第58話 一任

「単刀直入に聞きたい。信頼できると思うかね?」


ここは城にある、円卓の間と呼ばれる会議室だ。

そこに案内された俺は、席に着くと同時に議長であるグレン・ベルベットに問われた。


何を?

そう、異界竜についてだ。


彼女?からは対魔人の共闘を申し込まれている。

魔人は現在そのターゲットを人間だけに定めているが、その矛先がいつ自分に向くか分からないためだそうだ。


「少なくとも、魔人を倒したいという話に嘘はないんじゃないかと思います」


それ以外の理由で、奴が此方へとすり寄ってくる理由はないだろう。

もし俺を殺す気だったなら、塔に乗り込んできた時点で殺しているはず。

あの時点で攻撃されていたら、俺には成す術もなかっただろう。


それぐらい、俺と異界竜との間には隔絶した力の差がある。

最初の戦いであいつを殺せたのは、本当に運が良かっただけとしか言いようがない。


「俺個人の意見で言うなら、異界竜の申し入れを受けるべきかと」


異界竜からの情報が事実なら、俺達の作戦は破綻する。


肉体はあっても生物ではないなら、永久コンボは通用しない。

そして力で捻じ伏せようにも、旗色が悪くなれば手出しの出来ない場所に逃げられると来ている。

そうなると完全に詰みだ。


「魔人と戦うのは君だ。その君が言うのなら、我々はその判断を尊重しよう」


「……」


なんか……責任丸投げされた感じで、滅茶苦茶重いんですけど?


「丸投げするなと思っているだろう?」


「いえ、そんな事は」


考えをズバリ読まれてしまう。

どうやら顔に出ていた様だ。


「SSSランクに位置する魔物は、我々にとっては天災に等しい。非力な人間ではどうしようもない存在だ。もしそれを止められる者がいるとしたら、君だけだろう」


うん無理。

オーラで永久コンボを封じられてしまう以上、俺にあれを止める事は出来ない。

あっさり返り討ちに会うのが落ちだ。


いやまあ、永久コンボの倍率を何とかして伸ばせば不可能って事はないのかもしれないが……


魔法の完成していない現状だと、そのハードルは途轍もなく高いと言える。


「結局……最期は戦う力を持つ君の判断にゆだねざるを得ない。ならば我々は、君の判断を全面的に信頼するだけだ。この世界を救ってくれると信じてね」


淡々と話してはいるが、グレンさん眉間には深いしわが刻まれている。

異世界から来た人間に頼るしかない現状を、きっと苦々しく思っているのだろう。


グレンさん達が俺の判断を全面的に信用すると言ったのは、きっと俺に対するせめてもの誠意に違いなかった。


「分かりました。安心してください。異界竜が何かしでかした場合は、俺が必ず止めて見せます」


気休め程度だが宣言しておく。

俺でも止められませんとか言っても、不安が大きくなるだけだからな。

まあ魔人を倒した後はどうなるかわからないが、それまで裏切る心配はないだろう。


「感謝する」


「えーっと、一つお願いがあるんですが」


「何かね?」


「実は異界竜には、地下ダンジョンに巣くう魔物を殲滅してもらおうと思ってるんですが」


異界竜は魔人との戦いの前に、腹を膨らませておきたいらしい。

そのため、首都の地下ダンジョンに潜むすべての魔物を食べたいと俺に言ってきていた。


下手に力を蓄えられるのは宜しくない気もするが、力不足で魔人に負けてしまっては話にならない。


それに、地下から這い上がってくる魔物への対処は必要な事だった。

今はまだそれほど強い魔物が出て来てはいないが、中にはSランクの魔物も存在しているそうだ。

魔法の修練で俺が討伐に参加できない事を考えると、異界竜に処理してもらった方が安全なのは間違いないだろう。


だから俺は奴の希望を叶える方向で動こうと思っている。

まあ先ほどの話の流れから、間違いなくOKは貰えるだろう。


「わかった。許可しよう」


「有難うございます」


会議は早々に終わり。

許可を取り付けた俺は異界竜にその事を知らせに行く。

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