エピローグ ~それぞれの道~

 サリュナとカルハジェルは、久しぶりにお互いを見つめあった。


「サリュナ、無事で良かった!!」


「うん、ありがとう!!」


 どことなくぎこちないやり取り。


「ごめんなさい、私、あなたのお母様を……!!」


「いいんだ、僕たちを引き裂く為に君に酷いことをした報いを受けたんだよ。」


「でも……」


「大丈夫だから。それより……」


 少し言い淀むカルハジェルは、意を決してつづける。


「戻ってこないか? 僕の元へ――いや、頼むから戻ってきてくれ!!」


 ほんの少しだけ、サリュナの瞳が揺れる。


 けれど――


「ごめんなさい、そういう訳にはいかないわ。貴方にはもう守らねばならない別の方がいるのでしょう?」


「そんな事は分かっている!! だが、そんな事はどうでもいい!! 君さえいてくれたら僕は――」


「ダメよ、そんな事言っては。もし私と貴方がまた夫婦になったとして、今の奥様が路頭に迷うわ!!そんな事、させられない。それに――」


 一旦言葉を切り、決意を込めてサリュナは言う。


「私にも守るべき人ができたから」


 そういうサリュナの目は潤んでいたけれど、決してその目から涙はこぼれなかった。


「そうか……。」


 カルハジェルは運命を呪いたくなったが、母のようにはなりたくない。ただ、目の前の現実に耐えるのみだ。


「私の代わりに、今の奥様をたくさん愛してあげて、ね?」


「……ああ。」


「もう、カルハジェル!!シャリアール公!!しっかりあそばせ!!」


 そう言って精一杯の笑顔をカルハジェルに向ける。


 !!


 突然カルハジェルはサリュナを抱きすくめ、


「幸せに!!」


 そう耳元で囁いた。


「うん、カルハジェルもね!!」


 それが、2人の別れの言葉だった。


 そっと離れると、どちらからともなくお互いの場所へ帰っていった。


 ◇◇◇◇


 森湖古城フォレス・シャトーからの帰り道。

 トーヴァンとサリュナは、無言で宿に向かっていた。


 トーヴァンは重い空気を何とか打破しようと話すきっかけを必死で探している。


「これから、どうしようか」


 ふと、サリュナが口を開く。


「これから?」


 聞き返すトーヴァンに、


「うん。とりあえず私の両親に改めて貴方を紹介しなきゃね!! 私の夫として。」


「サリュナ……」


「それから、あなたのご両親にもご挨拶に伺わなきゃ!!」


「サリュナ……辛い時は無理しなくていいんだよ?」


「ばか!辛くなんかないから!!言ったでしょう??後悔はしないって!!だから大丈夫!!」


 気丈に振る舞うサリュナをトーヴァンは優しく抱きしめた。


「うん、僕がそばにいる。だから、大丈夫。」


「うん……。」


 長いようで短い時間、2人はずっとそうしていた。


「さ、帰りましょ!」


 既に日は落ちかけていた。

 2人の――そしてカルハジェルの――未来は誰にも分からないけれど。


 その未来が少しでも明るくありますように――


 そんなサリュナの願いを乗せて、夏の夜風が吹き始めた。


 ~完~

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呪い解き«まじないほどき»~月華の獣人(けものびと)~ かなた @kanata-fanks

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