第24話 バンシー

蟻達を薙ぎ払いながら通路を進む。

かなりの数と戦ったが、パーティーは無傷で問題なくガンガン奥へと進んでいった。


俺達の入り込んだ通路は途中で三差路に分かれていたが、両サイドをテアの結界で封印し――討ちもらしを出さないためと、背後からの奇襲を防ぐため――まずは直線コースを進む。


「でか……」


暫く進むと、巨大な空間に辿り着いた。

そこは最初に辿り着いた場所よりも遥かに広く、天井も10メートル近くある大空洞だった。


空間には働き蟻や兵隊蟻の類はおらず、向かって正面奥に巨大な蟻の姿だけが見えた。

サイズは他の蟻の10倍以上はあるだろうか。

他の蟻達の頭部にあたる部分から、更に人型に近い胴体が伸びている。


「クィーンだ……しかし、なんてデカさだい」


その足元には何かの残骸が転がっている。

よく見ると、それはウォーアントの体の残骸の様に見えた。

ひょっとして、他の蟻を喰ってるのだろうか?

だとしたら嫌な女王もあったもんだ。


「こっちにはまだ気づいてないみたいだね」


相手の様子に変化はない。。

空間内部はテアの魔法の光で強く照らしだされているのだが、反応がないという事は光を感知していないという事だろう。


「あのサイズなら……Bランク以上は硬いな」


「あの?Bランクって?」


「あぁ?」


ランクという言葉が気になったのでヴォーグさんに聞いたら、怪訝そうな目で見られてしまった。

どうやら傭兵として知っていて常識の内容だった様だ。


「魔物の格付け。働き蟻がFで兵隊蟻がEよ」


「成程」


俺の質問にテアが答えてくれる。

って事は、兵隊蟻よりさらに2段階強いって訳か。

まあこのサイズだ。

当たり前と言えば当たり前のなのかもしれない。


「因みにスライムはどれぐらい?」


以前戦ったスライムの事を思い出し聞いてみた。

兵隊蟻よりは確実に強かったから、DかひょっとしたらC位だろうか?


「スライムはBで、上位に部類される魔物よ」


「え!?B?」


思ったよりもランクが高い。

しかし目の前の巨大な女王蟻がBって事は、サイズの割に実は大した事無いって訳か……いや、油断するのは早いな。

何せ以前戦った時、俺はスライムにかなり追い込まれているのだから。


でもあの時は数が3体いて、しかも片手にお荷物リーンを抱えていたからなぁ……そう考えると、やっぱり大した事は無い気もする。


「どうする?」


「連携のないチグハグなパーティーではあるが、個々の能力は高い。あたし達だけで十分さ」


「じゃあやるか」


ライラさんの返事に、ヴォーグさんがにやりと笑う。

なんかやり取りがベテランっぽくてカッコいい。

俺もいつか仲間とこういう渋いやり取りをしたいもんだ。


「待って!何かおかしい!」


やる気満々で飛び出した2人を、急にテアが大声で止める。

無口な魔女っ子キャラの割に珍しい事だ。


「ん?どうしたんだい?」


「魔法でサーチをかけたら、女王蟻から何か別の魔力が検知されたの。それも凄く強力な魔力を」


「何!?」


どうやら彼女は気づかない間に、サーチ系の魔法を女王蟻にかけていてようだ。

全く気付かなかった。

しかし魔力が混ざってるってとは、どういう事だろうか?


「――っ!?」


その時、女王蟻が動いた。

ひょっとしたらテアのサーチ魔法に反応したのかもしれない。

ゲームとかだと、ノンアクティブの敵に魔法をかけたら反応して動き出したりする。きっとそんな感じだろう。


まあこれはゲームじゃなくて現実だが。


「なんだ!?」


女王の上半身――人型部分――に縦筋が入り、そこから青い光が漏れ出していた。

それはゆっくりと開いていく。

そしてその中から――青い体をした女性の上半身が姿を現した。


「不味い!!!!」


ライラさんが大声で叫ぶ!

その眼は驚愕に見引かれていた。


死の叫びバンシーか!!」


「せ、精神耐性魔法を――「馬鹿野郎!叫ばれる前にさっさと逃げるぞ!撤退だ!!」」


ゴルムさんの言葉を遮り、ヴォーグさんが叫ぶ。

その言葉に皆が振り返って走り出した。


あからさまにヤバそうなので、俺もそれに従って走り出そうとした瞬間――


「ぁーーーーーーーーーーーー」


か細い叫び声が背後から響く。

その声を聴いた途端、俺の体は総毛だち、強い悪寒が走って思わず足を止めてしまう。


だがそれは一瞬の事だった。

俺の感じた不快感は直ぐに消えてしまう。

が――


「がっ……あぁ……」


「ぐぅぅぅ」


他の皆が急に苦しみだし、その場に蹲ったり倒れ込んでしまった。

辛うじてテアだけは杖を支えに立ってはいるが、脂汗を流しかなり苦しそうだ。


「大丈夫か!?」


「大丈夫……じゃない。私達は……もう……だめ……」


「何言ってんだ!?」


「呪いを受けたから……もう助から……ない。貴方だけでも……逃げ……て」


呪い!?

そうか、さっきの悪寒はその為か。

俺がぴんぴんしているのは、異界竜を倒した際に手に入れた状態異常の完全耐性のお陰だろう。


「テア、バンシーを倒したら呪いは解けるか?」


魔物を倒せばひょっとしたらと思い、俺はテアに尋ねた。

このまま放って逃げるとと言う選択肢はない。


「駄目……相手はSランクの……勝ち目なんか……」


「それは問題ない!どっちなんだ!」


相手がSランクだろうが何だろうが、呪いは俺には効かない。

それに永久コンボもある。

倒す事は難しくないだろう。


問題は倒して呪いが解けるかどうかだった。

倒しても無駄なら、全員を引きずって速攻で外に脱出する積もりだ。

外には万一の際の医療班が待機しているので、彼らに任せれば何とかなる可能性がある。


だが、倒れているパーティーメンバーの状態を見るに、外まで持つかは怪しい。

倒す事で呪いが解けてくれると有難いのだが。


「倒せば……多分、解ける……でも」


「解けるんだな?なら俺に任せろ。絶対に助けてやるから」


俺は笑顔でテアにそう答えると、腰の剣を引き抜いて構えた。

狙いはバンシーの首だ。

能力は隠しておくつもりだったが、パーティーメンバーはそう長く持ちそうにない状態だ。


時間をかけるわけにも行かないので、出し惜しみせずに永久コンボを使って速攻でケリを付ける。

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