第25話 Sランクモンスター

「ぁーーーーーーーー」


剣を抜き放ち奴に対峙すると、再びバンシーが口を開き何か雄叫びを上げる。

だが先程の様な嫌な感じはない。

一応振り返って確認するが、テア達には何も変化は見られなかった。


どうやら今度は呪いではなさそうだ。


「なんだ……」


パラパラと天井から、砂埃が落ちて来る。

上を見上げると天井に亀裂が入り、微かに振動しているのが分かった。

その振動は見る間に大きくなり、天井部分が崩落する。


「ぶわっぷ?いったい何が!?」


砂煙が納まり周囲を見渡すと、瓦礫を押しのけ這い出て来る蟻達の姿が見えた。

数は少なく見積もっても100匹は下らない。

恐らくバンシーが呼び寄せたのだろう。


「ちっ!」


さっさと終わらせたいって言うのに、面倒極まりない。

蟻は此方に気づき突っ込んでくる。

俺は地を蹴り、前に出た。

その場でやり合うと、動きが制限されているテア達を守るのが難しくなるからだ。


「おらぁ!」


地面を爪先で蹴り飛ばす。

硬い岩盤だが、靴は鉄板が仕込まれたブーツだ。

そこに俺のパワーが合わさって地面は抉れ、礫となって蟻達に飛ぶ。


「ふん!」


適当に剣を振る。

すると離れた5体の蟻の首が一斉に宙を舞う。

永久コンボの効果だ。

俺の永久コンボは攻撃を当てて発動させさせさえすれば、その後の攻撃は当てる必要は一切ない。


「おらおらぁ!」


敵の数が多く、一匹一匹など相手にしていられない

俺は地面を蹴りまくり、礫をばら撒いた。

そして剣を振って蟻共の首を纏めて飛ばす。


「ちっ!」


頭上から巨大な前足が迫る。

蟻達を飛び越えて、巨体のバンシーが攻撃を仕掛けてきたのだ。

俺は咄嗟に背後に飛んでその攻撃を躱す。


「わざわざ寄ってきてくれたんなら、助かるぜ!」


バンシーが前足を上げ、俺の頭上へと振り下ろす。

同時に蟻共も俺に群がって来た。

俺は奴の攻撃足を躱しつつ高く飛び、その足に向かって腰の革袋を投げつけた。


「喰らいな!」


それにはたっぷりの水が詰められている。

勢いよく前足に当たった袋は破裂し、周囲に水をまき散らした。


永久コンボ発動!


