第26話 勧誘

「バーン、喜べ!特別報酬が出るそうだ」


そう言うと、ライラさんは俺の肩に手を回す。

腕は筋肉質で硬くててゴツゴツしているが、肩に当たるバインバインのオッパイは柔らかい。


ダンジョンでのミッションは既に終了済みだった。

あの後パーティーメンバーは直ぐに回復し、蟻の討伐を終わらせている。


「そ、そうなんですか?」


「ああ、なんせSランクモンスター討伐だからな。流石に正規依頼じゃないとはいえ、報酬はたんまり出るぞ」


金を溜める必要があったので、これはかなりの朗報だった。

ライラさんの口振りなら、金額は相当期待できそうだ。

ありがたやありがたや。


「所でお前、どこかのギルドに入ってるのか?」


ギルドというのは、傭兵ギルドの事だ。

行政からリーダーを任されている人だったので、ライラさんは当然ギルドに所属している筈。

無所属の野良に、現場指揮を任せる程この街の役所も馬鹿では無いだろうから。


「いや、俺はそういうのには……」


「だったら内に来ないか!うちは別嬪ぞろいだぞ!私を筆頭にな!」


自分で言うか?

だがまあ、ライラさんは顔立ちが綺麗で美人に分類されるのは間違いない。

体格のせいで大分損はしてるけど、これで普通位の背格好ならかなりモテそうだ。


「おいおい、抜け駆けはねぇんじゃねーか」


ヴォーグさんが話に割って入って来る。


「おい、バーン。うちは武闘派揃いのギルドだ。強い奴は大歓迎だ。うちにこい」


Sランクモンスターの単独討伐がかなり効いたらしい。

2人そろって俺を勧誘して来た。


「いや、誘って貰えたのは有難いんですが……ギルドに入る予定は、今はちょっと」


野良での金稼ぎには限界がある事を考えると、どこかに所属した方が良いとは思ってはいるが……正直金が溜まるまでの腰掛けなので、OKの返事は出し辛い。

断るのが無難だろう。


「バーン」


その時、テアに袖を引かれる。

指先でちょいちょいと耳を貸せというジャスチャーをされたので、体を屈めると「貴方異世界人でしょ?」と小声で囁かれた。


その言葉に思わずギョッとしてしまう。

そんな俺の反応を見た彼女はにやりと口の端を歪め、「やっぱりね」と小声で呟いた。

どうやら完全に引っ掛かってしまった様だ。


しかし何故彼女は異世界人の事を知っているのだろうか?

それが気になる。


「ライラ、彼はうちに来るって。ね」


そう言うと、テアは悪戯っぽくウィンクした。

勿論、その行動には断ればばらすという意味合いが含まれているのだろう。


「……まあ、そうなります」


脅される様で癪だが、周りに知られるのは不味い情報なので折れるしかなかった。

彼女の持つ異世界人の情報も聞きたいので、まあいいだろう。


「でかしたぞテア!どんな口説き文句を使ったんだ?」


「それは秘密」


反応的に、どうやら二人は同じギルドの様だ。

ライラさんは小さなテアを抱き上げ、肩車した。

こうしてみると、まるで親子の様だ。


ん?ひょっとして本当に親子か?

いや、流石にそう考えるにはライラさんは若すぎるか。

テアが12として、ライラさんは24-5位だ。


そもそも二人は余り似ていない上に、髪の色も違う。

ライラさんは赤毛に赤目でテアは黒毛に赤目だ。


「残念だ。バーン。だがお前には命を救って貰った恩がある、ギルドは違うが、何か困った事があればいつでも言え。相談に乗ってやる」


「ありがとうございます。ヴォーグさん」


厳つい見た目と物言いで最初はおっかない人だと思っていたが、実際は優しくて義理堅い人だった。

彼が差し出したごつい手を握り返す。


この日、俺は傭兵ギルド女神の天秤に入団する事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る