第27話 ~遺された手紙~

「お帰りください」


 サリュナを一目みるや、メイド頭はそう言い放った。


 ここはナルネアの自宅である。


 突然のお払い箱に驚き戸惑う2人に、メイド頭は更に言い募る。


「お帰りください、と申しております。ご主人様から貴女に話す事は何もない、と仰せつかっております。どうかお引き取りを。」


「どういうことですか?!ナルネアに何があったんです?何故私達を追い払うのですか?」


「先程申し上げました。貴女に語ることは無い、と。お帰りください。」


 ――貴女のせいでお嬢様は……っ!!


 小さい声だったがハッキリとそう聞こえた。


「?!それは一体どういう……」


 サリュナが言い終える前に、無情にも扉は固く閉ざされた。


 ――一体何があったっていうの?!


 納得は行かないが、ひとまず今日のところは帰るしかなさそうだ。


 門前払いにショックを受けるサリュナを気遣いながらトーヴァンは思案する。


 ――あの家には、何かが、ある。


 そう直感した。


 犯人に直接ないし間接的に繋がる何かが、絶対ある!!


 だか、それを直接探る術はない。


 さて、どうする?


 妙案は浮かばない。


 クラハドール公の邸宅に戻ってきた2人は、何故ナルネアの両親があってくれなかったのか、どうしたらいいのか、を話し合ってみたが、推測の域を出ない話では対策のたてようもなく。

 あっという間に夜が更けていった。



 ◇◇◇◇


 コン、コン、コン!!


 サリュナは妙な物音に目を覚ました。

 時計を見ると、まだ夜中である。再びベッドに潜り込もうとしたその時。


 コン、コン、コン!!


 どうやら窓に小石か何かが当たっているようだ。


 窓を開けて外を見下ろすと。


「あなたは……ミリス?」


 そこに立っていたのはナルネア付きのメイドだった。


「しっ……お静かに!! 夜更けに申し訳ございません。どうしてもお渡ししたいものがございます。降りてきていただけますか?」


「分かったわ、今行きます。」


 そう言って2階の自室から1階の玄関を出て窓側に回る。


 ミリスを見つけるや、


「どうしたの? こんな時間に。勝手に外出しては怒られるのではなくて?」


「お屋敷務めはお暇頂いておりますのでご心配なく。」


「ええ?! 辞めたの?? …ナルネアが亡くなったから?」


「それもありますが、我が主、ナルネア様から預かり受けた物を、サリュナ様にかならずお届けするためです。」


 そう言って、一通の手紙を差し出した。


「確かに、お届け致しました。」


「ありがとう!」


 感謝を述べると、ミリスは


「全ては我が主、ナルネア様の為でございます。」


 そう言って去っていった。


 サリュナは急いで手紙の封を切ると、早速読み始めた。


 ――親愛なるサリュナ


 あなたが生きてこの手紙を読んでいることを心から強く願います。


 この手紙をあなたが読む頃、私はもうこの世にはいないでしょう。


 そしてあなたの身に何かしらの災いが降り掛かっていると思います。


 なんでそんなことが分かるかって?


 それを語るには我が家の秘密をも語らねばなりません。


 我が家には長年立ち入りが禁じられた部屋があります。


 そこには古の呪術の知識と呪術を行う施設とを封印するための部屋だった、と私も最近知りました。


 なぜなら、その部屋のことを嗅ぎつけて使わせろ、と言ってきた人がいたからです。


 勿論私達一家は首を横に振りました。


 ところがその人は、直接私兵を連れて我が家に押し入り、制止を振り切って禁断の部屋を開けてしまったのです。


 その人は私に言いました。


「私の代わりにサリュナに呪術をかけてくれたら、お前の愛しいカルハジェルと結婚させてやろう」


 と。


 私は動揺しました。


 確かに私はカルハジェルが好きだった。あなたを妬ましく思ったこともないとは言えないから。


 けれど、それ以上にあなたが好きだから。

 あなたに幸せになって欲しかったから。


 キッパリ断ったら、その人は私の体の一部(多分髪の毛か何かかしら)を手に入れたらしく、それを触媒に私の魂を贄としてあなたに呪術をかけてしまったの。


 幸い即死することはないようだけれど、少しずつ自分の魂が消えてゆくのがわかるわ。


 もう長く持たないなら、真実をあなたに届けたくて筆をとったの。


 あの人がどんな呪いをあなたにかけたのかは分からない。でも、相当禍々しい光が部屋から漏れていたし、下手をしたらあなたの命がなくなるのではないかと、それが一番心配です。


 そうでなくても何かがあなたに起こっているはず。


 あの人を止められなくてごめんなさい。


 でも、最後まであなたの親友であれた事を誇りに思います。


 あなたとカルハジェルが幸せに暮らせますよう、呪いが解けますよう、心から願っています。


 あなたの親友、ナルネアより。


 追伸 エリルおばさまに気をつけて――




 手紙はそう締めくくられていた。



 涙が、止まらなかった。


 やはりナルネアは無実だった。

 それが嬉しくて。


 カルハジェルと幸せになれなかった自分。

 それが悲しくて。


 同時にナルネア宅で門前払いにされた訳も何となく理解した。


 ナルネアは私に呪いをかけるために犠牲になった。


 ――お義母様に気をつけて、ってまさか……?!


 いつもニコニコ笑っていた義母。

 2人の結婚が決まった時も、ニコニコと祝福してくれていた、はずなのに。


 ――直接会って聞くしか、ない!!


 そう固く決意したサリュナは、翌朝トーヴァンに事の経緯を話し、アルーナ・ディエスへと向かう。



 目指すは森湖古城フォレス・シャトー!!


 真実を問い質す為に!!

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