第21話 坑道

坑道内の通路はかなり広い。

大人数人が横に並んでも問題なく進める程に。

更に等間隔で天井に電灯の様な物ががつけられている為、視界は良好だった。


俺達はリーダーの女性――ライラを先頭に、彼女の案内で担当区域を速足で進む。

他の大人連中はともかく、小柄な魔女っ子は重い荷物を持っての行軍はきついんじゃないかと思ったが、彼女も問題なく付いて来ていた。

どうやら見た目に反して、かなり体力がある様だ。


暫く進むと巨大な蟻が2体姿を現した。

この坑道内に巣食う魔物、ウォーアントだ。

体長1メートル程のそれは、巨大な顎をカチカチと鳴らし此方を威嚇してくる。


「ひよっこは下がってな!」


「お供しやすよ」


俺に向かって下がっている様指示し、重武装のヴォーグさんが前に出る。

それに付き従う様に髭のシーフ――シッヅが隊列から飛び出した。


俺はウォーアントの強さや、そもそも今の自分の強さ――永久コンボ抜きの――が良く分かってはいない。

彼らの戦いはその指針になるので、よく見ておく事にする。


「フンッ!」


「あらよっと」


2体のウォーアントを、ヴォーグとシッヅが素早く始末する。

ヴォーグは巨大なハルバードの突きで頭ごと胴を貫き、シッヅは素早い身のこなしで蟻の懐に入り込み、その首を手にしたショートソードで切り落とした。


「硬そうに見えたけど、案外そうでもないのか」


「奴らの外皮は硬いが、節の部分はそうでもない。シッヅはそこを狙ったんだ」


「そうなんですか」


シッヅが容易くショートソードで首を切り落とした事から、ウォーアントは見た目より柔らかい。

そう思ったが、どうやら違った様だ。

単純に技量の問題の様だった。


「先に進むぞ」


ライラさんはそう宣言してまた大股で歩き出した。

魔物の死体は放置する。

回収は討伐が終わってから業者がやる予定になているからだ。


俺達はその後も駆け足で坑道内を進む。

何度か蟻共と遭遇するが、その大半はヴォーグさんが1人で倒してしまう。

彼はかなりの腕前の様だ。


「ヴォーグ、あんた甘やかしすぎだよ」


休憩に入った所で、ライラさんが口を開いた。

甘やかし過ぎってのは、まあ俺の事だろう。

入って2時間程立つが、敵と遭遇するたびに彼に下がっていろと強く指示されていた為、俺はまだ一度も魔物と戦っていない。


「足手纏いにチョロつかれたんじゃ、邪魔なだけだ」


彼は装備が貧弱で魔物の事を良く分かっていなかった俺を無能と判断し、守ってくれていた――別に頼んでないけど。

どうやら見た目と口の割に、かなり優しい性格をしている様だ。


「あんたの気持ちも分かるけど、此処にいる全員報酬で雇われてるんだ。悪いが、リーダーとしてそこの坊やにも次からは戦闘に参加してもらう」


ライラさんはちらりと此方を見た。

その眼は、嫌ならとっとと失せなと雄弁に語っている。


「わかりました。ここに来るまでサボらせて貰ったので、次からは俺が出来るだけ前に出て戦います」


「てめぇ、死にてぇのか?勇気と無謀は別物だぞ」


今度はヴォーグさんに睨まれた。


「大丈夫ですよ。俺も遊びできてる訳じゃないですから」


気づかいは有難いが、能無し寄生野郎のレッテルは面白くない。

戦いを見た感じ、ウォーアントはスライムの足元にも及ばないレベルの雑魚モンスターに感じる。

そして単純なパワーやスピードなら、ここにいる誰よりも俺の方が上だった。


他の人間が容易く狩れているのだ。

技術の差はあるだろうが、今の俺のフィジカルなら永久コンボ無しでも全く問題なく戦えるだろう。


「ふん!好きにしろ!」


そう言うと、ヴォーグさんは不機嫌そうにその場に寝ころぶ。


魔物の居るこんな場所で当たり前の様に寝っ転がるのは、本来なら豪快を超えて愚か極まりない行動としか言いようがない。

そんな行動が許されるのも、魔女っ娘――テアが魔法で結界を張っているからだ。

お陰で蟻に奇襲される心配する事無く休憩できる。


「さあ、出発するよ」


10分ほど休憩した所でライラさんがパンと手を叩く。

休憩終了の様だ。

俺はバックパックから水の入った革袋を取り出し、一口煽ってから彼女の後に続く。


さあ、レベル99村人の力を見せつけてやるとしよう。

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