第22話 どや!

「いきます!」


ウォーアントが3匹、前方から姿を現した。

俺は迷わずそこに突っ込んだ。

腰から剣を引き抜き、一匹の横を通り抜けると同時に剣を薙ぐ。


「はっ!」


大した手応えもなく俺の手にした剣は水平に弧を描き、蟻の胴体を上下に引き裂いた。

思った通りだ、こいつらは俺の敵じゃない。

そのまま2匹目も通り過ぎながら剣を薙ぎ、その体を跳ね飛ばす。


「ぎぃぃぃぃ!」


一番奥にいた3匹目が、突っ込んで来る俺に前足を振り下ろそうとする。

だが遅すぎて話にならない。

足が振り下ろされるよりも早く飛び込み、それまでの2匹同様、体を上下に切り裂いて終わらせた。


「「……」」


剣を収め、パーティーメンバーの元へと戻った。

皆役立たずと思っていた俺の動きに驚いたのか、無言で此方を見つめて来る。


ドヤ!


「く……はーはっはっは。こいつは驚いた」


最初に声を発したのはリーダーのライラさんだった。

さも愉快そうに彼女は笑う。


「こいつは一本取られたね。ヴォーグ」


「ちっ……素人のふりしてやがったのか」


ヴォーグさんは苦虫を噛み潰したかの様な表情で、俺を睨み付けて来た。

そんな風に睨まれても困る。

勝手に勘違いしたのはそっちだし……まあ只、素人という判断自体は間違ってはいないが。


実際、異界竜を倒してレベルが99に上がってなかったら、永久コンボ抜きでウォーアントに勝つのは無理だっただろう。


「動きはかなり雑に見えたが、凄まじい身体能力だ」


武僧のゴルムさんが興味深げに俺の肩や腕を触る。

本人に悪気はないのだろうが、ごついおっさんに体をペタペタ触られるのは気持ちの良い物では無いので、出来ればやめて欲しい。


「中々やるみたいね」


それまで一言も言葉を発していなかった魔女っ娘テアが、三角帽子の鍔を手で上げ、俺に言葉をかけてくる。

帽子のせいで今まで顔が見えなかったが、彼女は文句なしの美少女だった。


燃える様な真っ赤な瞳に、幼さの残る愛らしい顔立ち。

少し気が強そうな面持ちではあるが、そこもまた彼女の可愛らしさを一層引き立てていた。

これでやぼったいローブと三角帽子では無く、女の子らしい服で着飾ったらさぞモテる事だろう。


「さ、おしゃべりはここまで。さっさと先に進むよ」


魔物を倒しながら暫く先に進むと、突き当りに辿り着く。

まあ正確には突き当りでは無く、岩盤に人一人が通るのがやっとの穴が開いていた。

恐らくここから先が、ウォーアントの巣なのだろう。


「キュレの3だ。巣穴を見つけた。聞こえるか?」


ライラさんが荷物から黒い正方形の箱の様な物を取り出し、スイッチの様な突起を押してから口元に寄せて声を掛けた。

トランシーバー的なマジックアイテムなのだろう。

黒い箱から、女性の声で返事が返って来る。


「聞こえています。おめでとう、一番乗りよ」


「ふん、当然さ。モロゾフの奴に伝えておいてくれ。賭けは私の勝ちだとな」


「了解したわ。他の隊の報告が入り次第、指示を出すわ。それまで休憩していてちょうだい」


「了解」


通信が終わった黒い箱をライラさんは足元に置き、どかっと胡坐を組んだ。


「聞いての通り、暫く休憩だよ。テア、結界を頼む」


彼女の言葉に無言でうなずき、テアは巣の入り口らしき場所に結界を張る。


ウォーアントの巣への入り口は複数開いており、突撃は全て同時に行われる事になっていた。

単独で巣に乗り込めばとんでもない数の魔物の相手をする羽目になってしまうので、敵を分散させる為だ。


「ふん、腹立たしい」


休憩していると、30分ほどで7人組のパーティーが合流して来た。

色っぽい薄着の魔導士風の女性を除き、全員金属の鎧を身に着けた筋骨隆々のゴリラパーティーだ。


「だから言ったろ。このルートが当たりだって。金は後でちゃんと払いなよ」


「ちっ」


先頭の男が、ライラさんの言葉に舌打ちする。

話しの流れ的に、恐らくこの人がモロゾフという人物なのだろう。


暫くすると、もう一パーティーが俺達と合流する。

全部で19人。

どうやらこの巣穴へは、3パーティーで突入する様だった。


「さて、それじゃあ出発だ」


通信用の黒い箱から連絡が入り、俺達は巣穴へと突入する。


今までは働きアリが相手だったが、ここからは巣を守るワンランク上の兵隊蟻も混ざって来る――ゴルムさんに聞いた。

大人数になったとは言え、気を引き締めていくとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る