がリセットされてしまっているというだけのことだったのか

もしれない。つまり偶然の産物


 また、FFⅡに至っては、この状態異常の残存には、逆にメリットもあるのだ。

 FFⅡというゲームの成長システムは特殊で、魔法に関していうと、熟練度が設定されており、使えば使うほど熟練度があがりそれが100貯まる度に魔法レベルが上がるのである。

 しかも、魔法個別に熟練度が設定されているため、例えば状態異常回復魔法であるエスナを鍛えるには状態異常者がいたほうが楽なのである。

 戦闘中だと、例え状態異常者がいない場合、無駄に詠唱したとしてもとりあえず熟練ポイントは入る。しかし、それは1詠唱ごとに1ポイント、もしくは弱いモンスター相手だとそれ以下だったりする。

 それが、フィールド画面であれば、確実に詠唱1につき2ポイント加算されるのだ。ただし、戦闘中と違い、無駄に行使できない。必ず状態異常者のターゲットが必要となる。

 そこで、敢えて戦闘中に(戦闘終了後も継続する)状態異常を引き起こした仲間を攻撃するなりして、わざと死亡させた後、戦闘を終わらせ、フィールドにてまず蘇生(レイズ)、そのあとエスナで治療してやることで、両白魔法を同時に2ポイントずつ

鍛えることができるのだ。

 ちなみに筆者は、この方法を応用して、古代の剣という、攻撃と同時に呪いの状態にさせる武器で同志撃ちをして効率を上げていたりしたものである。

 

 また話が逸れてしまったが、ともかく ローレシアの王子単独で、銀の鍵を探しに行くならば、薬草だけでなく毒消し草も必須となるということだ。

 ただでさえ、希少な道具枠、そんな状態ではエンカウントの発生率、毒に掛かった回数(毒消し草の数を上回った)によってはかなり厳しい旅となるのは想像できるはずだ。

 そこでサマルトリアの王子が、加入していれば、彼は最初から回復呪文初歩であるホイミを習得している上、レベル6に達すればキアリーという解毒呪文をもし覚える。完璧である。このダンジョン攻略ほど、このサマルトリアの王子の存在が輝く場所はないといっても過言ではない。・・・のだが、このサマルトリアの王子の不遇についてはまたいずれ改めて章立てして語っていきたいので乞うご期待


 さてさて、なにやらアバカムの話のつもりが、銀の鍵の探索話になってしまったので、次回は、金の鍵の探索について そこから語り、アバカムの存在意義と消された理由について 続けて考察していこう。



 


 


 

 

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