第51話 コンボボーナス

リーンには感謝しないとな。

状況的にかなりきつかったのだが、永久コンボの強化により勝利の目がハッキリと見えた。

彼女と出会い弟子に出来たのは、俺にとって本当に幸運だ。


「行くぞ!」


俺は残りの騎士達に突っ込み、攻撃を加える。

その際、誤って殺してしまわない様に加減しながら。


俺の動きが変わった事に警戒しているのか、アイリーンは動かない。


お陰で騎士連中に容易く攻撃を加える事が出来た。

永久コンボが発動し、その度に俺の中で5、6、7と数字が増えていく。

そして最後の一人に永久コンボを発動させた時、数字は10を刻む。


「どうした?手下は全部固めてやったぜ」


「く……」


ニヤリと笑ってアイリーンを挑発する。

焦って雑魚を追加してくれれば、こちらとしては大助かりだ。

まあ現在の10コンボでも十分だろうから、別にどっちでもいいけど。


リーンの能力で強化された永久コンボには、コンボボーナスとい物が追加されていた。

これは一定期間内に永久コンボを発動させた数に応じ、能力にボーナスが付くというものだ。


これが結構な上昇量で、さっきどう考えても回避不能に思えたアイリーンの魔法を容易く回避できたのはそのためだった。


「なんで……急に……」


「邪悪を前に、秘めたる力が解放したのさ」


わざわざ進化したスキルの概要を教えてやる気はないので、適当な事を言っておく。

というか、こいつもリーンと同じスキルマスターなら気づきそうなものだけどな。

まあこんな都合のいいタイミングでそれが起きるなんて、想像だにしないか。


クラスメイト3人を永久コンボで止めた時には、コンボは発生していない。

つまりその後、アイリーンとの戦いで苦戦している時に能力が強化された事になる。


とんでもなく都合のいい。

まさにご都合主義的タイミングだ。


冗談抜きで、俺には主人公補正でもあるのかもしれない。

もしくは、アイリーンの悪行に運のマイナス補正が働いているかだな。


どちらにせよ。

ここから俺が逆転される事はないだろう。


ああ、そうそう。

永久コンボの進化で強化された部分はもう一つある。

それは持続時間だ。

30秒が一気に30分にまで伸びていた。


面倒くさい30秒維持が消えたのは助かる。


「そんなふざけた事があるわけ……」


「ふざけていようとなかろうと、俺が強くなったのは事実だ。自分の体で確かめる事だな」


アイリーンへと突っ込む。

奴は一瞬で間合いを詰めた俺に剣を振るうが、それを片手で受け止める。


軽い。


コンボボーナスは一律10%アップ。

10コンボで100%だ。

つまり今、俺の能力は2倍になっていた。


たかが2倍と思うかもしれないが、まるで別世界だ。

あれほど強烈に感じたアイリーンの一撃を、今の俺なら苦も無く片手で受け止める事が出来る。

お陰で全く負ける気がしない。


「ふん!」


殺してしまわない様、加減して剣を振るう。

だがその一撃は空を切ってしまった。

瞬間移動だ。


左右どちらに飛んだかはわからないが、俺がそれを気にする必要はない。

何故ならシーがいるからだ。


「パァ!」


「くぅ!?」


シーの迎撃を剣で受け止めたアイリーンは、そのまま吹き飛ばされて遠くで着地する。

その表情に少し前まで見せていた余裕はまるでない。

自身の絶望的な状況に、その赤く美しい唇は紫色に変色してしまっていた。


この様子なら、隠し玉の心配はなさそうだ。


「凄い……あなた凄いわ。ねぇ、二人でこの国……いいえ、世界を支配しましょう。あなたと私ならきっと出来るはずよ」


世界を二人でとか、まるで魔王の様な発言だ。


「断る」


もちろん返事はノーだ。

この世界の支配に興味などない。

俺の目的は元の世界に帰る事だからな。


まあ仮にそうじゃなくとも、ムカつく女の世界征服の片棒を担ぐ気など更々ないが。


「後悔する事になるわよ……」


「寝言は寝てから言え」


取り合えず、永久コンボで動きを止めるとしよう。

こいつを人質にとれば、アイシャ達の開放も容易いだろう。


異世界へ帰還する方法や、クラスメート達の蘇生は後回しだ。

性格の悪いこの女が素直に協力するとは思えないからな。

あまりやりたくはないが、最悪拷問なりなんなりする必要があるだろう。


「そう……残念よ!」


アイリーンが分身し、片方がこちらに突っ込んで来た。

残った方は呪文を詠唱している。

手数を増やして戦うつもりだろうが、無意味だ。


「パァ!」


シーの攻撃が分身を消し飛ばす。

後は魔法に対処して、攻撃を加えるだけだ。


「エクスプロージョン!」


アイリーンが魔法を放つ。

だがそれは俺にではなく、天井に向かってだ。

同時に奴は地面に何かを叩きつけた。


「煙幕!?ちぃ!」


幕はがアイリーンの姿を覆っていく。

煙幕に紛れて逃げるつもりだ。


だがそうはさせない。


魔法で崩壊した天井の瓦礫を避け、俺はアイリーンに高速で突っ込んで――


「なにっ!?」


急に足元が縦に揺れ、思わず動きを止める。

地震だ。

だがそれ程大きくはない。


今はアイリーンを――


「ちっ!」


一瞬気を取られた隙に、あいつは煙幕の中に完全に溶け込んでしまった。


「ここに留まるのは危険か……」


煙幕で周囲は見通せず、しかも魔法によって破壊された瓦礫が天井から降って来ている。

この様子だと、建物自体の倒壊の危険性も高い。


そう判断した俺は、出口のあった辺りに走る。


煙幕に乗じてアイリーンの不意打ちの可能性もあったが、その時はシーが対応してくれるだろう。

それがダメでも、最悪残りの残機で耐えればいいしな。


「中にいた奴らは、全部死んじまったか」


俺が外に飛び出すとほぼ同時に、建物が崩壊してしまった。

その影響で永久コンボがすべて切れてしまう。

まあコンボボーナスは自分から解除しない限り、一定時間有効なのでとくには問題ないが。


そんな事よりも――


「くそっ……アイリーンはどこにいきやがった」


俺が飛び出してきたのは中庭の様な場所だ。

辺りを見渡すが、アイリーンの姿は見当たらなかった。

出口は何か所かあったので、別の出口から退避してしまったのだろう。


「ぱぁ!」


まるで俺の疑問に答えるかの様に、シーが城内にある高い塔の方を指さした。

瞬間移動に対応していた彼女には、気配か何かを読む能力があるのだろう。


俺はそれを信じてまっすぐに塔へと向かった。

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