第28話 ~呪い解き~呪いの真実

 ――まさか、こんな?!


 カルハジェルは混乱していた。


 ここは森湖古城フォレス・シャトー謁見の間。


 目の前には睨み合う母と――


 ――サリュナ……生きていた!!


 嬉しいはずなのに今の自分の立場を考えると素直に喜べない。


 自己嫌悪に陥りながら状況を振り返る。


 サリュナが見知らぬ男と共に帰ってきたのが今朝のこと。


 エリルと話がしたい、とサリュナは言った。

 早速エリルを呼んで引き合わせたのだが。

 双方睨み合ったまま微動だにしない。


 と、サリュナが口を開いた。


「お義母様……いえ、エリル様。この際単刀直入に申し上げます。私に獣人化の呪いをかけたのは、貴女ですね?」


 ――獣人化、だと?!


 サリュナをあれだけ探させて見つからなかった理由にようやく合点がいった。


 しかしその呪いをかけたのが母上?! どういう事だ??


「何のことかしら?」


 とぼけるエリルに、サリュナは言い募る。


「ナルネアが遺した手紙に書いてありました。ナルネアの家の禁断の部屋の事も、貴女が私兵を連れて無理矢理その部屋を使ったことも……そしてナルネアの命と魂を奪ったことも!!」


「何だと?!」


 カルハジェルが思わず声を上げる。


 サリュナの獣人化だけでなく、ナルネアを殺めたのも母だと言うのか…あまりの事態に頭がクラクラしてきた。


 ――チッ、あの小娘余計な事を。


 そんな舌打ちが聞こえたかと思うと、エリルが口を開く。


「そう。私が貴女にまじないをかけたの。素敵な呪いだったでしょう!! そして!! 我が悲願達せり!! オーホホホホホホ!!」


 エリルは勝ち誇ったように嗤う。


「…? どういう事です?」


 サリュナは腑に落ちない様子で問う。


「貴女がその姿に戻った、という事はもうカルハジェルと結ばれることが叶わない体になったということ。母娘で私から大切な人を奪おうとした報いよ!!」


 あーっはっはっは!!


 エリルはさも楽しそうに笑った。


「母娘で…?!」


「そうよ! 私の愛しいレイリオを奪った女の娘が今度は私の愛する息子、カルハジェルをも奪おうとしたのだからね!!」


 ――そんな……エリル様がお父様を愛していたなんて!!


 サリュナもカルハジェルも、同時に様々なショックを受けていた。


「つまり、エリル様がかけた呪いは――」


「そう、永遠にカルハジェルとお前が結ばれない呪いよ!! 別に獣人化でなくてもなんでも良かったの。お前がカルハジェルと結ばれることがなくなりさえすればね!!」


 ――!!


「それにしても呪術って素晴らしいわねえ!」


 ?!


 エリルの纏うオーラが禍々しいものに変わっていく。


「願いを叶えてくれるだけじゃなくて、こんなに溢れる力をくれるのだから…!!」


 !!!!


 エリルの姿が異形と化していく。


 その姿は以前夢で見たおぞましい姿。


「まさか……呪術で召喚した悪魔に乗っ取られたのか?!」


 トーヴァンが初めて口を開く。


「乗っ取られた? この私が?? いいえ、あの悪魔ったら、あの小娘の魂じゃ足りないって言い出してねえ。私の魂をよこせと言うから、私が逆に食ってやったのよ!!」


 ――!!


 その場にいる全員が凍りついた。


「なんて事……!!」


「もうカルハジェルと結ばれることが叶わないとはいえ、万が一があるわね。事は念入りに進めなければ! お逝きなさい、サリュナ!!」


 悪魔と同化したエリルはサリュナに襲いかかった!!


 トーヴァンは不測の事態に備えていたかのように歌い始める。


 間一髪、エリルの動きが鈍り、サリュナは食らうはずだった一撃を辛うじてかわす。


 そして距離を取ると指輪に願う。


 指輪から眩い光が弾け、銀製の鎧とレイピアを纏ったサリュナは、動きが鈍ったエリルの喉元を狙った。


「くっ、忌々しい歌ね!!」


 エリルがトーヴァンに狙いを変えようとしたその隙を、サリュナは見逃さなかった。


「エリル様、お覚悟!!」


 エリルの喉元に銀のレイピアが深々と刺さる。


 血の代わりに黒い瘴気のようなものを撒き散らしながら、エリルはそれでも笑っていた。


 ――仕留め損ねど、我が悲願は達せり!!この命に悔いなどないわ!!


 あーっはっはっは!!


 その声を残してエリルは消滅した。


 残された一同は暫し沈黙し。


「少し、サリュナと2人きりにしてくれないか」


 口を開いたのはカルハジェルだった。


 トーヴァン始め、謁見の間の兵士らは、無言で頷くと部屋を去った。

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