第50話 進化

きつい。

きついきついきついきついきつい。


アイリーンの強さは想像をはるかに超えた物だった。

オーラのせいで永久コンボは発動させられず、しかも本人の能力も驚くほどに高い。

シーの援護ありでも、相手の攻撃に辛うじて耐え忍ぶのが限界だ。


くっそ、なんでこいつこんなに強いんだよ!


まあ理由は分かってはいる。

全てのスキルを習得しているというのは、ハッタリではなかったという事だ。

この異常なまでの強さは、クラスメート達が持っていたのパッシブスキルの効果が重なった結果だろう。


「ちっ!」


アイリーンの姿が消える。

瞬間的に大きく後ろに飛び、俺は横からの攻撃を何とか躱す。

何度か使われて分かった事だが、この高津のスキルは対象の横にしか瞬間移動できない様だ。

そのため、消えた瞬間前後に動けば対処可能であった。


他にも色々とスキルを使ってくるが、やはり一番の問題はオーラだ。

あれを突破できない限り、俺に勝機はない。


「はぁ!」


「パァ!」


アイリーンの体が二つに分かれる。

誰かが持っていた分身スキルだろう。

その片方をシーの攻撃が吹き飛ばし、本体の攻撃を俺が受け止める。


「しつこいわねぇ。そろそろ諦めたらどうなの?」


「お断りだね」


「ふん!強情な男ね!」


アイリーンはすぐさま後ろに飛び退き、間合いを開ける。


力のぶつかり合いなら相手の方が上だが、長々と鍔ぜり合いを行えばシーの攻撃を食らう事になってしまう。

だから奴は素早く身を引いたのだ。

いくらスキルで強化されているとはいえ、Sランクモンスターであるバンシーの攻撃が直撃すれば、奴もただでは済まないだろうからな。


因みに、一応試してはみたが、雄叫びによる呪いの方は完全にレジストされてしまっている。

アイリーンは特殊職のスキルを軒並み習得しているのだ。

まあ仕方のない事だろう。


「アイリーン様!お待たせしました!」


その時、大扉から鎧を着た騎士達がここへと駆け込んで来た。

見るからに腕の立ちそうな連中が10人。

恐らく何らかのスキルかアイテムで招集をかけて、アイリーンが呼びだしたのだろう。


「シー!」


俺はバンシーに命じる。

例の呪いの雄叫びを。


それでなくてもアイリーン一人にてこずっているこの状況だ。

雑魚ども相手に、無駄に消耗させられれたのでは敵わない。

さっさと御退場願う。


「ァッーーーーーーーー」


バンシーの雄叫びが振動となって周囲を揺らす。

呪いの乗ったこの雄叫びは、突入してきた騎士達を――


「あんまりきいてねぇな」


全員苦し気な表情こそ浮かべてはいるが、まともに食らえばこんなものでは済まないはずだ。

明らかに呪いをレジストしている。


「ふふ、私が呼んだのよ。呪い対策をしてない訳ないじゃない」


さっき効くかどうかで試しに使った呪いは、完全に裏目に出てしまった様だ。

手の内がばれていれば、そりゃ対策されるに決まってるからな。


「まあ完全にレジストは無理だったみたいだけど。それでも十分――ディスペル!」


アイリーンの手から光が広がり、騎士達の呪いを解除する。

呪いが完璧に決まっていたなら、たとえ解呪してもしばらくは動けなかっただろう。だがこの程度のダメージじゃ、それは期待できない。


「ホーリーローブ!」


奴は更に魔法を発動させる。

全員の体に青く輝く被膜の様な物が纏わりついた。

たぶん、呪いに対する抵抗を齎す魔法だろう。


ったく……アイリーンだけでもきついってのに、雑魚の相手までしなきゃならないのかよ。


とにかく、あいつに気を付けつつ雑魚どもを倒していくしかないか。

恐らく精鋭なのだろうが、クラスメート達と比べれば大した事はないはず。

まあ中にはアイシャさんクラスの天才が混じっているかもしれないので、油断はできないが。


「殺しても構わないわ!行きなさい!」


「はっ!」


騎士達がアイリーンの命令に従って突っ込んで来た。

その動きをみて、俺は少しだけホッとする。

少なくともアイシャさんクラスは混じっていない様だ。


これなら処理するのは楽だろう。

まあアイリーンがいなければの話ではあるが。


騎士達が目の前に迫った所で、俺は透明化ステルスを使う。


これはごみの様なスキルだった。

何せ、俺の姿が消えてもシーの姿は残ってしまうからな。

お陰で隠密性は0だ。


だが急に俺の姿が消え、空中に青い少女の姿だけが残るのだ。

それを目にした奴らはぎょっとする事だろう。

現に、襲い掛かろうとしていた騎士達の動きが一瞬止まった。


そこに横凪の一撃を放つ。


前にいた4人まとめて永久コンボを――ってあれ?


永久コンボ発動と同時に、何かが発動した。

俺の意識に、4という数字が流れ込んでくる。


一体何が?


「隙だらけよ!」


「くっ!」


真横からアイリーンが突如姿を現す。

転移だ。

自身の変化に気を取られたその隙を、完全に突かれてしまった。


「パァ!」


だが俺はともかく、彼女には隙などない。

転移での襲撃にシーがきっちりと対応してくれる。

アイリーンはその攻撃を剣で受けとめるが、受け止めきれずに足裏を滑らせながら吹っ飛んだ。


「? 」


だがその時気づく。

アイリーンの口元がニヤリと歪んでいる事に。

嫌な予感がして、俺は素早く奴の視線を辿る。


するとそこには――騎士達の頭上を越えて俺に迫る雷の魔法が……


恐らくクラスメートが使っていた、誘導式の雷魔法だろう。

先に魔法を撃って転移し、本体で先制をかける事で時間差の攻撃をアイリーンは仕掛けてきたのだ。

騎士達を呼び出したのは、この攻撃を気づかせない様にする為のブラインドにするためだったのだろう。


ダメだな。


気づくのが遅かった。

どう考えても回避は間に合わない。

残機がなければ危うく死んでいるところだ。


「ん?」


直撃するイメージを脳裏に浮かべながらも、本能的に回避を行う。

すると、何故かあっさりと魔法を躱す事ができてしまった。

魔法は軌道を歪ませ戻ってくるが、それも容易くかわす。


「なんだ?体が軽いぞ?」


さっきまでとは明らかに違う。

勘違いなどではなく、目に見えて自分の動きが良くなっている事を実感できた。


ピンチに際して潜在能力が開花したのか?

村人の俺に主人公補正?


そんなのありえない。

考えられるとしたら、さっき頭に浮かんだ4という数字だけだ。

あれがきっと関係しているはず。


そしてそんな不可思議な事が起きるとしたら、可能性は一つだけだった。


「パァ!」


しつこく追ってくる雷を、シーが迎撃してくれた。

素早く動き回ったので残りの騎士達からは距離が離れており、俺の動きが急に変わった事をアイリーンは警戒してか動いていない。


やるなら今がチャンスだ。


「キューブ!」


俺は右手にキューブを出し、意識を集中して素早く確認する。


「やっぱりか」


スキルを確認した事でハッキリした。


思った通り――永久コンボが進化している。

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