俺は空中で力強く剣を振り、水を浴びた蟻達を……そして女王蟻の首を飛ばした。

これで呪いは解ける。


「後は呪いの解けた皆と一緒に蟻を――えっ!?」


「始末するだけだ」そう考えていた俺の胸元に突然衝撃が走った。

見ると、胸に青い物が深々と突き刺さっていた。


それは女王蟻の胸元から生えたバンシーの右腕だった。

奴は手を槍の様に長く伸ばし、俺の胸元をその手で深々と貫いたのだ。


体から力が抜ける。

意識がすうっと遠のいて……


「って、気絶するのは不味い!」


俺はバンシーの手を掴み、勢いよく引き抜いて着地する。

スキルのお陰で死なずに済んだが、あの状況で意識を失っていたら終わっていた。


「うぜぇ!」


俺は周囲に集って来た蟻共の首を素早く跳ね飛ばす。

休む暇もない。

唯一の救いは、蟻共が呪いで動けないパーティーメンバーに向かっていない事だ。


バンシーが獲物として俺を指定しているのか。

それとも蟻が呪いを嫌って俺に向かっているだけなのかは分からないが、とにかく助かる。


「ったく、油断したぜ」


永久コンボで首を飛ばして勝った気になっていたが、考えてみればあの体は女王蟻の物だ。

首を飛ばした所で、寄生してるっぽいバンシーを殺す事は出来ない。

お陰で危うく命を落とすところだった。

止めるのなら、バンシーを狙わなければ。


とは言え――


「喰らいな!」


再びバンシーが襲って来る。

その攻撃を飛んで躱し、バンシー本体に腰の革袋を投げつけた。

奴は素早くその攻撃に反応し、もう一本の前足でそれを叩き割ってしまう。


そのせいでバンシー本体には水がかからなかった。


だが今度は問題ない。

先程は女王蟻が生きていたので永久コンボはそっちにかかったが、首を落とされた以上女王蟻はもうすでに死んでいる。


つまり、女王蟻の体は奴が操る装備の様な物という事だ。

そして俺の能力は身に着けた武具類にヒットしても発動する。


「終わりだ」


俺は剣を全力で振るう。

これで首を飛ばして奴を倒す。


「――っ!?マジか!?」


バンシーの首元に少し傷が走り、青い液体が散らばる。

首を切り落とす気持ちで振り抜いたと言うのに、相手の体には掠り傷程度しかつけられなかった。


もしかして剣の振り方が悪かった?

いや、それはない。

その証拠に、水を浴びた他の蟻達の首は綺麗に跳ね飛んでいる。


つまりバンシーは柔らかそうな見た目に反して、とんでもく硬いという事だ。

流石はSランクといった所だろうか。


「効かねーんなら、弱点を狙うだけだ!」


心臓目掛けて剣を振るう。

だが頭の中でエラーが表示される。

どうやらバンシーに心臓はない様だ。


もう一度剣を振るう。

今度は脳みそ。

だが此方もエラーが出た。


どうやら心臓も脳みそも無いらしい。

どういう生き物だよ、まったく。


「しゃあねぇ。地味にやるしかないな」


寄って来る蟻共を剣で蹴散らす。

その際、斬撃で序でにバンシーにもダメージを与えていく。


「残すはこいつのみか」


落ちて来た蟻は全て始末した。

残るはバンシーのみだ。


チラリと後ろを振り返ると、テアも立っていられないのか倒れ込んでいた。

シーフのシッヅに至っては白目を剥いて泡を吹き、青い顔で小刻みに痙攣している。

さっさと決着を付けないとやばそうな状態だ。


「行くぞ!」


弱点はない。

ならば死ぬまで斬って斬って斬りまくるのみ。

これぞ永久コンボの真骨頂とも言える。


「おらおらおらおらおらおらおら!」


気合を吐き出し、剣を振り続ける。

最初は無駄に数を数えていたが、百を超えたあたりで止めた。

とにかく無心で剣を振る。


「おらおらおらおらおらおらおら!」


俺の斬撃は掠り傷程度しか与えられないが、それでも際限なく同じ場所を指定してダメージを与え続けると傷がじわじわと広がって行く。

殆ど拷問に近い攻撃で、自分がやられたらと思うとぞっとしない。

だが情けをかけている余裕も力も無いので、このまま削り殺させて貰う。


「これで!終わりだ!」


最後の一撃は……なんだっけか?

好きだったゲームのフレーズを思い出そうとしたが、思い出せない。

まあ疲れてるからしょうがないないな。


全身全霊を籠めた最後の一撃は、首の皮一枚残ったバンシーの首を綺麗に寸断する。

奴の頭は「ボトッ」と音を立てて地面に転がり、永久コンボが解除される。


どうやらやっと死んでくれた様だ。


「首の皮一枚繋がってるだけでも死なないとか、どんな生命力だよ」


半分ぐらい削った所で死ぬかなと思っていたが、とんでもなくしぶとい魔物だった。

Sランク恐るべしだ。


「っと、そんな事よりもテア達だ」


駆け寄ると全員意識を失っていた。

だがその表情に苦痛はない。

どうやらちゃんと呪いは解けてくれた様だ。


「はぁ……良かった」


剣を振りまくって疲れた俺は安堵からその場で腰を下ろし、大の字になって寝ころんだ。

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