第22話 ~悪夢からの目覚め~

 ――サリュナ、サリュナ……


 誰かが、呼んでる――


 男の人の声。お父様?ううん、違う。


 なんだろう、聞き覚えがあるのに思い出せない。

 でもとても安心する…不思議な声。


 ――カルハジェル?


 !!!カルハジェル!!!!


 その名前に意識が急に収束し始める。


 すると、目の前に深紅の人影が現れた!


 ドレスらしきものを纏っているので、女性だろう。


 ――!!


 その人影のあまりの醜さに声も出せないサリュナ。


 醜い女性の人影は、おぞましい、そしてどこかで聞いたような声でハッキリとこう告げた。


 ――に、カルハジェルは、渡さない!!!!


 あーっはっはっは!!!


 高笑いを残してその人影は消えた。


 ――カルハジェル!!どこなの?!


 必死で探すけれど見つからない。


 どこ?どこなの??


 ――リュナ、サリュナ!!


 違う、この声は……


「トーヴァン??」


 そう声に出して、ハッとする。


 ここは、どこだろう?

 確かあの時、黒い影と戦って、右手の指輪がツメに……


 ツメはもう指輪に戻っていて。その右手をしっかりと握りしめたまま、トーヴァンが寝息を立てていた。


「おや、目、覚めたかい?」


 その声にサリュナは覚えがあった。クレイニースの宿屋の女将だ。


「はい」


 と答えながら、ようやく自分が置かれた状況を理解する。


 そっか、私大怪我したんだっけ…


 !


「今日は!! 何日ですか?! 私が倒れてから、何日経ちましたか??!」


「ちょうど3日だよ。お医者様が言った通りだ、流石だね。」


「3日……」


 思ったより経っていなかったことにホッとする反面、時間をロスした焦りが再び湧いてくる。


 それを知ってか知らずか、女将が再び口を開く。


「そんなことより、トーヴァンさんが起きたら、ちゃんとお礼いいなよ?あの細っこい体であんたをここまで背負ってきた上に医者まで探してきて。あんたの手を握って意識が戻るの待ってたんだ。もう傍から見てて可哀想なくらい憔悴しちゃって。よっぽどあんたが大事なんだね!」


 ふふふ、と笑いながら女将は若いっていいねえ、とか言いながら去っていった。


 ――トーヴァン……


 複雑な思いで寝顔を見つめる。


「トーヴァン、ごめんね、ありがとう。」


 そっとつぶやくと、


「サリュナ!!」


 ガバッ、とトーヴァンが起き上がった。


「あ、起こしちゃった? ごめんね。」


「サリュナ! 目が覚めたのかい?! 良かった!!」


 そう言ってサリュナを思わず抱きしめそうになって、やめる。


「ご、ごめん。」


「ふふっ! いいのよ。」


 そんなことより、ロスした時間が惜しいサリュナ。


「トーヴァン、出発できる?」


「待ってサリュナ、君は完治5日だそうだ。まだ3日しかたってないんだ。しっかり休んでからにした方が…」


「私なら大丈夫!!」


「でも……」


「何だか悪い予感がするの……だから、一刻も早く帰りたい……!!」


「……分かった。ただ、念の為、竪琴の弦の張替えだけさせてくれ。道中襲われたら困るし。」


「そうね、分かったわ。」


 かくして、トーヴァンの竪琴が治り次第、出発することとなった。


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