第12話 ガード不能
「おりゃ!」
水の入った革袋を地面に叩きつける。
力強く叩きつけられた袋は破け、周囲に水をまき散らした。
その飛沫はリーンの足元を濡らす。
「う、動けません……」
「よし!成功!」
村に帰ってスライム退治を報告した俺は、貰った報酬でさっそく革袋を購入し、その中に水を入れて村はずれで試してみた。
新たな可能性。
叩きつけた革袋――攻撃――から飛び出た水が俺の攻撃として判定されるかどうかを。
リーンにスキルが発動したので、どうやら攻撃としてちゃんと判定してくれる様だ。
「これは使えるな」
スライム退治の際、直線的に投げた石は全て躱されてしまった。
俺のスキル【永久コンボ】は、攻撃が当たらない事には始まらない。
今回の様に相手が素早いと、中々発動できずに苦労させられてしまう。
そこで生み出したのが、この水入り革袋だ。
リーンの水を使ったらどうかという案と、コンビニなどで置いてあるカラーボールをヒントに生み出した新たなる一手。
直接投げれば躱されたり外したりするが、相手の足元に投げつけて飛沫を被せる様に使えばぐっと成功率は上がる筈。
「師匠ぅ……早くスキルを解いてくださいよぉ……」
「お、悪い悪い」
考え事をしていたので解くのを忘れていた。
でもまあほっとけば30秒でスキルは解けるので――スキルの説明はスライム退治前にリーンにしてある――情けない声を出すなよと思わなくもない。
ま、女の子だししょうがないという事にしておいてやろう。
「じゃあ次は俺がゆっくり革袋を投げるから、それを剣で切ってくれ」
そういって俺は腰に下げた剣をリーンに渡す。
次は相手が革袋を切った場合のテストだ。
その際、飛び散った飛沫で相手にスキルが発動するのか確認したい。
「俺、剣なんか使った事無いですよ」
「まあゆっくり投げるから、とにかく切って見てくれ」
「わかりました。やって見ます」
リーンは剣を引き抜いて鞘を地面に転がした。
大人用の剣なので、まだ子供の彼女には不格好に見える大きさだ。
まあこの際そんな事はどうでもいいか。
俺はゆっくりと、アンダースローでリーンの持つ剣に向かって革袋を投げた。
「えい!」
「スカッ」という擬音が聞こえてきそうな程見事な空振りだった。
リーンが「ぁぅ……」と小さく呟いて恥ずかしそうに俯く。
どうやら子供に大きな剣を持たせて革袋を切らせるのは、少々難がある様だ。
「うーん、参ったな……門の衛兵さんにでも頼むか……」
あんまりバンバン力を見せて周るのは好ましくはないが、これからの戦い方に影響する内容なのでちゃんと確認しておきたい。
まあこの際仕方が無いだろう。
「し、師匠!もう一度お願いします!」
リーンが人差し指を立てて、もう一回挑戦させて欲しいと言って来る。
存外負けず嫌いな性格をしている様だ。
まあだからこそ、強くなるために俺に弟子入りしたとも言えるが。
「よし、わかった」
多少時間はかかりそうだが、まあ剣を振る訓練も兼ねるとしよう。
リーンが拾って投げた革袋を受け取り、もう一度ゆっくりと投げる。
だがやはり空振った。
「も、もう一度お願いします!」
再び革袋を受け取り、投げる。
だが当らない。
革袋を受け取り、投げる。
これを延々繰り返す。
なんか子供のバッティングの練習を手伝っている気分だ。
何十回か振り回している内にコツが掴めたのか、リーンのスイング?が良くなってくる。
そしてついにその時はやって来た。
リーンの振った剣が見事に革袋を捉えたのだ。
しかしファール!
残念ながら革袋は割れずに地面に落ちてしまった。
だが――
「あれ?」
スキル【永久コンボ】が発動し、リーンの動きが止まる。
革袋の口は堅く閉じられたままで、水が跳ねた訳でもないのに何故かスキルが発動してしまった。
……ひょっとして、攻撃が武器とかに当たった場合も攻撃が当たった判定になるのか?
だとしたら想像以上に強力だぞ、このスキル。
「リーン、ちょっと待ってろ」
スキルを解除して門へと走る。
目的は、衛兵が持っていた皮を鞣して作った盾だ。
それを借りて、今度は相手が盾で受けた場合の発動を確認する。
「よし。今度は石を投げるから盾で受けてくれ」
盾を何とか借りて村はずれに戻った俺は、早速リーンに盾を持たせた。
構えた盾にゆっくりと石を投げる。
そして当たった瞬間――スキルが発動した。
「おお……ガード不能かよ!」
これが格闘ゲームなら糞ゲー確定だ。
喰らったら即死。
しかもガード不能とか。
そんな糞キャラ使ってたら、リアル対戦待ったなしだぞ。
「師匠……凄いです……後、スキル解除お願いします」
「お、悪い悪い」
スキルを解除してから彼女の頭を撫でる。
「リーンが協力してくれたから、色々分かって捗ったぞ。ありがとな」
「役に立てたんなら嬉しいです」
彼女がもし剣で革袋を切れていたら、ガード不能には気づかなかっただろう。
正に怪我の功名、
「んっ?」
その時、馬のいななきがかすかに聞こえた。
門の方からだ。
気になったので見に行くと、鎧を纏った一団の姿が目に入る。
俺はそれを見て咄嗟に姿を隠した。
何故なら、彼らが着ている鎧がアイリーンの引き連れていた兵士と同じデザインだったからだ。
つまりこいつらは、ファーレン王国に仕える騎士なり兵士なりという事になる。
「急にどうしたんですか、師匠?」
リーンが驚いた様に聞いてくる。
まあいきなり身を隠したらびっくりするわな。
「……」
少し考えてから俺は身を隠すのをやめる。
アイリーンは俺が異界竜に食い殺されていると思っている筈だ。
恐らく彼らは、ヘキソンやカンソンの要請を受けてやって来た討伐隊だろう。
なら俺が姿を隠す必要は無い。
「なんでもない。気にすんな」
門を通って、ぞろぞろと騎乗している兵士達が中に入って来る。
その数は軽く30を超える。
かなりの数だ。
まあヘキソン村の方は不意打ちで全部倒したから強さはよく分からなかったが、カンソン村を悩ませていたスライムの強さはかなりの物だった。
彼らが大人数なのも頷ける。
一行は真っすぐ村の奥にある村長宅へと進んで行く。
俺はそれを黙って見送った。
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