第57話 お久しぶり

「よう!頑張ってるか!」


魔法の練習をしていると、突然ライラさん達が訓練室に入って来た。

メンバーはライラさんにレン、それにクランさんとリーチェさんの4人だ。


「お疲れ様です」


今女神の天秤のメンツは、他のギルド――ヴォーグさんのいるギルド等――と共に王都周辺の魔物の討伐を行っていた。

封印が解けて魔人が復活した事でダンジョンが崩落し、出入り口となる亀裂が王都周辺に複数できてしまったためだ。


放っておけば大きな被害が出るため、彼女達はそこから這い出て来る大量の魔物の対処をしてくれている。


「元気補給」


そう言って、リーチェさんは俺の胸元に寄生しているシーの頭を撫ぜる。

彼女は大人っぽい落ち着いた見た目の割に、小さくてかわいい物に猛烈に弱い。


「はいこれ」


「うまうま」


彼女の差し出すナッツの様なお菓子を、シーが口いっぱいに頬張る。

その姿はまるでリスの様だ。

なんだかんだ言ってクッソ可愛いので、リーチェさんがデレデレになるのも頷けるというもの。


実情はSランクの強力な魔物なんだが……まあ俺の胸に寄生している現状、危険は全くないから良いけどな。


「で、魔法の方は順調なのかい?」


「あと少しで物に出来ると思うわ」


ライラさんの問いに、俺に代わってテアが答える。

彼女曰く、あと一押しらしいが、頑張ってる俺自身はに手ごたえはない。

しかも一週間ほど前からその台詞を口にしてるので、個人的には本当かよってなっている。


なんていうか……テアは田舎のもう少し的な感じで使ってそう。


「バーンさん!あ、いえ竜也さん!頑張ってくださいね!応援してますから!」


レンが俺の名前を言い直す。

個人的に呼び名はどっちでもいいんだが、2つあると紛らわしいって事で、仲間には本名で呼んでもらうようにしている。


「おう、任せろ」


俺の肩に世界の命運がかかっている。

まあそれ以前に、俺の命もかかってるしな。

必死でやるさ。


とは言え、コールレイン習得は本当に難しい。

魔法なんて呪文を唱えて魔力を籠めればちょちょいのちょいだと思っていたんだが、そんな事は全然なかった。


その構成を完璧に理解し、脳内できっちりと練り上げないと魔法として発動しなてくれないのだ。

習ってみて初めて、魔法使いが戦いながら魔法を唱えるのが厳しいのも良く分かった。

とてもではないが、戦いながらとか絶対無理だ。


「どうかしたのか?」


リーチェさんが不思議そうに首を捻る。

その言葉は、俺に対する疑問ではない。

シーに対する言葉だ。


俺も彼女の異変には直ぐに気付いた。


シーは素早く蕾に戻り、体をぶるぶる震わせている。

この反応は、魔人の時と同じだ。


「まさか!魔人か!?」


俺の言葉に、その場にいた全員の顔色が変わる。

今この場に攻め込まてしまえば、俺達は間違いなく全滅だ。


「安心しなさい。魔人じゃないわよ」


塔の上層にある練習場の窓が勝手に開き、内部に強い風が吹き込んだ。

俺はその突然の風に目を細める。


「あんたは……」


そこに突如、声と共に赤毛の美しい女性が姿を現した。

彼女は赤い水着?に赤いマントを羽織っているだけの格好をしている

ビキニアーマーどころか、もはや完全にビキニ姿だ。


日本でならコスプレーヤーか痴女の二択扱いだろう。


「ふふ、久しぶりね」


突然現れた女性は此方を真っすぐ見つめ、まるで俺の事を知っているかの様に話かけて来た。

だが俺には覚えがない。

これだけの美人を忘れてしまったという可能性もないだろう。


人違いでは?


そう思う反面。

彼女を見ていると、何故か心の深い部分。

そう、根源的な恐怖の様な物が揺さぶられて仕方がない。


それは本能レベルで、俺が彼女を知っている事を現していた。


「知り合いか?」


ライラさんが剣を抜いて、女性を睨みつけた。


「たぶん……どこかで会った事はあると思うんですけど。正直思い出せません」


二人の女性を見比べてふと思う。

同じ赤毛でもだいぶん違う、と。


ライラさんの物に比べ、女性のそれはまるで炎の様に鮮烈で艶やかな色だ。

まるでそれ自体が生きているかの様に……というか、生物の髪にこんな色はあり得るのだろうか?


そいう考えると、この女は恐らく人間じゃない。

俺はそう確信する。


だが、それならいったい何だというんだ?


「ふふ、まあ分からないのも無理はないわね……異界竜と言えば理解してもらえるかしら?」


「!?」


異界竜。

その言葉と、俺の中の恐怖が一本の糸の様に繋がる。


俺は咄嗟に手にしていた杖を奴めがけてぶん投げた。


「あらあら、いきなり攻撃なんて野蛮ねぇ」


だがそれは奴に容易く受け止められてしまう。

そしてその手には、オーラの様な物が纏わりついていた。

恐らく明神のスキルに近い物だ。


「くっ……」


永久コンボを防がれては手も足も出ない。

この場にいる仲間にスキルをかけて俺自身を少し強化した所で、焼け石に水だろう。

だからといって、この場から逃がしてくれるとも思えなかった。


冗談抜きで絶体絶命の状況だ。


「……何の用だ?」


「そんな怖い顔をしないでよ。今日は話し合いに来たんだから」


そういうと、異界竜はにっこりと微笑んだ。

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