第20話 女友達とショッピング
私とケヴィン様は、こっそりと邸を抜け出した。裏口からコソコソと外に出て、裏門に辿り着く。そこにも門番がいるのだが、私と女装したケヴィン様を見た。
ごくりとケヴィン様を見て、門番さんが頰を赤くされた。
「奥様?どうしたのですか?この方は?」
「お友達よ。実は庶民の方だから、こっそりと裏門から出て、街で私、お買い物したくて」
「そんな!奥様!それなら護衛を付けられた方がいいでしょう!街は危険な者共がいるかもしれません」
私はゴソゴソと金貨の袋を渡して護衛さんに
「お願いですわ、見逃して?私達なら大丈夫ですわ、私もどこから見ても地味な街娘でしょ?」
「ですが、奥様に何かあったら旦那様が…」
と心配する護衛さんに、ついにケヴィン様が
「おい、私がいて、妻に何かあるわけない。こう見えて強いからね」
と声を発すると護衛さんは驚きの表情をした。
「えっ!!?ま、まさか!!旦那様……ですか!!?この美少女……が……いやでも、そんな馬鹿な!!」
「そのまさかだ。この事は生涯秘密にしてくれないと君を首にするし、土に埋めることになるよ」
とにっこりする美少女に震え上がり、護衛さんはどうにか外へと出してくれて
「くくく、くれぐれもお気を付けて!!」
と言い、手を振る。
私達はニコニコとして歩いた。
「ケヴィン様…街へは乗合の馬車に乗るんですよね」
「ええ、そうよ。大丈夫、痴漢されないようにエルは私が守ってあげるからね!」
と美少女が微笑む。うっ!美しい!!
「ありがとうございます。ケヴィン様!」
「その呼び名…この姿には似合わないし、何か女の子の名前にしない?」
と2人で考えながら歩いて、最終的にナツミとなった。
どうやらケヴィン様の前世のお名前がナツミと言うらしい。
「ナツミ様……」
「へ、変かしら?この世界では、あんまり聞かないわよね?」
「いえ……ケヴィン様も久しぶりに言われて嬉しいかと思いますので、そう呼ばせてもらいますわ」
「別にナツミの時は様とか付けなくても良くない?私達は今、街の女友達という設定よ?ね?エル」
「私の呼び名は、今まで通りなんですけど…」
「それは別に良いじゃないのよ?」
なんだか不公平ですが、私もナツミと呼び捨てにする事にした。
*
乗合馬車に乗ると、いつもの貴族の馬車とは違い、揺れが段違いだった。凄く揺れる。平民の皆様は慣れていて、落ち着いているが、私とケヴィン様…ナツミは気持ち悪くなった。
「だ、大丈夫?エル…。な、なんなら私の服に吐いていいのよ?」
と青い顔をしてナツミが言うが
「だ、大丈夫ですわ、これくらい」
美少女に吐くわけにはいかない!!
そうして揺られながらも街に着いた。着いた途端、椅子を探して座ったけど。
ナツミは私の背中をさすってくれた。
「ありがとうございます。ナツミ」
「お互い様ね。……少し休んで街を周りましょう」
「はい……」
と話していると、何やら柄の悪そうな男達が近付いてきた。
「ゲッ!……こう言うのって、街、見回ってエルが迷子になってから登場するチンピラじゃ無いの?」
と言うから
「何で私が迷子になる前提なんですか?」
と呆れる。
「お嬢さん達!可愛いね!!特に長身の子!!すっげー美少女じゃん!!」
「何?この街に来たの?俺達が街を案内してやろうか?」
「それとも、気分悪そうだし、宿屋で休むかい?」
とニヤリとして近付くのでナツミは、ふらりと立ち上がり……
【背負い投げ!】
と男達を次々とぶん投げた。
ゼェハァ言い、ついにお腹を抑えて…男達の顔や服に盛大に吐いた!!
「ふん!……美少女の吐瀉物は、有り難く貰っておきなさい!」
と言う。……いや、汚い。
「エル、立てる?」
「なんとか」
と私はナツミに支えられて、近くにあった民家の井戸を借り、ナツミは口を濯いだり、私は少し井戸水を飲み、ようやく落ち着く。
「ふう、……スッキリした」
「そうですね、これで街を周れますね」
と言うと
「そうね!さぁ!買い物するわよ!!」
と私達は普通の娘さんみたいに、はしゃぎ、いろいろな物を見たり、買ったり、食べたりした。
今日は奥さんと旦那という関係を忘れて、女友達として過ごした!
ナツミは、今までに無いくらい楽しそうだった。
途中で男の方に声を何度もかけられた。皆、ナツミの容姿を見て近寄ってきた。相当な美少女ですからね。まさか男だとは思いもしないでしょう。
その度に、ナツミは笑顔でジュウドウの技を決めて撃退したけど。
「ほほほ!悪い虫は退治しないとね!」
と美少女は笑う。
冷たい庶民のアイスを見つけると、たくさん買って食べ合いをした。
「エル!そっちのイチゴ味、少しちょうだい!」
「ナツミのブルーベリーも!」
と私達は食べ合う。
私も、何だかワクワクして、楽しい時間を過ごした。最後にアクセサリー屋さんで可愛らしいネックレスをプレゼントされた。私からもプレゼントした。お揃いの色違いの猫のモチーフのものだった。
夕方になり、帰る時間になると乗合馬車を待つ。
「ああ、楽しかったわ。久しぶりに女に戻れて…私…満足よ……」
「また!また来ましょうよ!」
と言うとナツミは
「そうね……バレなかったらね……」
と微笑む美少女。
「エル、ありがとう!男に戻ったら、たくさんキスしてあげるわね」
と言うから恥ずかしくなる。旦那様ったら。
しかし邸に戻ると、鬼のようなゴッド様が裏門に仁王立ちされていてナツミを見て一瞬驚くが…
「ケヴィンだな?」
と言うと
「あら、それ、誰のことかしら?」
とすっとぼけたが声でバレて、ナツミこと、ケヴィン様は、思い切りゴッド様に殴られてしまった。
「変態に育てた覚えはない!!エルメントルート様が可哀想だろ!この馬鹿者!!」
男に戻り、頰を腫らしてしくしく泣いたケヴィン様は
「あんの、クソ親父…イケメンの顔になんて事すんのよ!昔から容赦ないわほんと」
因みに女装した服やカツラは、ゴッド様が取り上げてしまわれた。
「絶対、またリベンジしてやるわ!覚えてなさい!クソ親父!」
と頰をさする。
「可哀想に……薬をつけて差し上げますわ」
とクリームを塗ろうとしたら、手を掴まれキスされた。
「うふふ、今日は楽しかったけど…夜も楽しみましょう」
とケヴィン様は目をギラギラさせたのだった。
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