02.

 あの人が何をしているのか、家族がいるのかすら、私は知らない。


 ただ、ここで夕日を見ていたとき、たまたま隣にいた。それだけの関係。


 それでも、不思議な魅力を感じていた。この夕日と同じ。綺麗で、付け入る隙がひとつもない。完成されている。


 自分が未完成だから、完成された何かに、憧れるのだろうか。


 ライターを渡してから、あの人がここに現れることはなかった。


 ここに来ないなら、探す。そして、あの人の煙草を点けさせてくれるような、人間になりたい。


 完成されなくてもいい。あの人の隣に。


 次にあの人の手がかりを見つけたのは、資料作成のアルバイトだった。


 いくら頁を手繰っても、手首が頑丈なので疲れることがない。役所の資料は、ほとんど私の手によって綴じられていた。給金も良い。


 当然、警察関連の資料も綴じる。信頼されているらしく、事件の資料も綴じていた。


 そして、ひとつの事件で、それを、見つけた。


「私の」


 ライター。


 血で真っ赤に染まっていた。


 どこかの抗争。


 頭を撃ち抜かれた死体。


 そして、ライター。


「どれが」


 どれが、あの人なのか、分からなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る