第5話 お姉ちゃん


「ほら、早く手伝って。

妹が起きたら面倒も見てね。

。」



 骸骨は、そう言って少女から離れようとした。


 ここでも出てきたという言葉。


 確かに、長男長女は頼られることが多く、昔は幼い頃から重圧に耐えた人もいたと思う。


 当時はそれがだったのだから。



「やっぱりお母さんは…。」



 少女が先程言っていた、「」という言葉。


 何となく、意味はわかった気がする。


 過度な期待は子供を苦しめるものだ。



 また、霧が出てきた。



「お母さんなんて大っ嫌い!!」



 視界の曇ってきた河原に、少女の叫び声が響き渡る。


 その直後、タタタッと駆けてくる音が聞こえた。



 少し離れたところで聞こえるため息には、呆れがこもっていた気がする。



「君、泣いているのかい?」


「…っ、おじさん…!?」



 こちら側に駆けてきた少女を、ちょいちょいと自分の隣に招いた。


 その頬は涙に濡れていて、顔は赤く染っている。



「おじさん、追いかけてきたの?

それ、すとーかーって言うんだよ。」


「そうなのかい?

すとおかあ…初めて聞いたよ。」



 泣いているところを見られたくないのか、袖でゴシゴシと目を擦りながら、誤魔化すように言った。


 その行動が、という呪縛に対する苦しみを表している。



「君は、お姉ちゃんってどう思う?」


「君じゃないよ。わたし、ミツキ。

話…聞いてたんだ。

ぬすみぎきっていうんだよ、それ。」



 ミツキ…つい先程聞いた名が少女の口から出てきたことに少し戸惑った。


 と共に、抱えていた既視感の正体もわかり、年齢的に信じ難いが、なんとなく納得してしまった。



「君…ミツキは、随分と賢いんだね。

お勉強しているのかい?偉いなあ。」


「お姉ちゃん…だから。

妹が大きくなったら、教えてあげるの。」


「ミツキは優しいんだね。

そっか…お姉ちゃんが先生なんだな。」



 ミツキはきっと、優しい子なんだろう。


 妹の事を思ってやれるいい子だ。


 ただ、親が過度な期待をして、ミツキは出来ないこともやろうとする。


 それで失敗して、自己嫌悪に陥ってしまう。


 全て、ミツキの優しさなんだ。



「実はね、昔、おじさんにもお姉ちゃんがいたんだ。

すごく優しくて、色んなことを教えてくれたお姉ちゃんが。

だから、おじさんはお姉ちゃんのことを先生って呼んでたんだよ。」



 よく分からないと言った顔で見つめてくるミツキ。


 そんな態度も、話をちゃんと聞いて、理解する意欲があるのだという証明になる。


 手前は話し続けた。

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