第19話 私の前世と女装
私は前世…間宮菜摘という名前だったみたい…。ポニーテールの似合う体育会系女子で柔道部部長だった。
3年の吉住先輩が引退して、私に部長の座が移ったのよね。
託されたバトンを受け継ぐべく…私は部員達にキビキビ指導したし全国大会に向けて練習して一回戦を突破した。一回戦優勝記念に部員達と一緒にファミレスでお祝いし合い、別れた。
星の綺麗な夜だった。
アスファルトを鼻歌を歌いながら帰った。
そう言えば……家に通販で買っておいた新刊の令嬢ものの漫画があったんだ!とりあえず一回戦勝ったら読もうと、まだ開けてなかったんだ!
「うふふ!勝ったし、今日は読むわよー!!」
私はこう見えて体育会系のヲタクで……勿論周囲にはそれを隠していた。柔道部の厳しい部長がまさかのヲタクというのが周囲に知られたら
「も、もう威厳も何も無いわよね…」
この前……練習後に文化系の清楚な女子達とすれ違った事があった。
その時、すれ違い様にわざと小声で
「汗くさ……」
「柔道着洗濯してるのかな?」
「私には絶対無理!あんな汗だく競技!」
「ていうか女子同士で百合とかありそう!」
「やだー!キモッッ!!毎日、女の子同士で仲良く……きゃあ!!」
と変な妄想をされてなんか不快だったのだ。
全く!柔道は神聖な競技だっつの!!
……でも、確かに汗臭いかもしれないな。と匂いを嗅ぎつつも家に帰った。
「ただいまー……」
と玄関を開けた所だが、あれ?おかしいな?今日は試合で勝ったら御馳走で、負けたら残念会のご馳走様で、とにかく御馳走振る舞いのはずなのに電気がついてない。
さてはサプライズだな?
と私はリビングルームへと近づき、扉を開けて踏み出すと……何かを足の裏に感じた。ヌルっとしたそれに驚き、何か溢したのか?
と電気のスイッチに手を伸ばした所で………
ズンッと、
何か大きな拳がお腹に入る。
は?
知らない帽子が目の前に見えた。
知らない男が私の腹を殴った。
な?
男の向こうにケーキがぼんやり見えた。
御馳走は下に散らばり……
お父さんとお母さんが……血溜まりの中で………そんな……。
男は崩れゆく私を冷たい目で見ている。私は意識を失いそうになる寸前……
男は何かを撒き始めた。お腹が痛くて起き上がれない。でも…この匂い……もしやと思うけどあれかな?ガソリンみたいな……。
と思うと男は立ち去り、ぼんやりロープみたいなのが見えて…そこに火が走っていき撒いたガソリンに……
それから頭がぼんやりして何も考えられなくなった。
*
「ケヴィン様!?」
ゆさゆさと私を揺り起こす可愛らしい手。
「ん……。エル、おはよう」
と起きると、エルが心配そうな顔でこちらを見ている。
「どうしたのよ?何かあった?」
と聞くとエルは私の顔に手をあてて
「ケヴィン様…うなされて泣いておりましたよ?悪夢でも見たのですか?」
と聞く。
ああ……そうか、あれは私の前世の最後の記憶だったのね……。なんつー最後よ。最悪だわ。新刊読めてないし、ホラードラマみたいな最後だし、こんなのエルに話したら心配して泣くわ!
「な、なんでもないのよ……悪夢見たのね!!」
と言うとエルはとりあえずお水を持ってきてくれた。
「ありがとうエル」
と微笑み、額にキスするとエルは少し照れて…でもまだ心配そうな顔をしていたので
「もう平気よ!起きたら何の夢か忘れちゃったわ」
と言う。
「本当ですか?……ケヴィン様」
「本当よ、疑り深いわね」
こちょこちょくすぐると
「や、やめてください!もう!わかりましたから!」
とエルは離してくれと言う。
私はクローゼットを開け、うっとりとエルが数ヶ月前に着ていたウエディングドレスを見る。
「やっぱり、いつ見ても良いわねぇ!!……私も着てみたいわ」
と言うとエルがかなり引いた顔をしたけど
「なら、着てみたら良いじゃ無いですか?」
と言い出した。
「あんた、何言ってんのよ?サイズ合わないし…私は男なのよ?イケメンだけど」
「それもそうですね……なら、ケヴィン様に合うウエディングドレスを作ったらとうでしょうか?」
と言うので死んだ目になったじゃない。
「バカなの?私が着たら女装の変態じゃないのよ!」
「でも、心残りなのかと思いまして……」
確かに心残りと言うかウエディングドレスなんて前世着る前に死んだものね。だいぶ早かったし、相手もいないけど、私だって女の子だったし……ドラマや漫画で純白ドレスの着飾っている綺麗なお姉さんに憧れた。
汗臭いと言われた私は何となく着れないかもしれないと勝手に落ち込んだ時もあった。
私は鏡をジーッと見た。どこから見てもイケメンである。しかし前世のテレビでジョニーズのイケメン男子がバラエティで女装し誰なのか当てるクイズがあった。そのイケメンは女装して美少女に変身していた……。
「……もしかしていけるかもしれないわね!」
と思いつく。
「エル……私…ちょっと一回女装してみようかしら?」
「えっ!?本当にですか?それは何と楽しい…!」
と手を合わせた。
「でも問題はお父様達に見つからないようにだけどね……見つかったら絶対殴られるわ!」
そして口の硬い信用のできる使用人を呼び出して…カツラ職人と服職人をこっそりと呼び出して私のサイズで女性物の服を作って貰うことにした。
化粧道具はエルのを借りて服やカツラが出来上がるのを待つこと、ひと月。
朝が弱い私が枕を抱きしめて寝ているとエルにぶっ叩かれた。
「また、やらしい夢見て!」
とエルは怒るがもう昼近くになっており、
「それより、出来ましたわよ例の物が」
と言ったので
「本当に!?」
と覚醒した。
そして密かに服が部屋に運ばれて箱を開けてみる。確かに少し大きめの私サイズの女性物の純白のウエディングドレスである。
「やだ!感動!!」
「ケヴィン様、カツラも届いてますわ」
とサラサラのカツラを手にしてみた。
「感動!」
とエルは化粧箱を持ち楽しそうにドレッサーの前に呼び出した。私は前世学生だったので、本格的な化粧もした事がなかったので、エルに任せた。
エルは真剣な顔をして化粧した。
メイクが終わるとドレスを着た。胸は詰めた。最後にカツラをつけて鏡の前に立つとエルが
「物凄い美少女ですわ!!ラウラ様以上ではないですか!!」
と感嘆の声をもらした。
鏡の中に私とは思えない長身の美少女がいる。
「嘘……やだ!これ…本当に私?」
「ええ!そうですよケヴィン様!綺麗!!」
と言われて嬉しくなった。
「折角だし、外に出てみない?」
「ええ?でも、バレたら…」
「ふっ……どこから見ても、この完璧な長身美少女を男だと思う?ねぇ、エル!たまには、女友達としてショッピングでも楽しみましょうよー!?」
とエルにくっ付いて強請ると
「……仕方ありませんわね…。それではこっそり出かけましょうか」
と呆れていたが付き合ってくれる可愛い妻にキュンときた。
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