第13話 国からの依頼
「ん?」
国の兵士と顔を合わせるのは一応避けておこうと思い、村の中をリーンとぶらついて居ると、ぞろぞろと集団で動く村人達が見えた。
その顔には全部見覚えがある。
ヘキソン村の人間だ。
「どうかしたんですか?」
「それが……村長宅には兵士達が今晩寝泊まりするそうで、私達は邪魔だからと追い出されてしまったんです」
「はぁ!?」
ヘキソン村からここへ避難してきた人間は、一部は親戚の家などに世話になってるが、今の所その殆どが村長の大きな屋敷に寝泊まりしていた。
村から逃げてきてまだ心の傷も癒えていない様な人達を邪魔だからと追い出すとか、糞みたいな連中だな。
この国の兵士共は。
「それで、今日はどうするんです?」
「他の人達の家にいきなり上がり込むのも迷惑だから、今晩は村の広場にある集会所に藁を敷き詰めて寝泊まりする事になったんです」
「ああ、あそこか」
村の中央付近には大きめの建物が立ってある。
どうやらそこが今晩の寝床になる様だ。
俺も村長宅に寝泊まりしていたので、必然的にそっちに移動する事になるだろう。
「藁は何処にあるんだ。俺が運んでくるよ」
全員分のとなると、結構な重労働だ。
女子供や老人に運ばせる訳にも行かないので、場所を聞いて村はずれの倉庫へと一人で向かう。
倉庫から荷台を使って藁を運びだし、一度では運びきれないので3度ほど往復した所で村の守兵に呼び止められた。
「滝谷さん。悪いけど、用があるから村長の屋敷まで来てくれないか」
「俺?」
一体何の用だ?
このタイミングで呼ばれたという事は、間違いなく今日来た兵士絡みだよな?
まさか村長が……いや、いくら口の軽い村長でも俺の秘密を身内以外にはそう簡単にペラペラしゃべったりはしないだろう。
一応大きな貸もあるわけだし。
「わかりました」
兎に角、行くだけ行ってみる事にする。
バレている様なら、その時は改めて倒すなり逃げ出すなりすればいい。
用心して不意打ちさえ喰らわなければどうにでもなるだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よく来たな。お前が魔物を退治したという傭兵か」
「はぁ……まあそうなります」
村長宅に到着すると、客室に通される。
そこでは軍服の様な服を着た、ちょび髭のおっさんが偉そうに椅子に座っていた。
両サイドに兵士が立っているので、多分この隊の指揮官だろう。
「ふん、とてもスライムを退治した腕利きには見えんな」
明かに此方を見下している横柄な態度だ。
イラっとするがまあ我慢しよう。
「何か御用でしょうか?」
「明日我々は死の山へと向かう。喜べ、貴様を雇ってやろうというのだ」
「……」
何言ってんだこいつ?
俺の正体がバレている様子はないが、いきなり雇うとか意味不明過ぎる。
後、死の山ってどこだよ。
「死の山はヘキソン村から数時間の場所にある山です。どうやら調査隊の方々は、そこに住むと言われている竜の調査に来られたそうで」
カンソンの村長が、偉そうなちょび髭に変わって説明してくれる。
大人数で大挙して来ているが、どうやらそれでも人手が足りず、現地調達しようって腹積もりの様だ。
しかしヘキソン村の近く。
そして竜の住む山か。
間違いなく異界竜の事だよな?
てっきり異界竜と女王は繋がってると思っていたのだが、調査されてるって事は、案外そうでもないのだろうか?
「出発は明朝、日の出と共に向かう!いいな!」
返事もしていないのに、もう決まったかの様に命令してくる。
「断ったら?」と挑発したくなる態度だが、止めておいた。
軍人と揉めても、絶対碌な事にはならない。
一応「はい」と返しておく。
「報酬の話をしやがらなかったな」
その後、日の出前に屋敷の前に来るようにと言われて解放される。
報酬の話等は一切なかった。
終わってから雀の涙程度で済ませる気か、そもそも報酬を払う気がない可能性すら考えられる。
「まあそれ以前に、罠の可能性もあるけど」
あの指揮官の態度や、村長宅にいた兵士の配備から見て、俺を警戒していた様には思えない。
だがそれが演技ではない保証はなかった。
俺を村から連れ出してそこで……という可能性も0では無い以上、用心だけはしておいた方が良さそうだ。
「いっそもう、とっとと逃げだすとか……いやそりゃだめか」
仕事を依頼した当日に傭兵がドロンとか、普通は絶対そいつの事を調べるだろうからな。
調査されて、そこから俺が異世界人だと辿り付かれる可能性も考えられる。
バレていない可能性が高い現状、余計な波風は立てずに従軍して丸く収める方向で動いた方がいいだろう。
俺は残りの藁を集会所へと運ぶ。
明日は日の出前に起きなければならないので、その日は晩飯を食って早々に眠りについた。
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